王子様のおまじない


「お聞きになりました? 陛下がクリスティーナ様との結婚を西園寺様に打診されるとか」
「ええ、クリスティーナ様たってのご希望と聞いております。西園寺様が日本にお戻りになる前に、お話だけでもと陛下に懇願されたそうですわ」

 まじか。西園寺モテモテじゃん。
 クリスティーナ様とは何度か食事の席をご一緒した事がある。その時も確かに西園寺に熱い視線を送っていた。そのくせ西園寺と目が合うと真っ赤になって俯いてしまって、可愛らしい人だなと思って見てたけど。
 まさか王様に結婚をせがむほど惚れ込んでいたとはなぁ。まぁ分かる。西園寺かっこいいもんな。そのうえ所作も綺麗で色気もあって文武両道。完璧すぎてうちのクラスでは王子って呼ばれてた。こっちに来てからは、ややこしいからちゃんと西園寺って呼ぶようにしてるけど。

「けれどクリスティーナ様のお気持ちも分かります。西園寺様のあの蠱惑的な眼差しといったら」
「ええ、あの濡羽色の瞳に見つめられたら、それだけで恋に落ちてしまいますもの」

 二人のおしゃべりにそっと耳を傾けていたら、片方がこちらに気付いて「柳様」と声をかけてきた。

「お一人でいかがされました?」
「ええと、いま西園寺が陛下と謁見していまして」

 オレの言葉に二人が一瞬色めき立った。分かる。さっきの噂が本当なら、今ごろ結婚話を持ち掛けられている事だろう。

「なので彼が戻るまで宮殿の中を見て回ろうかなと。もうすぐここともお別れですから」
「あぁ……そうですね。こんな事を言う資格はわたくし共にはございませんが……寂しくなります」

 そっと目を伏せる二人に「私もです」と頷いてみせる。
 この世界に召喚されて約半年。言ってみれば拉致されてきた訳だけど、みんな最大限の礼を尽くしてくれたと思うし、異世界人じゃないと魔王を倒せないという事情もまぁ百歩譲って飲み込めた。
 とはいえ西園寺やオレに何かあったら絶対に許せなかっただろう。西園寺が無事に魔王を倒せて本当に良かった。

「日本に戻れるようになるにはまだ少しかかるようですから、それまでよろしくお願いします」

 二人と別れて大広間を抜け、英雄の間へ入る。その正面には魔王を討ち取る西園寺の絵が飾られていた。
 折り重なる数多の兵士の上に立つ屈強な魔王、それを槍で一突きする光輝く西園寺。端の方にはオレの姿も描かれている。

「話に聞いた通り素晴らしい絵ですわね」

 後ろからの声に振り向くと、小さなご子息を連れたサロット夫人がいらっしゃった。

「サロット夫人、お会いできて光栄です」
「わたくしもです。もうすぐお戻りになると聞いておりましたから、その前にお会いできて嬉しいわ」

 西園寺が各所へ遠征してる間、特にする事もなかったオレは貴族の方々の話し相手になっていた。サロット夫人もその一人で、ご友人とのお茶の際に何度か呼んで頂いた事がある。

「こちらへは絵を見に?」
「ええ、この子がどうしてもと聞かなくて。それに西園寺様の勇姿が描かれているとなれば、わたくしも見ない訳にはまいりませんもの」

 噂以上の神々しさですわ、とため息を漏らすサロット夫人。ご子息もキラキラした目を西園寺の絵に向けている。未婚の令嬢どころか人妻とその子供にまでモテモテとか、末恐ろしいな西園寺。

