セルティが仕事に出かけ、一人家でゴロゴロしていた開店休業状態の僕の元に、そのSOSは飛び込んできた。
いわく「折原臨也がまた何か企んでいる!」と。
最愛の人からのその声に僕が答えないわけがないのだ。
そんなわけで今僕は池袋を離れた友人、静雄の家を目指してセルティとツーリングしている。
どうしてこうなったかというと、もう一人の僕の友人、むしろ悪友ともいえる臨也が依頼してきた仕事が発端だった。
いつものようにセルティに運んで欲しいものがあると彼は連絡してきた。
セルティは臨也のことが苦手なようだが、定期的に仕事をくれるし金払いがいいので長い付き合いとなっている。
今回の依頼はある場所のある男から荷を受け取り、指定した場所に届けること。
いつも通りの内容だが、クーラーボックスと共に渡された指定場所というのが、静雄の住んでいる家だったことが問題だった。
セルティはその場で臨也にメールを送った。
『これは何だ!静雄に何を送るつもりだ!爆発物じゃないだろうな!』
もう2年も前に池袋を離れた静雄に、今更何をしようというのだ!とセルティは憤慨し、臨也を問い詰めようとした。
しかし折り返し電話をかけてきた臨也は、
「仕事拒否かい?だったら他の運び屋に頼むよ。ご苦労さん」
そう言って切れた後は連絡が取れなくなったという。
そうして残されたクーラーボックスを前にセルティは途方にくれ、僕に泣きついてきた。
頼られるって嬉しいね!僕はうきうきする心を押し隠しながら、静雄が危ないと焦るセルティをなだめた。
「落ち着いてセルティ。本当にこの荷物が危険なものだったら、彼なら君には頼まず普通の配達員を装った他人を使うと思うよ。なんだったら開けてみたらいいじゃないか」
セルティと落ち合い、件のクーラーボックスをツンツンとつつくと、セルティは駄目だ危険だと僕の手を叩いた。
恐がっているセルティは可愛いけれど、手っ取り早く安心させるために、あっと叫んでよそを指差し、そっちにセルティが気を取られている間にボックスを開けた。
はたして中に入っていたのは氷、そしてビニールに包まれたマグロの切り身だった。
二人して顔を見合わせ、僕は電話を手に取り臨也の番号を呼び出した。
「ああ、臨也?セルティへの依頼だけど受けるから。ちゃんと届けるよ。うん、じゃあね」
臨也のあっそうという返事を聞いて僕は携帯をしまい、セルティに二人で届けに行こうと提案した。
『これはどういうことだろう新羅』
「うーん、少なくとも危険物じゃなく、美味しいものだよね。しかも臨也の大好物」
『何故あいつが好物を静雄に送るんだ?毒でも入ってるんじゃないか?』
「それこそ君に運ばせるなんてまぬけを臨也がするわけないよ。どういう風の吹き回しかは分からないけど、もしかしたら臨也にも可愛いところがあった、のかもしれないよ」
仲が悪く散々悪さをした静雄相手に臨也からの贈り物、なんて面白いじゃないか。
そう言うとセルティはブンブンとない首を横に振った。
僕とて今更臨也に謝罪の気持ちがあるとは思わないけど、静雄がいなくなって2年、なんらかの変化があったのかもしれない。もしかしたら、だけどね。
「そんなことよりついでだしさ、久しぶりに静雄の所へ遊びに行くという口実でデートしようセルティ!いい天気だし!」
もはや僕はセルティとのデートのチャンスに心躍らせていたわけで、楽しいドライブの末に辿り着いた彼の地に、まさか臨也までいるだなんて思っていなかったのだ。


「おうセルティ、と新羅。久しぶりだな」
ドアを開けて出迎えてくれた静雄に笑顔を浮かべていた僕とセルティは固まった。
その向こうにうちわを持った臨也がいたからだ。
臨也はうちわでパタパタとおひつに入ったご飯を仰いでいた。
部屋の中からは食欲を誘う酢の匂いが漂ってくる。
『なっなななななんでおまえがここに!?!?』
ブルブルと震えてPDAを突き出すセルティをチラリと横目で見て、臨也は不機嫌そうな顔でうちわをほおり投げた。
「シズちゃーん、これもう扇ぐのやめていーよね」
臨也は立ち上がると依頼料だろう茶封筒をセルティに押し付けてきた。
そしてクーラーボックスを受け取り、奥に引っ込んでいく。
僕は目を丸くしてそんな臨也を見送り、静雄に向き直った。
「まさに震天駭地!どういうこと静雄?なんで臨也がここにいるんだい?」
「あー…まあ…うん」
静雄はなんとも歯切れ悪くごにょごにょ言いながら臨也を振り返った。
その視線を受けて臨也も見返してくる。
「なに?いちゃ悪い?新羅になにか迷惑かけたかな?」
「いや、そういうことじゃなくて。だって君ら…いや、おかしいよね?臨也がここにいるの。しかも静雄が切れてない」
「俺がどこにいるか、なんでいるかなんて、新羅に報告する必要あったっけ?俺が何をしようが新羅には関係なくない?」
もう仕事は終わったんだから帰れば?なんて矢継ぎ早に言う臨也に僕はぽかんとする。
いつものイラッとする言い回し、のように見えるが、焦って話をそらしているように聞こえる。
『何を企んでいるんだ!?静雄に何をする気だ!?』
僕が臨也の様子に首を捻っている間にセルティがズイと前に出て、臨也に詰め寄ろうとした。
それを受けて臨也の目の色が変わり、何かを言い返そうとした。
しかしその険悪な雰囲気を断ち切るように、静雄の手がむんずと臨也の口を塞いだ。
「んんーっ!」
「悪いなセルティ、心配しなくても大丈夫だから」
『でも静雄』
「ほんと大丈夫だから。こいつは俺が責任持って飼ってるからよ」
「むぐー!!!!」
自分の体を殴りまくり蹴りまくる臨也をよそに、静雄はそう言ってふっと笑った。
その柔らかい笑みに僕たち二人は硬直して、臨也は顔を赤くしていた。怒りで。
ふいに静雄がビクッとして臨也から手を離した。
「なっ、テメ…っ」
「オエッペッペッ、シズちゃんアホなこと言ってると俺のトロ分けてあげないからね!」
おそらく噛んでも無駄なので、舐めたんだろう。手のひらを擦りながら今度は静雄が顔を赤くした。
ヤバイ乱闘が始まる!と思わず後ずさった僕だったが、
「チッ、てめぇこそさっさと大根千切りにしとけよ」
「しょうがないなぁ。シズちゃんが切ると千切りじゃなく短冊切りになっちゃうからね」
静雄はそう言って暖炉の前に向かい、フライパンを手に持った。
臨也はテーブルで野菜を切り始める。
戦闘が起こらないとは驚天動地!
目を白黒させる僕たちを振り返りもせず静雄が言う。
「これから手巻き寿司作るんだけどよ、一緒にどうだ?あーでも、セルティは食えないんだっけな」
卵を手に静雄はどうやら卵焼きを作るらしい。僕はセルティと顔を見合わせた。
『私はいいから新羅は食べていけばいい』
「セルティが、はいあーんってしてくれるなら食べるけど」
『バ、バカ…』
こうして僕らは摩訶不思議な二人の食卓に招かれることになったのだった。




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