「マジっすか、トムさん!」

「マジだべ。誕生日の子にはな普段テレて言えねぇような甘〜いセリフとかを言っちゃっても全然OK!つーか、むしろ言ってやらにゃあイカンだろ。」

「甘い…って…。」

「何だぁ?静雄には無いんか?普段こう…相手に対してキュンvとクる時っつーのが。」

「……いやっ…その…まぁ…。」

「あるべあるべ?でも普段は恥ずいしプライドも邪魔して言えねぇべ?」
「でもそこで「お前可愛い」って言っても可笑しくないのが誕生日よ、だって誕生日だもんよ。」

「そ、そうなんスか!」

「おぅよ!……そんでな…。」




こんな会話を織り交ぜ、珍しく静雄相手に長電話に興じた田中トム。
切った携帯電話をポケットに仕舞う際に彼の口元がニヤリと笑っていたのを静雄は知らない。



* * * * *



「ん。」
布団に潜り込んだとたんに抱き込まれて、あぁ今日はしないのかっとだけ思った。
でもシズちゃんの暖かくて逞しい胸に擦り寄って心拍数を数えながら寝るのは嫌いじゃない。
エッチするばっかじゃなく、こういう夜もあるから…愛されちゃってるなぁなんて思うんだ。
シズちゃんの腕に守られている俺は外敵の心配もなく、ただただ深い眠りに落ちていく。

「臨也          。」
遠のく意識にシズちゃんの甘い声が聞こえた気がした。







カチャリ

そんな小さな音に目が覚めた。目を開くと部屋が明るかったからもう朝なんだろう。良く寝たおかげか目覚めもすっきりで気分も良いし…サラダでも作ってあげようかな。っと、まずは顔を洗おうと起き上がろうとしたところで、

「起こしちまったか…悪ぃな。おはよう。」
「うわぁぁ。」

いきなり声を掛けられて驚いた。何で?何でシズちゃんがここに居るの??いや、シズちゃんの部屋だからおかしくは無いんだけど、いつもなら今シズちゃんは山に登ってる時間だ。エッチしまくった後ならともかく、普通に眠った俺が寝坊なんてするわけがない。思わずシズちゃんの顔と時計を何度も見てしまう。うん、やっぱりいつもの時間だ。

「んなにテンパってんなよ…可愛い…。」
「んなっ!!!」

何それ誰コレ!?ちょっ、シズちゃんがおかしい!!壊れた!そもそも何その格好…バーテン…服じゃないよね……ギャルソン?ねぇ、それどうしたの?何でギャルソンの格好してベッドに腰掛けて俺を見てんの?傍らのテーブルに置かれた朝食らしきものが…明らかに豪勢なんだけど。
そして何よりも何よりも…

「か…か、か…わい…い…?」
「あぁ、可愛いな、臨也。」

そのままチュッとおでこにキスをされて、改めて「おはよう」と言われた。
偽者だよ。シズちゃんじゃないよ。俺がシズちゃんを間違うハズなんてないんだけど、シズちゃんだと思えない…。俺を可愛いって言って、キスした。朝っぱらから。
………どうしよう…倒れそう…。



別に毎朝やってる事だぞ?と事も無げに言われて絶句した俺をよそに、この男前過ぎるギャルソンは飯にするかとテーブル上のパンに手を延ばした。展開についていけない俺だけど、御飯食べて落ち着こうと思って起き上がった。そのまま制止された。

「…何?」
上半身を起こした状態で未だベッド上に居る俺はビクビクしながらシズちゃんを伺う。正直今のシズちゃんが何を仕出かすのか判らなくて怖い。

「ん、食わしてやるから♪」
…シズちゃん、格好良いけど…今はその笑顔が怖いよ。何?何なのさ?本当にシズちゃんが何か変な病気にでもなったのかと心配になった。信じられないけど、この目の前のシズちゃんは本物のシズちゃんなんだ。
慌てる俺をまたも放置してシズちゃんはパンを手に取った。

