不器用な君を
知ってるんだよ。
君が本当は脆くて、いつも一人で耐えている事を。
弱音を吐きたくても、吐けない。
大声を出して泣きたくても、泣けない。
忍だから上忍だからと、何かしろ理由をつけてここまで来たんだろう。
確かに忍がそう簡単に感情を露にしたり、囚われたりしてはいけない。
だけど限度ってものがあるし、時には全てを吐き出してリセットする事も必要だ。それをしないのは、プライドが邪魔をするんだろう。
「あとは…甘える事を知らないのかな?」
「ヤマト…それ独り言?それとも私に言ったの?」
「ふふ、名無しさんはどっちだと思う?」
「どっちでもいいよ…。っていうか早く帰ろう…疲れた」
「つれないなぁ」
「つれないって…私が悪いの?」
久しぶりの名無しさんとのツーマンセル。
任務を無事終えて、他愛無い会話をしながら里へ帰るところ。
互いに実力もあり同じ任務に就けるなんて数少ないし、プライベートの交流だってあまりない。つまり、今は彼女と会話をする絶好の機会。もちろん同じ里の忍なので顔を会わす事はある。ただ親密にという関係でもないので、気軽に話す事はない。
ボクは常々話したいと思っているが、名無しさんはそれを望んではいない。
誰も寄せ付けないオーラ。
心を開いてない証拠。
正直、それが好都合と思っている。
君を理解しているのは、理解していいのはボクだけでいいんだ。
だからこそ、支えてあげたいと強く思う。
「ね、名無しさん」
「はぁ、今日はよく喋るね…」
「ボクは元々喋る方だよ?君が喋らなすぎなんだよ」
「そう?気にとめた事なかった」
「自分の事になると鈍いよね…まぁいいや、とりあえず止まって」
「えっ、ちょ!」
ボクの前を軽快に駆ける彼女の手首を掴み、行動を止めた。
いきなりの出来事に戸惑いながらも、姿勢を崩す事なくバランスを保ちこちら見る。
正確には睨むといった方が正しい。
「あのさ、ボクにだけ弱音を見せないかい?一人で抱え込まないで泣いたりしなよ」
「…今日のヤマトはなんか変だと思ってたけど、その理由がやっと分かった。頭打ったでしょ?」
「残念ながら正常だよ?」
「じゃあ、変な物でも食べたとか」
「それもないね」
「じゃ、じゃあ…」
「動揺しすぎだよ、名無しさん。ボクそんなに変な事言ったつもりないけど」
「あるよ!」
「なにが?」
「弱音、とか…」
「だって全部、解ってるから。心はずっと泣いて悲鳴をあげてる事を」
任務でどんな傷を負おうとも、揺らぐ事は無い。君が揺らぐのは、死傷者を出した時。
誰にも非難されるわけでもないのに、守れなかった、どうして私が死ななかったんだ!と自分で自分を追い詰める。
そう…他人を思いやる、君は本当はとても心の優しい人間なんだ。
「泣いてなんか…」
「だったら、今から泣こう?ボクが受け止めてあげる」
「っ…」
掴んでいた腕を離し、両手を広げた。
「ほら、おいで?」
全部受け止めるさ。
プライドが邪魔をして甘える事さえも知らない、そんな不器用な君を。
一人で耐え凌ぐ、日々はもう終わり。
感情のままに、泣いて吐けばいい。
何も心配しなくていい。
君は一歩踏み出せば、それでいいんだよ。
後はボクが受けとめて、そしてボクの愛で包み込んであげるから。
fin
20150903
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