「ドタチン!緊急事態だよ!今度の休みにウチに来て!」

そう臨也から連絡があって、何事だと問い返すも「いいから来て!」としか言わない事に…若干嫌な予感がしつつ、放っておいても無駄だと仕方なくあの2人が暮らす山へ向かったのが今朝。

昼前に着いた俺に静雄はすまなそうな顔をしてブランチを用意してくれた。

「で、一体何なんだ。」
静雄特製のカルツォーネは売り物になるんじゃないかと思う位に美味い。以前それを言ったら静雄はまだ試作品だと苦笑していた。が、訪れる度に「ちょっと工夫してみた」「具を変えてみた」と新作を出して貰える辺り、満更でもないのかもしれない。終始臨也が「そうだよね!売れるよね!!」と煩く喚いていたが。

その新作のカルツォーネ(甘味たっぷりのトマトとチーズ)を頬張りながら臨也に今回の呼び出しの用件を聞くと、とたんに「あの毛玉共っ!獣のくせにっ!」とブツブツ言い出した。それを静雄が呆れた様子で眺めつつ「飯食ったら俺が説明するよ。」とオレンジジュースを注いだ。





「…これは…っ。」

食後、静雄に連れられて来たのは随分前に静雄と一緒に立てた『臨也の休憩所』だった。
静雄の家と牧草地の調度中間辺りに立てた小屋は、多少雨風で痛みはあったが崩れる事なく建っていて安心した。山頂に近いこの辺りは天候の変化も頻繁で、おざなりな作りの物などすぐに壊れてしまうだろう。
じゃぁ、無事に建っているその小屋に何の問題があるのか。自分が呼び出され、ここに案内されるという事はこの小屋に問題が起きたという事なのに。…違うのだろうか。
怪訝に思いつつ、静雄に促されるままに小屋の中を覗いた。

目が合った。





「住み着いたんだと。」
元々、臨也の休憩所だ。静雄は休憩の必要もなく、牧草地での仕事をしてる間にこの休憩所で臨也が休んでランチの用意をしたりするのだ。狭い小屋の中で食事をするよりも外で気持ちよく食べるのを好むからか、静雄が小屋に入る事は滅多にない。その為か臨也の動物を引き寄せるフェロモンだけが小屋に残り、それに引き寄せられた小動物が小屋にぎっしり詰まっていた。

門田が覗いた時に目が合ったのは、小屋一面に敷き詰められた草の上で首を傾げる野ウサギだった。『誰?』っと不思議そうに見上げてくるその円らな瞳に胸の辺りがキュンと鳴ったのは秘密だ。

で、まぁ、当然というか、自分の場所を占領された臨也がそれを許すハズもなく、怒り狂って何度も獣を追い出すもイタチゴッコなだけで、何度も繰り返すうちに獣臭くなったそこを使うのも嫌になって…。

「…こうなるのか……。」
「…悪ぃ。」

最初に作った休憩所から少し離れた場所に新しく小屋を建てる門田と静雄だった。

(業者を呼ぶという選択肢は無かったんだろうか…)
着々と大工のスキルをアップさせていく俺って一体…。






(ちょっと奥さん御存知?また新築マンションが建ったんですって!)
(本当?ウチもうすぐ子供が産まれそうだから是非お願いしたいわ〜。)
(完全先着順ですって!急いだ方が良いんじゃない?)
(そうね!旦那連れて今から行ってくるわ!)

そんな会話があったのかどうかは知らないが、あれから数日しか経っていないのにも関わらず俺は静雄のカルツォーネ(明太子とゴボウとチーズ)を頬張っている。

「全く!あの獣どもっ!味を占めたんだ!絶対そうだ!」
プリプリ怒る臨也はどうしてくれようっと呻きながらトマトに箸を突き刺した。

着いて早々に小屋を覗きに行ってみたが、見事に小動物がギッシリ詰まっていた。産まれ立ての仔リスや卵を抱えた親鳥に首を傾げながら見つめられて…またもキュンときたのは秘密だ。
しかし、雑魚寝のように異種様々な小動物が床に椅子に身を寄せ合っていたが…やはりそれぞれ区切った方が良いんじゃないだろうか。鳥ももっと上段に巣があった方が安心だろうし…。

