「じゃぁ…お前らの濃密な甘い夜を邪魔するのも何だし…そろそろ帰るわ。」
美味い晩飯とデザート、(一方的に)楽しい会話にフとした間があいた時にそう切り出した。帰路の時間を考えると遅い位だろう。麓までタクシーを呼んで貰い腰をあげた。何だそれはとギャーギャー騒ぐ折原臨也と「濃密…」と呟く静雄は放っておいて良いだろう。


「トムさん、麓まで送ってきます。あと土産もあるんで持ってって下さい。」
我に返った静雄はそう言ってソリに土産を乗せてくると出ていった。


「…やってくれたねぇ。ほんっとにもう2度と来ないでよね。」
そうは言っても顔が赤いぜ、折原臨也。
「いやいやいやいや、今度は本当に遊びに「来させないよ。」
そう言って俺に紙切れを投げつけ部屋を出ていった。

「タクシーチケット…しかも上限金額無しかよ。」
ほんっと、良い嫁だと思うぜ、静雄。



麓までは静雄と2人歩いて下った。食べ過ぎた腹を整えるのにも都合が良いし、何より静雄ともっとゆっくり話がしたかったからだ。お互いに今日は楽しかったと、この時間が終わってしまうのを惜しむ。
「ホントにまた来て下さい。今度はヴァローナやサイモンとかも一緒に。」
いや、それはマズイ。
「あぁ〜まぁ〜、それはいつか…な。仕事もある事だしなぁ…な?」
「つーか、静雄よぉ、今は俺らよりも嫁といちゃいちゃするもんだべ?」
ガタンと重いソリが一瞬浮き上がった。
「…えぇっ…あのっ;」
「いいからいいから、俺ばっかりを気にしてるってんで嫉妬してる可愛い嫁さんを構い倒してやれって、な?」
そう言うと静雄は「…嫉妬…」っとちょっと嬉しそうにするもんだから…トムさんとしてはやっぱ応援してやるべきだろう。ここから麓へ降りるまでの間、折原臨也が聞けば「死ね!」とナイフを投げつけるような事を静雄に吹き込んだ。「マジっすか?」「えぇ…そんな事!?」と終始赤面しながらもしっかりと脳に刻み込む顔は真剣だ。さっそく今夜から実践するんじゃねーか?

麓に着き、到着していたタクシーに手を挙げた。
しっかりといろんな方面の礼を言われ、こっちももてなしの礼を言う。これでもかって位にタクシーに土産を積み込んで静雄は頭を下げた。
早く戻ってやれと手を振り、ブクロに居た頃のように別れた。違うのはこの薄明かりの灯りの下、静雄の帰る先が山って事だ。良いから先に行けと静雄を促し、何度も振り返っては頭を下げる姿を見えなくなるまで見送った。

何だかんだで凄く濃い1日だったが、良い日だったよなぁ。

かなり良い気分でタクシーに乗り込んだ。今から帰っても家に着く時間は普段とさほど変わらないだろう。こんな具合ならまた遊びに行ってやっても良いかもしれない。今度こそ俺の意思で。
今度はラフな格好で来よう、黒髪で長髪な静雄に会えるだろうし、また釣りをするのも良い。そして折原臨也に教えてやろう、俺が手土産にするならいつも食ってたファーストフードをあえて選ぶって事を。あいつの分も差し出せば食うんだろうかねぇ?

あぁ、でも。嫉妬深くて可愛い静雄の嫁の為にヴァローナを連れていくのは…今は止めといてやるかね。いつか誰にも何にも揺るがず自信を持てた頃……でも無理だな、やっぱ。

思わずこぼれた苦笑に運転手がルームミラー越しにチラリと視線をよこしたのに気付かない振りをして目を閉じた。たくさんの土産とトムを乗せたタクシーは静かに東京へ走り出した。



そんな良い気分で過ごした翌日、折原臨也に対しての認識が甘かった事を思い知らされた。
「会社には言っておいた」と奴は言っていたが「田中トムは無断欠勤です〜」と連絡があったらしい。どういう事だ何があったと朝から社長やヴァローナから問い詰められた。詳しく言えばヴァローナに連れて行けと迫られるのは必至だし、適当に流せば無断欠勤って事で減給だ。

社長からの電話とヴァローナの奇妙な日本語の攻撃に昨日の疲れも加え、倒れこむトムだった。



…静雄ぉ…また今度俺のとっておき教えてやっから…あいつ泣かせてくれ…。

またノロケを食いに行ってやるからよ。

そしていつか…俺に折原臨也を「嫁です」と紹介してくれるまでになったら…あの渓流で真剣に語った正直で熱い告白を…折原臨也に教えてやろう。嫉妬なんてする必要なかったんだぜっと。











余談だが臨也への意図返しを目論むトムだが、案外それは1本の電話で簡単に達成できていた。

「静雄!静雄!土産に貰ったワイン!すげー美味い!美味いぞあれ、すげーな!」
「!!!!マジっすか!良かったら今あるの全部送りますんで!俺ワイン飲まねぇし!」
(何だって???今何つった?!!!!)

「マジか?!何かわりぃな;」
「いえ、良いっすよ!喜んで貰えて…そっちのが嬉しいっす。」
(ワイン?ワインって言った?ワイン全部送るって言った???)




静雄ワインは臨也が『商品化したいNO.1』の品だ。
現在の在庫数…先程の電話にて、0本。

(うあぁぁぁっ!ちくっしょぉぉぉぉっ!)



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -