君が遺してくれたもの
ボクの世界は暗闇、黒一色で常に孤独だった。だけど君に出会って一転した。色鮮やかに世界が染まったんだ。
そして君は、ボクの中で一番大切な人になる。
幸せだった。
君の為なら死ねる何てクサい台詞を吐くわけじゃないけど、それほどボクの中では大きな存在になっていた。特に何をするわけでもない、ただ君が傍にいて笑っていてくれるだけで良かった。
それなのに…
「…死んだ?」
ある日、君は任務中に殉死した。
嘘だ、信じない。
「ボクの元からいなくなったなんて、嘘だ…!!」
泣いた、叫んだ、荒れ果てた。
君はボクの全てだったのに、君がいない世界でどうやって生きろと?
あぁ、ボクもそっちに逝こうか…
クナイを首元に添えた。
ゆっくりと力を込めて、突き刺していく。
血がポタリと滴り落ちるが、不思議な事に痛くなかった。
「…パパ?」
「…!!」
「血でてる…怪我してるの??だいじょうぶ??」
「っ、あぁぁ……」
小さな手がボクの身体に触れる。
その瞬間、膝から崩れ落ちた。
「いたいの?パパ?泣かないで…」
「ごめん、ごめんよ、名無しさん」
君はもういない。
だけどボクと君との間には子供がいた。
ぎゅうっと、力強く抱き締める。
「ママがいなくなったから泣いてるの?」
「…うん、悲しくて悲しくて…名無しさんは悲しくないのかい…?」
まだ幼い我が子、君がいなくなった本当の意味を理解していないはずだ。きっと、何処かに遠出をしただけだと思っている。
「悲しいけど…名無しさんにはパパがいるもん」
「!」
「ママがいなくなったのは悲しいよ、ママのこと大好きだったもん…でも、それと同じでパパのことも大好き!だから平気!パパがいるなら、悲しくても、一人じゃないからだいじょうぶなの!」
「名無しさん…!!」
あぁ、ボクは何てことをしようとしていたんだ。
君を失った悲しみに囚われ、こんなにも純粋に愛情表現をしてくれる名無しさんをおいて逝こうとした。
そうだ、もうボクは独りじゃないんだ。
独りだけの人生じゃないんだ。
君が残してくれた、大事な娘がいる。
「ボクも、名無しさんが大好きだよ…」
「えへへ!」
君の面影を持つ娘の名無しさん。
笑うと本当にそっくりで…
正直、ツライ。
ボクはまだ、君を失った悲しみから立ち直れていないから。
「ごめんね、情けないパパで」
「なさけなくなんかないよっ!名無しさんのパパは優しくて、強くて、少しヘタレなところがあるけど最高の男なんだから!」
「それ…」
「ママがいつも言ってた!だからパパはなさけなくなんかない」
「…ありがとう」
いくら想っても願っても、君は戻って来ない。それでも、残してくれたものがあるって気づいた。
だから生きる。
名無しさんの為にも、君の為にも。
きっとこのままボクが君に逢いにいっていたら怒られていただろうね。
【どうして、あの子を独りにしたの。孤独の怖さ、ツラさを一番知っているのは、ヤマトでしょ?】って。
そうだった、ボクは君に会うまでずっと孤独だったのに、それを愛しい我が子にまで…過ちを起こすところだった。
「名無しさん、ママはもういないけど、ボクが…パパがこれからずっと傍にいるから。ママの代わりに君を守る」
「うん!!」
この子は賢いから、きっとすぐに本当の意味を理解するだろう。
ツライよね、悲しいよね、でも独りじゃないから…
「パパがいるから」
それだけは、忘れないで。
「んっ、パパ、くすぐったいー!」
「我慢して」
名無しさんを抱き上げ、額にキスをして頬ずりをした。子供特有の高い体温が心を落ち着かせる。
「もう!」
「ふふ、ムキになる姿…ママにそっくりだね」
天国にいる君へ。
泣いていないかな?泣いていたらごめよ。
でも君の事だから、我が子をおいてこっちに来る最低男なんて願い下げだ!とか罵声を飛ばすんだろうね。
どうやら、ボクが君の元へ逝くのはまだまだ先のようだ。
ボクは、ボクにしか出来ない任務を…って、任務はないか。
仕切りなおし…
ボクは父親として責務を果たす。
名無しさんが立派に育つまで、傍にいて見守り続ける。まぁ、ある成長して思春期とかになると父親なんてウザがられるんだろうけど…
それでもいい、どんなにウザがられも嫌われても、ボクは必ず傍にいる。
決して独りには、孤独にはしない。
君だってそうしただろ?ボクにしてくれたように…
結果的に君は先に逝ったけど、名無しさんという愛の結晶を残しておいてくれた。
ボクら二人の宝物だ。
だから君も、そっちから見守っていてね?
そして、全てが終わった時には…
「笑顔で迎えて…」
「パパ?」
「…ねぇ、これから先ツライ事も悲しい事もたくさんあると思うんだ。もちろん泣いたっていい、だけど最後は笑ってほしい…約束出来る?」
「笑うんだね、わかった!じゃあ、パパもね!」
「ボク?」
「うん、パパもツライ時とか悲しい時はガマンしないで泣いてね!それで笑って!!」
「っ!…ボクは君たちには敵わないや…」
小さな我が子を抱き締めながら、涙を流す。
君がいなくなった事実は受け止められたけど、そう簡単に前を進むことは出来ないから…
せめて、思う存分泣かせて。
「どこか、いたいの…?」
「うん、痛い…胸が痛いんだ…だから、泣いていいかい?ちゃんと最後には笑うから…」
「笑うならいいよ、約束だもんね!」
「ありがとう…っ、う、あああぁ…!!!!」
弱くてごめんね。
でも明日からは、ちゃんと前を向いて進むから安心して。
「…名無しさん」
「なぁに、パパ」
「愛してる」
ずっと、ずっと、どんな事があろうとも、ボクは二人を愛してるから。
それは決して、変わる事はない。
fin
20170301
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