「あ、実は右端に私も描かれているんですよ。お分かりになりますかね」
「まぁ本当。柳様もその場にいらしたのね」

 夫人の言葉にご子息がキラキラの目を向けてきてちょっと焦る。

「あ、いえ、私は宮殿にいたんですが、気を効かせて描いていただいたようでして」

 案の定、夫人の横でご子息が少ししょんぼりしてしまった。期待させちゃってごめんな。

「まぁそうでしたの。西園寺様が魔王を討ち取った時の勇姿をぜひお聞かせ頂きたかったのだけど」

 それなら西園寺本人に聞いてるから話せなくもない。けど、実際はこの絵みたいな派手な戦いがあった訳じゃなく、国中に充填した聖なる力で魔王を包み込んだらしいとか、手のひらサイズに圧縮されたそれをギュっと握り潰して消滅させたらしいとか、そもそも魔王は筋骨隆々どころか実体のない黒い靄だったらしいとか。つまりこの絵は完全なフィクションで、西園寺が凱旋したその日には既にこの部屋に飾られてたから、ずいぶん前から理想の英雄像として制作してたんだろうとか。
 キラキラお目目のご子息を前にそれを言うのは憚られるのでそっと口をつぐんでおいた。

 英雄の間を出た後は庭園を見てまわったり、礼拝堂で第三王子に日本の話をせがまれたりして、気付けば太陽が真上を通りすぎていた。
 もう謁見も終わってるだろうし、そろそろ部屋に戻ろうかな。そう思ってたら後ろから「柳」と声をかけられた。

「どうしたのこんな所で」
「お疲れー。散歩してた。今から帰るとこ」

 そっか、と薄く微笑んだ西園寺がスルリとオレの腰に手を回す。触れられた所がゾワッとして危うく変な声が出そうになった。
 もともと王子とあだ名が付くくらい王子度が高い西園寺だけど、貴族に囲まれて過ごしてるせいか近頃はそれがどんどん加速してる。他所でもこんな調子だろうからそりゃ女性にモテるはずだ。
 とは言え男のオレにまでエスコートはさすがにないので西園寺の手をペチペチ叩く。

「あぁ、ごめん。つい」
「ついで男の腰を抱くんじゃありませんよ」
「柳に触ってると落ち着くんだよね」

 はたかれた手で今度は肩を抱いてくる。近すぎてちょっとソワッとするけど仕方ないのでそのまま進む。
 たぶんオレを召喚に巻き込んでしまった負い目とか、唯一の同郷だからとかで距離感バグってるんだと思う。けどそれもあと少しの事だ。こっちに来る前は殆ど話したこともないようなただのクラスメイトだったから、日本に帰れば自然と元に戻るだろう。
 いやそれはちょっと寂しいな。仲のいいグループは違うけど、ちょこちょこ話すくらいの関係にはなれるかな。

「そうだ。日本に戻るゲートだけど、明後日には使えるようになるって」
「まじか」

 予定だとあと一週間はかかるはずだったのに。わー、わー、まじか。急ピッチで進めてくれるって言ってたもんな。そっか。そっかぁ。

「これも西園寺が魔王を倒してくれたおかげだな。ありがとう」
「オレは柳がいたから頑張れたんだよ。こちらこそありがとう」

 横を歩く西園寺にお礼を言ったら品のある微笑が返ってきた。お礼を言われるような事なんて何もしてないけど、わざわざ否定するのもなんだから笑って返しておく。
 オレは西園寺の召喚に巻き込まれてこっちに来た。だから西園寺と違って聖なる力とかも使えなくて、西園寺の帰りをただ待つ事しか出来なかった。巻き込まれただけとはいえ不甲斐ない。
 でも同郷のオレがいた事で少しでも西園寺の心の支えになったなら、こっちに来た甲斐はあったんだろう。

「そういえば西園寺、お姫様に結婚申し込まれたって?」

 さっき聞いた話を振ったら「耳が早いね」と返ってきた。まじのやつだったか。

「すげーな。本当に王子じゃん」
「はは。ありがたい話だけど」

 その言い方だと断っちゃったか。そうだよな。お姫様は気の毒だけどこればっかりは仕方ない。

「もう日本に帰るもんなぁ」
「うん。オレには柳がいればいいしね」
「うわ出たよ常套句」

 良家の美女に言い寄られた時も、豊満ボディにすり寄られた時も、舞踏会で引く手数多だった時も同じように言っていた。女性の誘いを断るのにちょうどいいのは分かるけど、よからぬ噂が立つから止めてほしい。
 でももう関係ないか。だって日本に帰るんだから!


