それは偶然なのか奇跡なのか…シズちゃんの力なのか…
このとぼけた顔して腹黒い毛玉は俺たちの生活に小さな嵐を巻き起こした。









「…おかえり。何、それ。」

その日、早朝の山巡りを終えたシズちゃんが飛び込むように帰ってきた。時間もいつもより早いし、明らかに走って帰ってきたとわかる様子に何かがあった事を悟る。そしてシズちゃんが腕に抱えたモノを見て眉を寄せた。


「木から…落ちて…きたんだけどよ。…こいつ…。」
「もう死んでるよ。」
「っ!」

シズちゃんが抱えてるのはガリガリに痩せたフクロウだ。見たことない種類だけど、この山ってこんなのも居たんだ…とちょっと改めてこの山の凄さを思った。でも妙だ。この山の資源の豊富さを考えたら、この痩せ方は異常すぎる。本音を言うと触りたくなんかないんだけど、気になってそっとその躯に手を触れてみる。羽毛の下はもう骨と皮の感触しかない。

「新羅を呼んでも駄目だよ。…もう硬直が始まって…って…?」
「…どうした?」

全身をひと撫でした俺の手がある感触に気付く。そのまま放置しても良かったんだけど、ある可能性が一瞬頭をよぎってしまって…シズちゃんに急いで新羅を呼ぶように叫んだ。





* * * * *



「へぇ、これ『イケフクロウ』だよ。珍しいっていうか、絶滅危惧種だよ。」

この山って何でも居るんだねっという新羅は、全速で飛ばす運び屋に公認で抱き付けて血の気が無いクセにご満悦だ。いくら新羅でもすでに死んでいる鳥を蘇らせる事はさすがにできないだろうけど、この鳥はただ死んでるだけじゃなかった。

「あぁ…本当だ。卵を足の間にしっかり抱いてるね。」
ん〜この卵生きてるかなぁ…と慎重に卵を取り出す新羅に「それがお前の仕事だよ!」と心の中で吐き捨てた。そこに息を呑んでお前の行動をガン見してる2人に「やっぱ駄目だった、テヘ☆」とか言えるもんなら言ってみろ。

「うーん、まだわかんないけど…ギリギリ大丈夫なんじゃないかなぁ?」
僕が来るまでもちゃんと温めておいてたみたいだし。まぁ、少々放っておいても平気なもんなんだけどさ。っと卵に光をあてて覗き込みながら曖昧な診断をする新羅に、運び屋が何か打ち込んで眼前に突きつけている。想像がつく内容には同意するが、もうひとつ聞きたい事があったので2人のやり取りは無視して聞いてみた。

「ソレって雌?」
「へっ?…あぁ、雌だよ。お母さんだね。」

「何で餓死したみたいに死んでんの?」
「間違いなく餓死だね。卵抱いてるとこみると…餌を運ぶ雄が居なくなったんじゃないのかな?」

それを聞いたシズちゃんが「こいつ拾った付近を捜してくる。」と飛び出して、それに運び屋が続いていった。いや、どうやって捜すのさ?

「どうやって捜すんだろうねぇ〜あぁ、でも、セルティなら捜せるかもね!だってセルテ「99%死んでるんだろ?巣の周りには居ないんじゃない?」
「…まぁ…そうなんだけどさ。」

卵を温める雌を放置する雄鳥っていうのはあまり居ない、この場合何かの事故で死んでしまったと考えるのが妥当だと思う。見付けたとしてもきっと死体なんだろうと思うと、戻ってくる2人に掛ける言葉が思い浮かばず、せめて見付からないで欲しいと思う。
だが、そんな願い空しく戻ってきたシズちゃんはまたフクロウの死体を抱えていた。



「かなりの出血だったみたいだね、怪我しても巣に戻って…そのまま死んでしまったんだね。」

死後数日以上経っていた死体だったからはっきりとは判らないみたいだけど、俺が見ても判るほどの血の跡にシズちゃんと運び屋は肩を落としている。

「ちょっと、死んだ鳥にいつまでも気を取られてないでさ、この卵をどうにかする事を先に考えてよね。」
慰めなんて言えない俺は2人に簡易的に温めてる卵を突き出した。さっさと気持ちを切り替えろ。
それができないなら、その卵はゆで卵にして新羅に食べさすから!(いらない!/新羅)

「ちゃんと孵化するにはどうしたら良いのか調べてどうにかしなよね。」
そう言い捨てて、新羅を促して自室へ向かった。
俺の背後で2人がワタワタとネットを繋げて覗き込んでいた。





「あれって猟銃だよね。」

「あ、やっぱ気付いた?」

俺の部屋に入るなりそう切り出した俺に、新羅はあっさり頷いた。
「裏では人気な鳥なんだよ、剥製にして飾ると良いとか言われててさ。」
だから絶滅寸前、特にあの金色のは人気だからねぇ…と。

「この山で撃たれたのかな?」

「さぁね、でもあの傷で遠くまで飛べると思うかい?」



「………。」

この日、俺のパソコンに一つ隠しフォルダが追加された。






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