「ヤマトさん、おはようございます…!」
「…おはよう…名無しさん」
控えめな声が聞こえ目を開けると、そこにはパジャマ姿の彼女がいた。
時計を見ると、まだ夜明け前の時間。
「どうしたの、眠れなかった…?」
「あ、いえ…そうじゃなくて早速、修行に付き合ってほしいんです!」
何となく予想はしたが、ドンピシャで苦笑する。
すぐに応答せずに、んーと顎に手を置いて考える。
「あのさ、そんなに慌てなくてもいいんじゃない?…コントロールしたい気持ちも分からなくないけど、今の名無しさんは明らかに焦っている。そんなんじゃ上手くいくものだって、いかないよ。ボクの言いたい事、分かるよね?」
「…でも」
「それに、期限のあるものじゃないだろ?だから当分はゆっくりしよ?それとも、ボクとゆっくり過ごしたくない?」
「そんなわけないです…!ただ、私は…」
「吸血鬼の末裔だからとか?…名無しさんは名無しさん、そうだろ?少なくともボクは君が何者であろうとも関係ないよ」
「…ヤマトさんはホント優しい…。私、頼ってばっかり」
「頼られて嫌な男はいないと思うよ?というより、ボクはもっと頼ってほしいかも」
君はきっと分かってないと思うけど、ボクはもう名無しさんがいない生活なんて考えられないんだ。
いつだって自分より人の事を考える優しい君。
他の人との関わりはあまりないから、それは必然的にボクにだけ向けられる。少しの優越感。コントロールさえ出来れば、自信だって身につく。そうすれば今以上に行動出来る範囲も増える。でも人と関わりが増えれば増えるほど、相手に身を呈していくんだろう。
ボクは本当はズルい、その優しさを自分だけに向けて欲しいと思ってる。
そんな事、出来るわけもないから…だからもう少しだけ、君を独り占めしたいんだ。
ごめんね?
「…もっと頼ってもいいんですか?」
「もちろん、むしろ甘えてもいいよ。あと敬語、そろそろなくそうか?他人行儀みたいで何か嫌だしね」
「え…うっ、うん…。じゃあ…一緒にどこかに行ってみたい。その、有名な所じゃなくて、ひっそりとした…二人だけになれるような所」
「わかった、探しておくね」
お出掛けしたい、だけどあえて二人だけになれる所をリクエストする君。
あぁ、心が潤う。
ねぇ、これからもし知り合いが増えても、そうやってボクの事は特別扱いしてくれるかな?
そうだと嬉しいな。
「…よし、まだ朝も早いから二度寝しよ?」
「えっと…朝早くごめんなさい…」
「じゃあ…お詫びとして一緒に寝てくる?」
「…なっ!」
「ハハハ、冗談だよ。でもそうやってずっとボクの部屋にいるならベッドに連れ込んじゃうよ?」
「おおお、お邪魔しました!」
真っ赤になったた顔のまま部屋を飛び出す名無しさん。
それを笑いながら背中を見送る。
「…や、ヤマトさん!」
「ん?」
「…おやすみなさい、ありがとう」
彼女は男を喜ばす天才かもね。
「あぁ、おやすみ」
いつになく心が満たされていた。
外を見ると、朝日が少し顔を出したぐらいだろうか。
もう少し寝ても大丈夫だろう。
いい夢見れそうだ。
ぐっすりと熟睡し、任務に遅刻したのはいうまでもなかった。
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