☆☆☆


「その常套句も今ので聞き納めかなぁ」

 そう言って笑う柳を横目に見る。日本に戻れば言わなくなくなるとでも思ってるんだろうか。思ってるんだろうな。

「向こうって今どうなってるんだろ。オレら半年行方不明って事になってるのかな」
「どうだろう。その辺は戻ってみないと分からないな」

 日本に戻れるのはオレも嬉しい。向こうに戻れば家族や友人もいる。それは柳も同じで、家族や友人や、もしかしたら好きな子なんかもいるかもしれない。

「西園寺様、柳様、お帰りなさいませ」

 部屋へ戻ると中から使用人の女性が出てきた。オレが謁見している間に掃除してくれていたらしい。

「丁度よかった。帰るまでに少しやりたい事があるので、ゲートが使えるようになったら呼んでもらえますか。食事は外に置いておいてもらえれば大丈夫ですから」

 柳の肩を引き寄せながらお願いすると、「かしこまりました」と一礼して去っていった。これで不用意に中に入られる事はないだろう。

「西園寺? なんかあった?」

 こちらを覗う柳に「うん」と返して、肩を抱いていた手をスルリと腰に滑らせる。すると柳の身体がビクンと揺れてヒュッと息を飲む音がした。
 それに微笑して腰を抱き寄せ、天蓋付きのベッドがある部屋の中へエスコートする。

「あっちに戻ってもオレから離れられないおまじない、かけておこうね」



 オレと柳の部屋は隣同士だ。そしてお互い往き来できるよう中に扉がついていた。恐らく夫婦用のものだろう。
 これを最初に使ったのは三ヶ月前、南東の神殿から戻った日だ。
 オレのいない間の様子を柳に聞いたら、宮殿に来ていたダリスという侯爵と話をして、日本に興味を持った侯爵に家に招かれ、そのまま五日ほど滞在していたという。侯爵は奥方と死別したばかりで子もおらず、人恋しいのか話をする時は決まって手を添えられて、侯爵家を発つ際には「すぐ会い行く」と伝えられたそうだ。
 息子みたいに思ってくれたんだろうなぁ、と呑気な事を言う柳に、その場では相槌を打つにとどめた。その後すぐに宰相閣下を訪ねて、侯爵を柳に近づかせないよう取り計らってもらった。
 そして夜、柳が寝静まった後に扉を使って、侯爵に触れられたであろう手を取りその甲にそっとキスをした。
 次の日も、その次の日も扉を使って、遠征に出ても宮殿に戻る度に柳に触れた。
 寝ている柳の手のひらを優しく引っ掻いて、背中に指を滑らせて、耳に息を吹きかける。最初はくすぐったそうに身をよじるだけだったのが、次第に甘く鳴くようになって、艶かしく身悶えて、ここ数日は肌を撫でただけでビクンと跳ねる敏感な身体になっていた。

 だからこうして指でお尻をぐちゅぐちゅされても、バックでちんこを出し入れされても、訳も分からず感じるばかりで抵抗もままならない。

「ふ、ぁ、ひぁ、ぁっ」
「こら、逃げちゃだめだろ柳」

 オレの下から這って出ようとする柳の背中にのしかかる。

「オレから離れられないエッチな身体にするんだから」

 真っ赤なうなじにキスをしてちんこを奥まで押し込むと「ひぃん」と可愛い声が出た。

「奥潰されるのすき? やらしいな」
「んぁっ、ぁっ、あーっ、あァァー……ッ

 耳に囁きながら腰をぐいぐい押し付けて奥をぐりぐり圧迫すると、柳の足がピンと突っ張って中がビクビク痙攣した。

「ぁひゅ……っ、はひゅっ、はー……っ、はぁー……

 まさかと思って柳の下に手を潜らせたら、お腹の辺りがグジュっと粘ついていた。
 エッチすぎて変な笑いが込み上げた。

「はじめてなのにお尻だけでイッちゃったんだ?」

 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっぱちゅっ

「ぁひ、ぁっ、ひんっ、ひんっ」

 さっきより一回り大きくなったちんこを奥に埋め込んで小刻みに打ち付ける。

「すっごい吸い付いてくる。ちんこで奥叩かれるの気持ちいい?」
「やぁぁ……

 やらしい言葉で耳をくすぐると真っ赤になってフルフルする。なにそれかわいい。
 ちんこが更に膨張して中をミチミチ拓いていく。それに応じてビクビクする柳の身体がエッチすぎて天蓋が揺れるくらい思いっきりごちゅごちゅした。

