君の世界をボクだけにして
暗部の中で秀でた者というのは任務も最高ランクのものばかり。常に死と隣り合わせだ。だから君がいつかボクの前から姿を消してしまう日がそう遠くないということはわかっていた。
「死亡者2名、行方不明者1名」
君が難易度SSランクの任務から帰ってこなかったその日、僕の世界は終わりを告げた、筈だった。
「名無しさん、帰還いたしました」
一ヶ月後、傷だらけの君が帰ってきた。誰もが死んだと思っていた中、君は足を引きずり片目を失って帰ってきた。僕の傍に帰ってきてくれた。嬉しくて、けれど傷だらけの君を見るのが辛くて、ボクの視界は涙で滲む。眼帯を当てられた痛々しい右目。包帯でぐるぐる巻きにされた左足。松葉杖を使って歩く君は暗部として生きていくことは難しいと上層部の判断で医療班へ回されたね。うん、君の医療忍術は秀でていたから納得だ。でも自分のために使わないなんて本当に馬鹿だなあ。
「テンゾウ、笑って?」
別れの日。君はボクにそう言って、優しく額当てに口付けを落としてくれた。涙顔で笑ったボクを見て君も笑ったね。ねえ、知ってるかい?ボクは君の笑顔が大好きなんだよ。
それから暫くして、ボクにもいろいろあって暗部を抜けた。綱手様の下で働く君は今なにをしているのか、なんて思いながらボクは新しく与えられた任務に就く。カカシ先輩の教え子たちを教えることになったって言ったら君はきっと驚くだろうな。特にサクラは君と同じ医療忍者を目指しているようだから時々君と同じような雰囲気に見えて少し懐かしく、寂しくなる。ああ、どうして君に会えないのかな。こんなに君が好きなのに。
こんなに僕が君を好きなんて君は知らないだろう。だから君がボクの知らないところでまた傷だらけになっていることに気がつかなかった。知ることさえできなかったんだ。
「君を好きだよ……君を、こんなに好きにさせておいて、君はまた無茶をして……っ、ボクの知らないところで……そんな、っ」
「テンゾウ……今は、ヤマトだったかな?……ごめんね、私もヤマトが好き。でも、その前に私は忍。医療忍者なの。人を助けるのが私に出来ること。それを全力でやったのだから、後悔なんてしていないわ」
流れるような告白に一瞬驚きもしたけれど、それ以上に目の前の彼女が紡ぐ言葉がボクにはとても残酷で、彼女にとっても残酷なものだとわかっていた。けれどそれはボクには到底理解できなかった。大切な人が自分の身を犠牲にしてまで守ったものをボクは果たして許すことが出来るのだろうか。唇を噛んで俯いた。涙が溢れそうだ。
「けど……っ!!」
声を荒らげて彼女の肩を掴んだ。彼女の肩はボクの掌に収まるほど小さく、細かった。だけど気にせず強く掴んだから彼女の眉間に皺が寄った。そして君はボクの腕を片手で掴んでこう言った。
「後悔するようなことだと思いたくないの……私の最後の任務だったんだから」
目の前の君は左腕を無くし、最後の光も失った。そんな彼女を上層部は忍として生きていくことはもう難しいだろうと判断した。そんな君に対して、ボクの選択はもう決まっている。いや、こうならなくても決まっていたんだ。
「ボクが……ボクがずっと、ずっと守るよ。もう誰にも君を傷つけさせない」
「ヤマト」
「そうさせてくれないか?ボクは忍、君はもう一般人だろう?」
今度はボクが君の額に口づけた。ごめんなさい、ありがとう、と涙を流して呟く君の唇にも口づけをする。
「謝らないで、君のその唇はボクに愛してるって言うためにあるって、知ってたかな?」
「っ……ヤマト、愛してる、本当に、ありがと……う、っ」
茶目っ気を含んでまた口づけると君はボクに愛してると言ってくれた。ああ、その言葉が聞きたかった。どんな報酬よりも、その言葉がボクの心を満たしてくれる。何も映らない君の世界にはボクだけがいればいい。だからボクは君を一生涯守り続けるとここに誓うよ。
君の世界をボクだけにして
二度と光の映らない世界でボクが君の光になれたらいいと、心から思う。
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診断メーカー「3つの恋のお題ったー」より
ねえ、わらって/こんなに好きにさせておいて/君の世界を俺だけにして
AJISAI/碧様より
誕生日夢として頂きました!!
相変わらずシリアスが上手い…切なくて胸が痛い、だけど其処に溢れんばかりの愛情があって…もう、泣くw本当にありがとうございますーー!!!
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