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一番じゃなくても


君は嘘が下手だね。
何故、言い切れるって?

だって、そんな寂しげな笑顔をボクに向けるんだもん。



「…今日こそは…」



いつもと変わらない朝、ボクは里を歩く。
空を見上げれば清々しい青空が広がる。
こんな日には、任務も忘れて何処かに行ってしまいたくなるのは誰だってそうだろう。
ちょっと浮かれたような気持ちになる中、向かう先。


それは一



「……」



遠目からでも分かる君は、ボクの想い人。
そんな彼女の目の前には慰霊碑。
ここは英雄とうたわれ、静かに眠る者達がいる場所だ。



「…ヤマト」

「邪魔しちゃったかな、名無しさん」

「そんな事ないの分かって言ってるでしょ?ちょうど帰ろうとする時間帯狙って来るクセに…あざといんだから」

「はは、それはゴメンよ?」

「もう慣れたからいい」



淡々としたそっけない会話、だけど決して怒ってる訳じゃないと長年の付き合いで分かる。



「…何年だっけ」

「んー…ヤマトが告白してから?」

「残念、彼が亡くなってからだよ」

「………」



無言のまま、無表情のままボクを見据える君。
このやり取りが、彼女をそんな風にさせると分かってやっているボクは酷い男なのかもしれない。



「何年なんだろうね…」



その顔は相変わらず無。

ボクを見据える瞳は、ボクを見てはいない。
きっと、今はもう居ない彼を見ているんだろう。
本当はこんな表情も、ボクを見ない瞳も見たくはないと心の奥底で思う。



「ねぇ、名無しさん。忘れられなくてもいいんだ…。ボクを一番に想わなくてもいいんだ…だから」

「ヤマト」

「…なんだい」

「いい加減付き合おうか?」



それはずっと待ち望んでいた言葉。
なのに嬉しくないのは、その後に続く言葉がきっと彼女の本心じゃないから。



「彼の事、もう、好きじゃないしさ…。私もヤマトの事、好きだし」



好きじゃないと零し、また慰霊碑の方を向く。そうして君の後ろ姿がボクの視界に入る。

あぁ、そんな強がりなんてしなくていいのに。



「名無しさんは、嘘が下手だね?」


儚くて、今にも消えそうな背中を大きな腕で包み込む。



「ちょっと、人が好きって言ったのよ…?」

「じゃあこっち向いて笑ってみて?」

「……」

「ほら、笑えてないよ?名無しさん…さっきも言ったけど一番じゃなくていいんだ、忘れられなくてもいいんだ…」

「そんなの、ヤマトを利用してるのと同じじゃない…」

「知ってるよ」



その言葉に苦笑。

君の心を埋め尽くすのは今は亡き彼。
それに勝てる訳ないのは十分承知。


でも、それでも…



「それ以上に…君が、名無しさんが好きなんだよ」

「っ……」

 

細い四肢を先程よりも強く抱き締める、震えながらそれに応えるように腕を回す君。

そう、ボクはただ君が純粋に好きなんだ。
ただ、純粋に君の傍にいたいんだ。

例え、彼を忘れられなくても…
そんな君を丸ごと包むから。



「だからボクを君の彼氏にして下さい」



fin




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