静雄が泣き止み落ち着くと魚が釣れだした。普通にイワナが釣れるんだが…マジでこれってイワナだよな?あんま詳しくはないが…結構珍しいんじゃねーの?これ。
釣りながら静雄の山での生活がどんなのかを聞いたり、俺の(静雄にとっちゃ前の)仕事のアレコレを色々と話した。ちょっとあの頃に戻ったみたいだなぁと笑う。実際バーテン服ではないものの、金髪でグラサンな静雄の顔はあまり変わっていなくて俺の知る平和島静雄だ。しかし聞くと普段はグラサンはもうしていないし、髪も久々に金髪にしたんだとか。「アレの好きにさせてるんで…」というセリフにかなりツッコミを入れたい。それでも何とか抑えて無難な話題を振る、長年のクセというか静雄の前で奴の話題に触れないというのは俺の中では絶対なんだ。そうして弁当をつまみつつの会話は弾み、魚もかなり釣れた。

正直、聞きたい事は山ほどある。主に折原臨也についてだ。
ずっと考えてたんだが…ブクロに居た時の険悪最悪な関係ではもう無いんだろうか。
何より、こいつがキレてない。あの折原臨也を前にしてだ。…それに…キス…してたよなぁ。
案外人の良いこいつが騙されてんじゃないだろうか。折原臨也に対して全く良い印象が無い俺はそんな事を考える。でも引っかかるのは…俺をここへと連れてきたのが奴だって事と、あの車の中での何とも微妙な愚痴、静雄とのやりとり。何かこう…独り身の男が踏み入っちゃ痛い目みる展開になりそうじゃねーか?


そろそろ戻ろうという事になって、じゃぁ…と手際よく釣った魚の頭を落とし血抜きして魚籠に入れる静雄をぼんやり眺めた。
「そのまま丸焼きするんじゃねーの?」
塩焼きが一番美味いと思うんだが、違うんだろうか?
「いや…その…このままだと臨也の野郎が嫌がるんスよ。」
頭を落としとかないと煩いんで…と静雄は作業を続ける。

…これはもう口に出しても良いだろう。

「折原臨也と…その…どうなってんだ?」
我ながらどう言ったものか判らないからってコレは無いとは思う。思うが…仕方ねぇべ?
だが聞いた瞬間ゴリッとまな板代わりにしていたデカイ石ごと魚の頭をぶった切った静雄を見て…ちょっと後悔した。
「いやいやいやいや、無理には聞かねぇべ?マジでそんな気にしてねーし!」
嘘だが。



そういう俺に静雄は真剣な表情で顔を上げた。

「いや…トムさん…聞いて…下さい。気持ちわりぃ話になるかもしれないっすけど。」

そう切り出して話出して静雄はたまに口篭ったりしながらも、折原臨也について俺に語りだした。



* * * * *



「おかえりぃ〜遅かったね。ちょっと心配しちゃった。」
ドアを開けてすぐに折原臨也が静雄に抱きついた。ギョッとはしたが、午前中に受けた衝撃はもう無い。「ほら、静雄。俺はあっち向いててやっから。」と静雄を促す余裕ができるくらい落ち着いている。ここに戻るまでに聞いた静雄の告白を聞いて、色々と判ってきたべ、こいつらの面倒臭ぇ関係が。「えっ?」と驚く折原臨也の声ごと静雄が吸い寄せるのを後ろを向く事で見ないようにした。

「飯、作りますんで…ゆっくり休んでて下さい。」
そう言って魚籠を持って外に出る静雄を見送ると折原臨也が近付いてきた。

「……さっきの、何?」
「何って何だ?」
「さっきのはさっきのだよ。それに何?シズちゃん泣いた痕があるんだけど。」
なにがあったのさ?と折原臨也が迫ってきたが、こうなるともう決定的だ。


俺が職場に着くまでに接触して 俺1人 を拉致って
手土産を持たせて俺が自分から遊びに来たと思わせて
俺の記憶に近い静雄に仕込んで馴染みやすくして会話を弾ませる
そうやって静雄を満足させて

静雄とコイツが一緒に居るって事にギョっとさせて
やたらベタベタと見せ付けてギョギョっとさせて
マジで甘々でいちごみるくな空気を漂わせてギョギョギョっと引かせる
そうやって俺をもうここに来させないようにしたいんだろう。

俺が来ない事で静雄が思い悩むのも、来たら来たで静雄が俺にべったり構うのも、気に入らないんだろう。だからこそ今日1日でそこら辺を纏めて片付けるつもりなんだろう。
それくらい、静雄を独占したいんだろうなぁ。静雄には気付かれず、さり気なく。

