熱砂の■■■ 第五幕

「お久しぶりです、国王陛下」
「ははは、そんなに改まらなくて構わぬぞ、カリム」


 夜も更け、草木も眠る丑三つ時。王宮の謁見の間にて、カリムは玉座に座る王の前で平伏していた。無理を言って……まあ国王は二つ返事で快諾したのだが、こんな時間に謁見を望んだのだから当然の事である。
 しかし国王はカリムに会えただけで嬉しい様で、すぐさまカリムを立たせると己の近くに呼びつけた。周りに立っている護衛達はまたか、と言った顔付きで国王とカリムの様子を眺めている。
 カリムの方も、己やジャミルを可愛がってくれている国王に久方振りに会えたことが嬉しいらしく、素直に顔を綻ばせて国王のすぐ側に駆け寄った。


「其方が兵を出すなと言った時は心底驚いた。其方に害を成す者を蔓延らせたままでいるのは、儂や細君もそうであるが、何よりこの国の民が許さぬであろうよ」
「ええ、そうなる様に生きて参りましたので存じております。しかし、俺のジャミルの家族が人質に取られておりました。それに、他の部下の家族も」
「初動の遅れで其方の夢が潰えたとしても、命が守られるならば構わぬとでも?」
「綺麗事を叶える為の俺の夢ですから、綺麗事を貫きますよ」


 親戚に王族がいるアジーム家の権力は絶大である。数多の富豪が存在している熱砂の国に於いても、突出した財力と権力。一部地域にあっては王族よりも影響力を誇るアジーム家から、弟妹を守る為に必要なものはなんであろうか。アジーム家を継ぐのだけは勘弁だ、と考えていたカリムに取れる手段は少ない。ならばどうすれば良いか。

 カリムがこの国の王位を継げばいいのだ。

 アジーム家の後継者であるカリムが王になるのは、王家にとっても決して悪い話ではなかった。何せ、アジーム家の権力は強すぎる。熱砂の国を治めているのは王家であるのに、一部地域に於いて大富豪が権威を振るっている状況はどう考えたって異常だ。いくら遠縁に王族がいたとて、王家にとってはアジーム家は煩わしい存在だった。だからこそカリムは親戚筋……王家に連なる者達に命を狙われてきたのだ。
 幸い現国王とその妃の間に子供はおらず、国王と血の近い王族には愚鈍な者ばかり。遠縁とはいえ王族と血の繋がるカリムが王位を継承するのに、付け入る隙は幾らでもあった。王家としても、権力を増大させ続けるアジーム家を取り込む……乃至は取り潰す事に異論はない。

 故にカリムは策を練った。先ずは、カリム・アルアジームという存在を国王に認識してもらわねば何も始まらない。生半な事をしてはただの頭のいい子供としか認識してもらえないだろう、などと考えたカリムは、国王ではなく王妃に狙いを定めた。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だ。
 カリムだからこそ売り捌くことができて、尚且つ女性が喜ぶものはなんだろう。ジャミルと額を突き合わせて頭を悩ませたカリムは、母が花を好んだ事を思い出し、熱砂の国では滅多に手に入れる事の出来ない花を流通させた。色や形がいまいち美しくないものは、錬金術の応用で髪飾りなどの装飾品に変え、カリムのお眼鏡に叶ったものは花を好む夫人達へと売り出す。
 そして、気温や水温をきっちりと調節して育て上げたカリムの花は、あのアジーム家の後継者が作ったという話題性もあったお陰か、瞬く間に国中の富豪の夫人達の間で有名になり、彼の花は目論見通り王宮でも扱われるようになった。国内でカリムが育成している為、鮮度の高い珍しい花。しかもその彼のユニーク魔法で生み出した魔力を含ませた水で育成している為、そこいらの花よりも色鮮やかで長持ちするのだ。王宮の至る所にその花々が生けられた事により、富豪たちの間でカリムの花を生ける事がステータスとなるのに、時間はさほど掛からなかった。
 そうして王妃がカリムの名を知り、王もカリムの事を知る様になれば、あとは何も障害などない。己に人誑しの才能があると理解していたカリムは、その才能を存分に活かして国王に取り入った。

