最終回はドタチン>新羅>臨也>静雄>臨也と視点が変わります。


「あははこれはまた派手に血まみれだねえ」
出迎えた岸谷が臨也を見て笑いながら胸の前でパチンと両手を合わせた。
臨也もそれに軽くペロッと舌を出し、
「ヘマしちゃった☆」
などと返すので、臨也に肩を貸していた俺は一人渋い顔のまま溜息を吐いたのだった。


池袋の外れで足を引きずって歩いていた臨也を見つけたのはたまたまだった。
仕事に来ていた俺を渡草が迎えに来てくれたので、ついでに怪我人をピックアップして病院に連れて行こうとしたのだが、どうやら通報されては困るたぐいの怪我だという。
仕方なく言われるままに岸谷宅まで連れてきて、何故か俺までそこにお邪魔していた。
「いやでも運び屋が他の仕事で留守だって言われた時にはどうしようかと思ったけど、捨てる神あれば拾う神ありだよねえ。ドタチンいて助かっちゃった」
「なあ俺帰っていいか」
「ほんとごめんねえ車汚しちゃって。クリーニング代とタク代渡すからって今持ち合わせこれしかないや。足りない分は明日にでも振り込むよ」
「帰っていいか」
「ドタチンの口座がいい?運転手の彼の口座がいい?どっちでもいいよどっちのも知ってるから。てかなんでそんな帰りたがるの?久しぶりに会ったんだからもっとお喋りでも楽しもうよ…ってがあああ痛い新羅っ」
「静雄は論外としても、君も大概麻酔が効きにくくなってないかい?怪我しすぎだよ臨也」
俺の帰りたいという願いは意図的に無視され、ペラペラ喋る臨也の治療は続けられていた。
臨也の上半身は俺が後ろから羽交い絞めで支え、怪我した太腿をベルトで固定し、岸谷が足に開いた穴にピンセットのような器具を突っ込んでいる。
岸谷はわざとゆっくりと治療しているようで、笑顔だけど目が笑っていなかった。
「ねえ臨也、最近の君の行動は目に余るってもっぱらの噂だよ。同級生だってだけで僕にまで脅しみたいな忠告が届いて困ってるんだけどな」
岸谷の言葉に俺は思わず顔を背けた。
だから帰りたかったんだ。
裏の世界に足を突っ込んで生きているこいつらとは違う、俺は一応一般人だ。
こいつらのことは嫌いではないが、こいつらのこういう部分には係わり合いになりたくないから聞きたくなかった。
普段は二人とも俺の前ではあまりそうした話を出してこないのだが、今回岸谷は今言わずにはいられなかったのだろう。
臨也の足に開いた穴は、素人の俺から見ても普通じゃなかった。
もしかして銃創というやつではないか。そう思うとゾッとした。それを平然と治療する岸谷にも。
こいつらヘラヘラしてても、そういう世界で生きているんだと思うと、学生の頃から知っているはずの二人がまるで別人に見えた。
「迷惑だよ本当に迷惑なんだよ。君のせいで僕とセルティの愛と平和の生活まで脅かされると思うと不安でたまらないよ。ねえ臨也、君どうしちゃったんだい?」
「ごっめん新羅、謝る!謝るからマジで!俺超反省しちゃった!だから優しく手当てして!」
本当に痛いらしく、体を引き攣らせながらギリギリと臨也の爪がソファーに立てられる。
そらしていた顔を戻すと、笑顔から困った顔に戻った岸谷は一転してテキパキと治療を開始した。
臨也の足から取り出されたそれは変形した銃弾だった。
血まみれながらも鉛色をしている弾に、俺は映画みたいだなと少し現実逃避したことを思った。
「で、どうしたのコレ」
「最近のチンピラって怖いもの知らずだよねえ改造モデルガンに実弾装備しちゃってさ。二発目でぶっ壊れて自爆してたけど試し撃ちに俺を選ぶんだもん」
「組関係じゃなかったの?」
「いや、たぶんそう。これも忠告でしょ」
岸谷も渋い顔をして止血を始めた。
「したくないけど説教してもいいかい?」
「めずらしいね新羅が」
「僕から見ても近頃の君の行動は目に余るって言ってるの。門田君からも言ってあげてよ」
いきなり振られても困る。
「いや、というか最近池袋に来てなかっただろ?俺は知らなかったが…」
「あれ?そうだったの?」
一般人の俺と、岸谷では情報のルートが違うのだろう。
俺はどちらかというと最近は大人しいなと思っていたくらいだ。ところがどうやら裏で何かしでかしたらしい。
「だって池袋で遊ぶとシズちゃんがうっさいんだよ」
「だからってヤクザで遊んじゃ洒落にならないよ」
岸谷がわざとらしく包帯を強く締めると、ぎゃっと悲鳴をあげた臨也がしがみついてきた。
「うわーんドタえもーん新羅がいじめるよおー」
「誰がドタえもんだ」
ふざけた声を上げる臨也とは逆に、パチンと救急箱を閉めた岸谷が真剣な顔になってこっちを向いた。
「ねえ臨也、君は無茶だけど頭は悪くないと思ってたよ。なのにどうしてこんなことになってるんだい?今の君の立場、分かってるよね」
岸谷の口ぶりからして、臨也は思ったより危ない状況なのではないかと窺えた。
またしても帰りたいと思ってしまう。
臨也はすねたように口を尖らせてそっぽを向いた。
「いーざーやーくーん?」
岸谷がその視線の先に回り込むと、さらに逆へと視線を逃す。
なんなんだこいつはガキか。
こんな奴が裏で暗躍してヤクザに目をつけられてるなんて世も末だと思う。
「何かあった?別に君なんかにこれっぽっちも興味はないけど、セルティとの平穏な生活のためなら少しだけ聞いてあげてもいいよ?」
顔に似合わず毒舌だなあと思いつつ、俺も聞くだけならと目を泳がせているその頭にポンと手を置いた。
顔を上げた臨也の目が途端にうるっと潤む。
あ、嫌な予感、と思った時には臨也は叫んでいた。

「彼女が!シズちゃんに彼女ができたんだよ!」

ふと岸谷を見ると岸谷もこっちを見ていた。さっきまでとは違い、お互い死んだ目をしていた。
「俺帰っていいか岸谷」
「連れて帰って門田君」
同時に口にした言葉を聞いた臨也はガシリと腕を掴んできた。
「聞いてよドタチン!新羅あああぁー!!」
うわーんと涙も出てない目ですがられて、俺は仕方なしに携帯を手にした。
下で待ってくれていた渡草に先に帰ってくれと伝えるために。




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