「ひぁ、ふっ、ぉひゅっ、ひゅご、ふッ、おッ、おッ、お……ッ

 スプリングで弾む柳のお尻を上からばちゅんばちゅん打ち付ける。

「はぁっ、こういうのいいんだ? ちんこ叩き込まれるのすき?」
「ふぉっ、おッ、ぁひゅっ、ぉひゅっ、ひゅごっ、ぉひゅっ

 強く打つとその分高く弾んで浮き上がる。それをちんこで叩いてベッドに沈めて跳ね上がったお尻を更にばちゅんばちゅん打ち付ける。

「ぉふ、ふっ、ふっ、ぉんっ、ぉんっ

 スプリングで跳ねてちんこで叩かれて柳の身体が少しずつ前に押し出される。

「っはぁ、やなぎ、離れちゃだめだろ」
「はひゅ、ぁひゅうッ

 柳の身体に覆いかぶさってギュッと腕に閉じ込めて、真っ赤な耳をねぶりながら逃げ場のない密着セックスで跳ねるお尻を上から潰すようにばちゅばちゅする。

「はひゅっ、ぉひゅっ、ふっ、ふっ、ひゅご、ぉっ、ぉっ、ひっ、ひぃぃン……ッ
「ッ、出そ……っ」

 射精間近の膨らんだ亀頭を奥にグリグリねじ込んだら柳の中がキュンキュンして早く出してっておねだりしてきた。

「……ッ、はっ、出す……っ、柳の中に……ッ」
「はひ、待っ、ぉ……ッ?! ふ……ッ …………ッ、…………ッ

 待ってって言いながらギュウギュウ締め付けてくる柳の中に勢いよく射精した。

「っはぁ……はは、まだ出てる。気持ちいいね」

 どぷっびゅくっどぷっどぷっ

「ふ……ッ、ぉひゅ……ッ、ふっ、ふ……っ

 射精に合わせてビクンビクン跳ねる柳の顔を覗きこんだらトロトロにとろけてた。かわいい。振り向かせてキスをして舌を入れると口の中がすごく熱い。こっちまでとろけそう。

「ぁん、んぅ、んっんっ、ぁふ、ふぅぅ……

 口内をくちゅくちゅしながら根元まで嵌めたちんこをゆさゆさする。少し揺するだけでも中の精液がぐちょぐちょして気持ちいい。

「んぅ……はぁ……

 絡めていた舌を離すとトロトロのだ液が糸を引く。柳のお尻からちんこを抜いたらこっちも粘ついた糸を引いた。それを追うように中に出した精液が柳の穴からどぷどぷ溢れてちんこがぐっと持ち上がる。

「柳、こっち向いて」

 弛緩した柳の身体を仰向けにして、足を開かせてどろどろの穴に亀頭をヌルヌル擦り付ける。

「はひ……、待、も、むり、むりぃ……」

 そしたら柳がイヤイヤして腰を引いた。やっぱり一回したくらいじゃ駄目だな。

「こら、逃げちゃだめだろ柳。戻るまであと二日しかないんだから」

 柳の腰を引き戻してちんこをぐぷぅと押し込んで、そのまま身体を抱き起こして対面騎乗。

「はひゅっ、待っ、ぁひゅっ、ひぃぃぃん

 自重でぐぷぐぷ沈む柳をベッドをギシギシ上下させて更に深く沈ませる。
 さっきは亀頭の先しか届かなかった奥をぐぷんと抜けると柳が「ふぉ……ッ」とのけ反った。どうやらここが好きらしい。

