シズちゃんに日付や曜日の観点は無い。

ちなみにこの家にあるカレンダーは俺の部屋にある麓の農協で貰ったものだけだ。正確に言えば携帯の機能でカレンダーを表示できるんだけど、シズちゃんがそれを見るかと言えば無いと言える。
それでも今日の日付と曜日位は携帯を見るだけでも確認できるハズなんだけど、そもそもシズちゃんは着信が鳴ってからでないと携帯を見ない。じゃあテレビのニュースでも見ればと思うけど、この家にTVは無い。俺はパソコンで見てるし、シズちゃんはテレビを見ない。池袋に居た頃は弟くんの出る番組を見てたみたいなんだけど、こっちに移る時に弟くんがシズちゃんのこれからの生活を見越して「兄さんはあまり夜更かししない方が良い」と言ったらしい。自分の出演した番組は全部DVDで送るし、雑誌も送るからと念押ししたらしい約束は今も守られている。
そんなわけで使われる事のなくなったテレビは片付けられ、代わりに最新のホームシアターセットが取り付けられ、弟くんのDVDが届く度にこのダイニングはシズちゃんだけの映画館になる。

シズちゃんに日付や曜日の観点は無い。

そのシズちゃんに特別な日…クリスマスだから新羅達が来るよとか明日は大晦日だよとか…を知ってもらうには何の事はない、その事実を教えてあげれば良いだけだ。
それでも、それでもだ、

 5月4日

この日をどう伝えたら良いんだろう…。




今朝はいつも通りの朝だった。起きたらもうすでにシズちゃんは山に行ってたし、部屋にメッセージカードやプレゼントが置いてある事もなかった。ついでに言うと昨夜日付が変わった瞬間、シズちゃんはぐっすり寝てたよ。何かあるんじゃないかって…俺の気持ちなんか知らずにさ。朝御飯も特別なメニューじゃなくて普段と変わりなかったし、午後の仕事へ出向くまでも全然いつもと一緒だった。きっとシズちゃんは今日が5月4日で、俺の誕生日だって事なんか知らないんだ。

シズちゃんの誕生日は知らせる以前にたくさんのプレゼントが届いた。携帯も鳴りっぱなしで出る度にシズちゃんは嬉しそうな顔をしていた。夜には皆が集まってパーティになった。来ても良いって裏で許可したのは俺だけど、何となく面白くはなかった。そんな俺を察してか皆は泊まる事なく帰っていったけど、それだけで。俺がシズちゃんにしてあげた事なんて、普段着にしてるツナギ服を一新してやった位だ。まぁ、シズちゃんの匂いが染み付いた古いツナギを俺の部屋の雑巾にしたかったからなんだけど、喜んでくれた。おめでとうも言ってやった。少し良い気分に酔って布団に入ったシズちゃんの背中に向けて小さくだけど。でも、凄い勢いで振り向いて抱き締めてキスをしてサンキュって言ってたから、ちゃんと届いたんだと思う。

だけど俺の誕生日にプレゼントが届くわけがないし、祝いのメールや電話が届く事もない。新羅から「今日はラブラブかい?スルーされてるのかい?」なんてメールが着てたけど速攻削除してやった。シズちゃんが居る時に電話でもしてくれれば、誕生日だって判るような会話をシズちゃんに聞こえるように喋ってやるのに。

そう、俺はシズちゃんに今日が俺の誕生日だって気付いて欲しい。

人ラブで世界中の人間を愛してる俺だけど、誕生日を祝って貰えた覚えはここ数年全く無い。まぁ、俺が誰かの誕生日を祝った事もないんだけどね。それに祝って欲しいとも思わなかった。俺自身、誕生日を忘れてた年もあった位だし。

でも今年は、今年からはシズちゃんが祝ってくれると思ってた。きっとこの優しい男は舌打ちしながらでも照れながらでも、何かしら祝ってくれると思ってた。でもそれには今日が俺の誕生日だって知っててくれてる事が前提だ。シズちゃんから俺の誕生日を聞かれた事なんて無いし、俺から言った事もない。いっそ「今日俺誕生日だから祝って」と言ったら良いんだろうけど、それも何だか癪にさわるんだ。俺はシズちゃんの誕生日、知ってたのに。プレゼントだって用意してたのに。



「シズちゃんのバカ…。」

いつもなら他人を自分の思うが侭に操る頭脳も静雄相手には全く機能せず、臨也はただただ途方に暮れた。せめてたった一言が欲しいという臨也にしてはささやかな願いは、自身の小さな意地に儚く消え去ろうとしていた。






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