「焼きたてで熱いから気を付けろよ?」
そう言って湯気立つデニッシュを千切って俺の口元に寄越した。戸惑いながらも素直に口を開けると優しく押し込まれた。シズちゃんの細くて長い指が俺の舌に唇に当たってエロい。そして熱々のデニッシュが絶品だ、何も付けていないのに濃厚な味、食感最高、何コレ。っていうか、デニッシュなんて面倒だからって滅多に作ってくれないのに。しかも早朝から仕事があるからって、朝にパンを焼くなんてした事ないのに。
「美味いか?色々あるからな、好きなだけ食え。」
そして俺は呆けている間にクロワッサンやホウレン草のポタージュ、キウイのレアチーズヨーグルトなんかを一口一口シズちゃんの手から直接受け取った。明らかに作りすぎなんじゃないかとか、顔洗うの忘れてるよ俺とか、考える余裕なんて全く無かったんだ。

「ごちそうさま、ねぇ一体…。」
何なのと言うハズだった口は「付いてる」とペロリと舐めるシズちゃんの舌に遮られた。
「物食ってるお前ってエロいな、それに可愛い…。」
もう一度、今度はチュっと吸い付くような舌を受け止め、俺は今度こそ完全停止した。
それを笑顔で見つめ返すのは反則だと思う、ホント、死んで欲しいっていうか、俺が死ぬ。
「さて、さすがにこの部屋じゃ珈琲は淹れれなかったんでな、あっち行くぞ。」
そういってシズちゃんは死ぬ…絶対死ぬ…むしろ殺して;と硬直している俺を姫抱きして連れ出した。


普段、珈琲とか紅茶を淹れるのは俺だ。シズちゃんに珈琲の味の違いとかそういう拘りが無いからっていうか、判ってないからね。そんなシズちゃんが淹れた珈琲っていうから普通に俺が使ってる豆を使って適当に淹れたのかと思いきや…ダイニングに連れられて俺が見たのは水出し珈琲を作るアレだった。かなり凝った作りのアンティークな器具からぽたりぽたりと珈琲が香りと共に溜まっていた。
「ほら、食後の一杯。」
ロッキングチェアにそっと置かれた俺に珈琲を差し出すシズちゃんは普段見慣れぬギャルソンの格好だ。アンティークな珈琲器具を背景に立つ姿は1枚の絵のようで…何も言えなくなる。見惚れたんじゃないよ、俺に跪く姿にときめいたなんて事、絶対ない。ないってば。


「もう…良いでしょ。何なの…降参…一体どういうつもりなのか教えて…。」
カップをシズちゃんの持つソーサに戻しながら俺は音を上げた。これで「何がだ?」とか「何でもない」とか言い出したら絶対病気だ、新羅呼び付けてやる。

「あぁ?…あぁ、そういや言ってなかったか。」
俺の言葉にちょっと驚いた顔をしたシズちゃんはすぐに納得顔になって、それにムカついて反論しようとした俺にぐっと顔を近付けた。チェアが後ろに大きく傾いたけど、シズちゃんはそのまま片手で椅子を固定した。

「誕生日おめでとう、臨也。今日はたっぷり可愛がってやる。」

真っ直ぐ目を見て、至近距離で宣言された直後、甘く深いキスに包まれた。

「知って…たんだ…。」

誕生日…俺の産まれた日ってだけなのに、シズちゃんはとんでもない事をしてくれる。
あの後、顔を洗ってこいと言われてフラフラと立ち上がったら「手伝ってやろうか?」なんて笑われた。思わず蹴り飛ばしたけど全っ然堪えてないのが悔しい。ほんと、死ねば良いのに。
それでも、シズちゃんが俺の誕生日を覚えてて、前々から準備してくれて、祝ってくれる。
それも…
「可愛がってやる…って…どんだけエロいんだよ、バカ。」
存分に甘やかせてくれるらしい。思えば朝起きた時からシズちゃんを取り巻く空気が甘くピンク色だった事が今なら判る。

時計を見てみた。午前8時。

「駄目だ…俺が悶えて死ぬかも…。」

臨也の甘く苦しい幸せな1日が始まった。




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