「こんな奥がいいなんて、柳は本当にエッチだね」
「待っ、ぉんっ、しょこ、ぉッ、ぉッ、おひゅっ、ふぉ……ッ ぉ……ッ、…………ッ

 奥の襞を引っ掻くようにカリをぐぽぐぽ抜き差ししたら柳の身体がビクンビクン跳ね上がった。

「ふふ、またお尻だけでイッちゃった?」
「はひ、ちが、あひゅ、ぁッ、ひぃん も、らめ、らめぇぇぇ……

 イってる間もスプリングを効かせ続けてたら半泣きの柳がいやらしく身悶えた。どうやら甘イキが止まらないらしい。
 この分だとあと二、三回もセックスすれば完全に落ちてくれそうだ。もちろん保証なんてないから、時間の許す限り続けるけれど。
 はぁ、と汗でベタついた自身の前髪を掻き上げる。

「オレから離れられないおまじない、いっぱいかけて帰ろうね」



☆☆☆



 何かよく分かんないけど西園寺に「おまじない」とか言われてバックとか騎乗位とかベロちゅーされながらいろんな体位で四十八時間耐久セックスさせられて朦朧とした意識の中で「柳、ゲート使えるようになったって」っていう西園寺の声が聞こえて目が覚めたら自分の部屋のベッドにいた。
 なんだ夢か。なんて夢だ。

「しょうたー、そろそろ起きなさいよー」
「うぇーい」

 階下から母ちゃんの声がしてのっそりと身を起こす。今日は何日だったか。全然思い出せないな。半年も異世界にいたからな。いやそれは夢の話だけど。
 いつもの感じを思い出しながら支度をして家を出る。スマホを確認したら山路から日曜の待ち合わせについて連絡が来てた。確かに遊ぼうって言ってた。言ってたな。まだ少し記憶が遠いけどだんだん思い出してきた。
 SNSや写真、カレンダーなんかを見て近況を確認する。そういえばこんなことあったなー、と思い出すにつれ夢の記憶がだんだん薄くなっていく、ような気がする。
 よしじゃあもっと思いだそう。例えば昨日の夕飯とか。……だめだ全然思い出せない。
 とにかくあれは夢だ。絶対夢だ。じゃなきゃあんな事されて気持ちいい訳、いや気持ちよかった訳ではないけど。断じてないけど。しかも最終的に自分から強請ってたとかそんなそんな。

「柳、おはよう」
「さ……ッいお……っ、王子! お、おはよう?!」
「うん。朝から元気だね」
「あ、うん……ごめんちょっとびっくりして。あ、じゃあオレ先行くな?」

 急ぐ用事もないけど全力で走って登校した。
 危ない危ない、危うく西園寺って呼ぶところだった。あっちに行く前は王子って呼んでたんだから気を付けなきゃな。あっちって何の話だろうな。
 下駄箱で靴を履き替えながら夢の記憶を追い払って、ふと何か違和感を覚えた。なんだろう?
 さっきの王子はいつもと特に変わりなかった。と思う。いや元々そんなに関わりがあるわけでもなかったから、どんな感じだったかあんまり覚えてないんだけど。
 あれ? そもそも朝の挨拶をするような仲だったっけ? いやそりゃ目が合えば挨拶くらいするだろ。でも別に目合ってなかったぞ? 後ろから王子が声をかけてきて、それで……。

「逃げるなんてひどいなぁ」
「ひゃッ

 いつの間にか横に来てた王子にスルリと腰を撫でられた。とっさにパンッと口を塞いだけどもう遅い。

「触るだけでそんな声を出すなんて、柳は本当にエッチだね」

 オレの過剰な反応に戸惑うことなくやたら色っぽい流し目をくれる。
 いやまだだ、王子の発言とオレの体の反応的に限りなくアウトな状況だけどまだ諦めるな! 冷や汗をダラダラ流しながらもあれが夢である可能性を模索してたら王子の口から決定的な一言が出た。

「でもおまじないは足りなかったかな」

 全力で走って逃げようとしたけどコンマ一秒で捕まった。


「オレから離れられないおまじない、いっぱいかけてあげようね」


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