『ねぇ、邪魔しないでくれるかな…』
目で訴える無言のメッセージは独り身にはたいそう居心地が悪い。

それでもなぁ…トムさんにとっても静雄は可愛い良い後輩だ、この先ずっと。
このまま折原臨也に独占されてしまうってのも…面白くないよなぁ。まぁ、あんまり深く関わるつもりはないけどな。まぁ、それにしても…


「お前さん、可愛いねぇ。」
ガッシャーーンと後ろででかい音がすると同時に折原臨也にも怒鳴られた。
「なっ何言ってんの?話聞いてた?何で質問のが…って答えになってないよ!」

とりあえず折原臨也は無視して、後ろを振り向きつつ笑いながら言ってやった。
「…静雄ぉ〜お前良い嫁貰ったなぁ。」
「なっ!?」
今度は後ろから折原臨也の絶句する声が聞こえ、正面には真っ赤な顔をした静雄が落とした皿を拾い上げては粉砕していた。





「お〜美味そうだなぁ。」
テーブルにはさっき釣った魚をメインにサラダやピザが並んでいた。どれもこれも本当に美味そうで、普段の食生活がアレな俺にとってはこの上ないご馳走だ。俺の正面に並んで座る静雄と折原臨也が赤い顔をして気まずそうにしているのが更に俺を楽しくさせてくれる。

まぁ、あれだ。新婚夫婦にゃ…あてられる前にからかえってやつだ、うん。

「さっそく食おうぜ…って、そうだ、お前ら食べる前には何かやんのか?」
「へっ?」
「はっ?」
気を取り直して食事に掛かろうとした2人の動きがまた止まった。
「いってきますやただいまのちゅうがあるんなら、いただきますでも何かやるんだべ?」
違うのか?っとニヤニヤする。まぁ、実際されたらこっちのダメージも計り知れない諸刃の剣になるんだがね。

「いやっあ「いやだなぁ、いくらなんでもそれはないですよぉ!」
焦る静雄を遮って折原臨也がイワナの身をほぐす。そしてそれを箸でつまみ
「やってもコレくらいですって…。 はい、シズちゃん。あ〜んv」

やってくれる!これは…これはキツイ!!まぁ、やられてる静雄もえらい顔してるが。
だがしかーし!年上の余裕で引きつる顔をぐぐっとこらえて笑顔で切り返す。
「お〜熱いねぇ、ほら、静雄もボケッとしてねぇで食ってやれ?なっ?」
そう言うと我に返った静雄が俺を気にしながらもおずおずと折原臨也に食わせて貰う。そこで口開けて近付けながら手を肩に添えるトコが天然なタラシだとトムさんは思うのよ。でも追い討ちが必要だよな?

「で、静雄もお返しをしてやらにゃいかんべ?」
「えぇ?!ちょっなn「あ、…ッス。」
テメェ何言い出すんだっていう折原臨也の視線が痛い、痛い…が、楽しいぞ。っていうか、折原臨也の『何言ってんだ、お前!?』っていう顔も凄い珍しいんじゃないか?

「あぁ、静雄〜違う違う。お前からのお返しは箸からじゃダメだろぉ。」
「えっ?そうなんスか?」
「そうだぞ〜社会勉強的にそこは口で咥えて…だろ。そのピザなんか良いんじゃねーか?」
「何の社会勉強だよっ!つか、それって罰ゲームか何かだろ!いい加減なk「おい…」
「なっ///」

そうだよな〜ピザ銜えた静雄にゃ勝てないよな〜。ついでに顎に手を添えられちゃお手上げだろ。
あぁぁ楽しい!独り身には何とも痛いが楽しい!こいつら爆発しろって思うが楽しい、楽しいぞぉぉぉ!半ばヤケにもなりつつ、静雄にアレやれコレやれと囃し立てた。最終的に静雄は折原臨也を膝の上に座らせ後ろから抱き込んでいる。折原臨也というと、時折俺をものっすごい目で睨んでは静雄に飯を食わせてやっている。

何だこれ。めちゃめちゃ幸せな新婚じゃねーか。ブクロに居た頃を知っている身としてはいろんな事が心配で疑ったりもしたけど、これはもう本物なんじゃないかねぇ。
イチャつく2人を見て、いいんじゃないかと思った。静雄が居て、折原臨也が居て、2人が幸せそうで。それでいいんじゃないかと、心から思った。
それは奇しくも2人の数少ない友人と同じ意見だった。




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