「ふむ…。」



卵や雛、産まれたばかりの子供を抱えた動物達を追い出すのは流石に憚られ、またも新たな休憩所を作る事になった。臨也ももう諦めれば良いのにっと思わなくもないが、静雄が咎める事なく自ら手伝うというのは…つまりはそういう事なんだろう。
あれから詳しく聞く事は無かったが、2人の間の空気というか雰囲気からして上手くいっているのだろう。俺の目も気にせずベタベタとしているのに慣れた今では溜息すら出ない程だ。それでもきっと、こんな休憩所でもないと山へ登ると言い出せないのだろう。
「…なんか…阿呆らしくなってきた。」
本当に今更なんだが、何故俺は今こんなとこにこうして居るんだろう…。そう遠くを見つめて乾いた笑いを溢す門田だった。

山頂での仕事がある静雄に土台だけ手伝って貰い、後の部分を一人で作業していた門田は視線を感じて振り返った。

目が合った。

「………。」
「………。」




* * * * *




出来上がったという小屋を見に来た臨也は目を見開いて叫んだ。

「ちょっ!ドタチン?!何?何これ?」
「良い出来だろ?」

にこやかに笑う門田に軽く殺意が芽生える程に、新しく出来上がった休憩所は何ともおかしな作りになっていた。
小屋の中を覗いてすぐに首を上げてしまうのは、天井部分にびっしりと並べられた巣箱のせいだろう。壁の部分も臨也一人背を凭れるスペースが何とかあるものの、明らかに『止まり木』だったり『通路』らしきものが作られていた。壁と一体型になっている椅子の部分は中が空洞になっているのか、穴がいくつもあけられている。
「中は穴ごとに仕切ってあるんだ。」なんて聞いてもいない説明をされたが、これは結局…。

「…ねぇ…獣の巣ってのが前提になってない?」
っていうかもうすでに獣が住み着いてるよ?上でピヨピヨ鳴いてるよ?あいつらが糞でもしたら俺の頭に落ちてくるワケ?そんなのココ燃やしちゃうよ?
「いや?お前の座る分はちゃんと確保してあるだろ?まぁ、ついでだしちょっと巣箱とかも付けてみたんだがな。」
「ちょっとじゃないよね?!」
明らかに俺のスペースって後で慌てて止まり木とか取り外して作ったよね、これ。
何ていうか、10人が見たら10人共「獣の巣」って言う位に獣の為に作られた小屋だよ。

「何で…こんな…事に…。」
「作ってると様子見にいろんな奴が来てなぁ…あんな期待した目で見られちゃぁ…なぁ?」

実際、門田の作業している姿をずっと動物達が見つめてるのに気付いてからは、その愛らしい姿に和んだものだ。最初は遠巻きに眺めていたのがだんだんと近付いてきたのも微笑ましく思えた。『また作ってくれてるの?』っと首をかしげながら訊ねているような仕草に悶えそうになったのは本当に秘密だ。頼られると応えてしまう気質が充分に発揮された今回の出来事に、椅子の穴から顔を出した野鼠を見て噴出した門田は満足だった。

そんな満更じゃないような顔して!違うよね?根本的に間違ってるよね?何の為にここに呼んだと思ってるのさ!っと怒りに震える臨也に、やはりこう作って正解だったと笑った。

「つか、お前もそんな嫌ってやるなよ。可愛い奴らだぜ?仲良くしてやれよ。」
「っ!!もういいっ!もうドタチンには頼まないからっ!」
裏切り者〜〜〜〜〜っ!と叫ぶ臨也の声が山に響いた。

それからも門田は来る度に予め作ってきた巣箱を森に設置したり、家畜たちの小屋を整備したり色々と世話をして、そんなドタチンの姿をずっと見ていた動物達はすっかり門田に心を許して懐いたのだった。山の神には恐れ多くて近付けないが、天使(笑)相手だと多少緊張も和らぐといったところなのだろうか。図らずも野生動物のみならずペットや家畜たちの羨望・尊敬・信頼を一身に受けた上級天使門田は「老後はここの麓で暮らすってのも良いかな…。」なんて思っているのだった。

そして放っておかれた臨也は静雄に当り散らすのだ。
「ネットでワンタッチテント発注したけど、届くまで山登りなんてしないから。」
オーダーメイドの特注品だから届くの3ヶ月先だけどね!
「っ!!」
仕方なく(自分の為に)静雄が一人こっそり山に登り、改めて小屋を作ろうと土台作りの為に打ち付けた杭から新たな物語が始まるまであと数日…。



この新たな出来事に、2人の生活がまたさらに甘くなるまであと数十日…。






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