「やぁ、ハジメマシテっと言うべきなのかな?」

今日は珍しく早い時間からの仕事があると眠い目を擦りつつ部屋を出て間も無くの出来事だった。
振り向いた先に立つにこやかに笑う男には見覚えがあった。

「折、原…?」
「あぁ、やっぱり俺の事は知ってるよねぇ、シズちゃんの元上司だもんねぇ。」
笑いながら近付いてきたのは折原臨也だ。最近全く姿を見ていなかったが静雄が居た頃は何度も何度も対峙した奴だ。まぁ、実際俺にはあまり関わりなど無かったが。

「…何か用かなぁ?静雄に用事ならもうブクロにゃ居ないんだけどなぁ。」
「誰に言ってんの?そんな事知ってるよ。」
静雄が居ないのを判っていて、それでも俺にわざわざ声を掛けるって事か。

「俺に何か用って事か?」
あの静雄とやり合えるような奴だ、俺なんかが勝てる相手でもない。となればここは素直に話を聞いておくべきだろう。できればこのまま話を聞きながら会社に向かって知り合いに会いたいところだ。サイモン辺りだと助かるんだがなぁ。
「話が早いのは助かるよ。さ、一緒に来て貰おうかな。」
何とも唐突な台詞にギョっとした、冗談じゃない。
「予想通りの反応ありがと。心配しなくても別に何もしやしないよ。」
あぁ、会社には連絡済だから安心してよ。なんて事を言われて誰が信用するんだ。しかしまぁ、俺に拒否権は無さそうだし、逃げようにもあの折原臨也相手には無理だ。面倒な事になっちまったなぁ…。



どうしてこうなった?
折原臨也の運転する車の助手席に乗り、どこぞへ連れられている。ドコへ行くんだと聞いても着けば判るよとしか言わない辺り、本当にいい性格してるぜぇ… まったく。あと、ひとつツッコミたいんだがこれは地雷になるんだろうか?運転する折原の膝の上と両肩に小さい仔猫が丸まっているのが気になって仕方ない。

「ねぇ。」
終始無言だった猫まみれの折原臨也がふいに口を開いた。
「何でシズちゃん家に行かないの?」
何度も来て欲しいって誘われてるよねぇ?と、こっちをチラリとも見ずに言った。
驚いた。確かに静雄からは山へ越した当初から一度遊びに来て欲しいやら色々と連絡があった。が、仕事の関係もあったが何より行くのに不便な所だ。麓までタクシーで行ったとして、静雄の家までかなり山を登らなければいけないという。かなりの大掛かりなイベントになってしまうのが容易に予想できて…なんだかんだで断りを入れていたのだ。静雄の顔やどんな状況なのかを見たい気持ちはあるんだがなぁ…おじさんもう無理できないのよ。
で、何故それを折原に質問されるんだ?静雄に誘われてるのを断ってるっていうのを何故知っている?静雄がそれをこいつに言うとは思えない、そうなると…
「盗聴?」
「何の為にそんな事するのか知りたいね。良い情報でも手に入るの?」
ふんっと鼻で笑われたが、じゃぁ何で知ってるんだと言いたい。

「あのさぁ…アンタが何度も何度も断る度に落ち込むシズちゃんを慰める俺の身にもなってくれない?正直マジ鬱陶しいんだけど!誘い方が悪かったのかもだの、まだ自立できてないから来てくれないのかもだの、俺にはもう会いたくないのかもだの…ほんっとにイラついて仕方ないんだよね!で、暫くしたら今度はいつくらいに連絡したら良いだろう?まだ早いかな、ウザいとか思われないかな、どう話せば良いかな…とかもう………ねぇ、ほんっとに迷惑なんだけど。」

眉を吊り上げて俺を睨みつける猫まみれの折原臨也。何ともシュールだ。
…いや、静雄には悪い事をしたなと思う。そんなに落ち込んでいたなら無理をしてでも一回位はやっぱり顔を見に行ってやるべきだったなぁと後悔した。…が、何故折原に迷惑だと言われるんだ?何だか理解不能な事だらけで混乱してきた。そんな俺をよそに折原臨也の愚痴なのか文句は続く。

「だいたいさぁ、いつまでたってもトムさんトムさんって前の上司がそんなに気になるワケ?世話になったんだか何だか知らないけどさぁ、俺が今ここにこうして居るのもトムさんが後押ししてくれからだとか何とか言っちゃってさ、あぁもう、それが何だってんだよ。毎回聞かされる俺の身にもなれってんだよ!トムさんのおかげでここにこうして居られるのに、俺はお礼もできないんだ誘い方が悪いんだ…あぁもうループしまくりなんだよ、鬱陶しい。それでもって最終的には俺にどうしたら来てくれると思うって聞いてくるんだよ、そんなの知らないよねぇ、俺には関係ない話だよねぇ…でもね、本当にもうこれ以上シズちゃんの口からトムさんトムさんなんて聞きたくないんだよ。マジでイラつくんだよねぇ。俺がちょっとでも仕事関係の人やら秘書の名前なんかを出したらヤキモチやいて拗ねるクセしてさぁ、自分は何だって言いたくなるよねぇ。」

運転しながらブツブツ文句を言っていたのがだんだんエスカレートしてギャーギャー喚き出した猫まみれの折原臨也を俺は呆然と見るしかできなかった。何だ?静雄は俺が断りを入れるたびにこいつに連絡を入れてたのか?それから毎日のように相談(?)したんだろうか?いやいやいやいやいや…あの静雄と折原臨也が??いやいやいやいやいやいや…無い無い無い無い無い無い、たぶん。
ますます混乱している俺に猫まみれの折原は黒い笑顔を向けた。

「それでさ、もう連れて来れば良いやっと思ってね。」

どうやらこの車は静雄の山に向かっているらしい。
何だ?何がどうしてどうなってる??疑問だらけの俺の顔は引きつって青褪めているんじゃないだろうか。そんな俺の事など気にもせずに猫まみれの折原臨也は運転を続ける。
「それでこの前もさぁ…。」
車は細道に入ったが、まだ愚痴は続くらしい。

「もうすぐシズちゃん来るから。」
山の麓に車を停めて猫まみれの折原臨也が俺に風呂敷包みを渡しつつ言う。傾けないで持っててよねと言うものの一向に車から出ようとしない。降りないのかと聞くと無言で窓の外を見ろと顎をしゃくられた。見るとこの車をグルリと囲む猫・猫・猫!何事だろうか?
「な・何だこりゃ?」
「さぁね、知らないよ。」
いやお前その猫まみれの姿で言っても説得力ねぇんだけど。
そうこうしていると車を囲んでいた猫が一斉に散っていき、折原に纏わりついていた仔猫も後部座席の奥に引っ込んでいった。またも何が起こったんだと目をむいていると、山から静雄が出てきた。

久し振りに、本当に久し振りに見る静雄は…ブクロに居た頃より少し髪が伸びていて服装もつなぎを着ていたが、金髪・グラサンは以前のままで…静雄だなぁとしみじみ思った。そして片手で軽々と巨大なソリ(?)を抱えて近付いてくる姿にもやっぱり静雄だなぁと思った。






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