居場所
ボクには何もなかった。
あるとすれば、60人の犠牲を伴い生き残った事実。
何故、ボクが生き残った。
ボクはこれからどうすればいいんだ。
ずっと、ずっと、暗闇の中にいた。
明るい場所に出たはずなのに、以前よりも暗闇の中にいる気がしてならない。
だったらいっその事、暗闇の中で過ごしていたかった。外の世界に何ていたくない、戻りたいと思ってしまう。
そんな時にあなたに出逢った。
ボクよりも少し上だったあなたは実年齢よりも大人に見えた。手を差し出してくれて、ボクよりも少しだけ大きい体で一生懸命包み込んでくれて、それはとっても柔らかくて、暖かくて、何かが自分の中で溢れそうになった。
そうして、語りかけるようにあなたは言葉を紡ぐんだ。
甲の居場所はココだよ。
今日から君の居場所はココ。
みんなの犠牲の上でたった一人生きている…。それは罪じゃない、君は、甲はそれを乗り越えたの。だから前を向いて、前に進んで。亡くなった人、亡くなった子達もきっとそれを望んでいる 。
辛いときは泣けばいい。居場所がないならわたしが作ってあげる。甲が自立するまで、大丈夫って笑って言えるその日まで、わたしが傍にいる。わたしが甲の居場所になってあげるから。わたしと家族になろう!
この時、ボクは思った。
生涯この人の傍にいたいって。
「…名無しさんさん」
「名無しさんでいいよ、甲」
「…怖かった、寂しかった…外に出れてもボクの居場所なんてないと思った」
「…うん」
「ボクは生きていいの?生きる理由が…」
「理由がなきゃ生きちゃダメなの?…わたしは甲がいなきゃ寂しいしヤだ」
むすっとした顔でボクを睨むと同時に、また暖かい感触。ぎゅうっと抱き締められた。
「名無しさん…さん、あったかい」
「あったかいよね…甲が生きなきゃ、このあったかいの感じられなくなる。だから生きてくれなきゃ困る」
「すごい、こじつけ…」
「むぅ、悪い?」
「あはは…悪くないです。…ねぇ、名無しさんさん。またこうやってぎゅうってしてくれますか?」
「もちろん」
煌めく笑顔で答えるあなた。だけど実際の所どうでも良かった。何故なら、何時か大きくなったボクがあなたを抱き締めると誓ったから。こんな子供のままごとじゃなくて、もっと濃厚な抱擁をするって。
…少しずつ、生きる理由を見付けていこう。
どう転がるか分からないけどれど、それはあなたへの恩返しでもあり、ボクの為でもある。
fin
20170702
←|→
[back]