1.



目が覚めて、ふと時計に目をやるとまだ起床時間まで幾分早かった。
二度寝するにもなかなか眠れず、時間も中途半端なため着替えを済ませ部屋の外へ出ることにした。
まだジャージじゃ肌寒いこの時期の早朝から散歩に行くのも気が引けて、暖かい缶コーヒーでも買いに行こうとロビーにある自販機へと向かう。

ロビーに着くとまだ日が差し込まないそこでベンチに座る人の姿がぼんやりと見えた。
近付いて行くとともに、だんだんはっきりしてくるよく知ったその姿は間違いなくあの子だ。

「名前、おはよう。」
『あ、幸村くんおはよう。』

俺を見つけるなりパッと笑顔になった名前。
今日は朝から運がいい、起きて早々名前に会えるなんて滅多にないからね。
いつもならもっと寝ておけば良かったなどと文句を垂れている俺だけど、こんなご褒美があるなら目覚まし時計がなる前に目が覚めるのも悪くないな…なんて。

「随分早起きだね?名前は寝坊助なイメージがあったんだけど。」
「ひどっ…間違ってはないけどね。」
「フフ、否定しないのがキミらしいな。」

そんな他愛もない話をしながら自販機でコーヒーを二つ買う。
一つを彼女に差し出して出来る男アピールをすると、名前はありがとうと可愛らしく微笑みコーヒーを受け取った。

「隣、座ってもいいかな?」
「うん、もちろん。」

下心をぐっと抑え、紳士的な態度を装いながら彼女の隣に座る。
立っているときは身長差があって見下ろしているせいか、真横から見る名前は何だか新鮮でついまじまじと見てしまう。
睫毛長いなとか、鼻は意外と低いんだなとか。
そんなことを考えてたらバチッと目が合ってしまい、不思議そうな顔をする名前。
俺らしくもなく内心慌てふためきながら次の話題を探す。

「…それにしてもまだ朝食まで時間あるよ?しかもどうしてロビーなんかに。」
「うーんと…幸村くんこそどうして?」
「俺は…そうだなぁ、名前がここにいるって本能が察知したのかもね。」
「な、なにそれー。」

ヘドが出そうな台詞を吐いてみると、彼女は誤魔化すように苦笑いしてから話を逸らした。
俺には知られたら分が悪いことでもあったのかな。

「ねぇ名前。今週末、俺とデートしようよ。」
「え!?で、デート?」

やたらデートという単語に反応する名前はやっぱり女の子だ。
顔を赤くして戸惑う彼女に触れたくなる衝動を抑えながらクスリと微笑むと、名前はきょとんとした表情で俺を見る。

「そんなに深く考えなくていいさ、病み上がりですぐにテニス漬けだったから全然息抜き出来てないんだ。映画でも遊園地でも、良ければ付き合ってくれないかな?」
「なんだそういうことね、もちろんいいよ!」

勘違いしちゃった、と笑い飛ばす名前…可愛いなぁ。
いつもは二人きりなんて滅多になれないから今だけは名前を独り占めしている気がして、優越感に浸りながらこの空間を満喫していた。

そんなとき。

「あ、不二くん…。」

廊下の向こうから歩いてくる人物を見つけると、名前はベンチから立ち上がり申し訳なさそうな顔をして俺を見た。
嫌な予感だけが俺の脳内を一気に駆け巡る。

「ごめん幸村くん、またあとでね?」

そう言い残した彼女はパタパタと不二に駆け寄り「おはよう!」なんて笑顔を振りまいている。

そうか。
名前が朝早くからここにきていた理由は不二と会うためだったのか。

…なんだよそれ、胸くそ悪い。

楽しそうに不二と話をする名前を想像したら、モヤモヤとイライラで頭がどうにかなってしまいそうだ。
仮に不二も名前に気があったとしたら…また厄介な男と女の趣味が被ってしまったな。
さて、これから不二の奴をどうしてやろうか。
そんなことを考えながら二人の姿を眺めていると、去り際に見せられた不二の勝ち誇ったような笑みが俺の腹の虫の居所をさらに悪くした。


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