 天真爛漫を装って子のいない国王夫婦の庇護欲をそそり、けれども国の為を思いユニーク魔法で乾季に雨を降らせるという慈悲も見せて。ジャミルと共に頭の良さや武勇にも優れた姿を晒し、尚且つ国民に慕われる様に装った。……そうして王族の誰よりも頭を働かせ、国民の衆望を集め。カリム・アルアジームという男が王宮内での支持を得るのにそう時間は掛からない。国王も王妃も、その臣下も、カリムが王の器であると痛感していた。弟妹を守る為に王になる、なんて大それた事を実行しようとしている事を国王は当然理解していたし、だからこそカリムを気に入ったのだ。
 己の私欲ではなく、誰かを守りたいという善性に突き動かされて人の上に立つ。喩え王になる為といえど、カリムが国中に雨を降らせ、その道すがら身分を区別する事なく宴を取り仕切ったのは事実。さらに言えば折角己達で踏破したクベーラの洞窟の財宝も、国を良くする為と言って大半を王宮に納めた。アジームの後継とは思えぬ行動だ。
 ……目的の為ならどこまでも非情になれる人間はごまんといるだろう。けれどカリム・アルアジームは目的の為にどこまでも綺麗事を貫く。もちろん綺麗事で全て上手くいく訳は無いけれど、出来る限りその選択肢を選び続けるカリムこそ、次の王に。……実のところ、国民よりも王宮内の方がカリムの人気は高かった。王は何も言わず王妃も口を噤んだが、そんなこんなでカリムの王位継承はほぼ内定していた。

 まあ、そんな折にアジームの家長が動き始めた訳であるが。


「それはそれとして何故バレたのだ? 儂が其方を気に入っている、と公言はしておるが、其方を養子にする話は儂らの間だけのものであろう」
「年度始めに手紙で、俺の護衛の為に兵士を送る提案をされたでしょう。王の近衛兵である彼らを派遣しようとするなんて、ただのお気に入りに対する対応ではないので」


 新年度が始まってすぐの事だ。あまりにも数が多い刺客に痺れを切らし、またジャミルの負担を減らすという目論見もあって、国王からカリムへと兵士を送るという提案が書かれた手紙が届いている。アジーム家として、国王から後継者へと個人的に送られた手紙を検閲しない道理はない。普通、国王からの私信は家長であるカリムの父に送られるものだからだ。
 いくらカリムが気に入られていると言えど、家長を無視して個人に手紙を送るなど何かあると言っている様なものだった。実際、王族を守るべき近衛兵の派遣などと言った文言が書かれていたので、そこで漸くカリムの父はカリムの狙いと国王の狙いを悟ったらしい。


「……ムッ」
「つまり王が悪いです」
「儂は悪くない、其方が心配だったんじゃ」
「だめです」


 まあ、カリムが多少楽観視していたのも良くなかったとも言える。カリムは、喩え彼が国王の養子になり、王位を継いだとしても、父親は何とも思わないと思っていたのだ。
 何せ母や弟が殺されても第二夫人を罰さなかった男である。己が愛されている筈がないと、カリムは思い込んでいた。カリムが養子に行っても我関せず、ムガルを新たな後継として扱うのだろう、なんて。だから弟妹達を後継にできぬ様……彼らを守る為に国王と打ち合わせをして、弟妹全員を王宮に住まわせる準備だって秘密裏に行っていた。

 なのに蓋を開けてみれば、父はカリムが家から飛び出す事を一切許容しない。自分の手元から出ていかぬ様、人質をとってまで阻止してきた。

 よくもジャミルの家族を人質にとってくれたな、と苛立ち半分、あの人は自分に対して執着心を持っていたのかと驚き半分。邪魔をしてくるならば第二夫人だろうと考えていたカリムは、後手に回ってアジーム家と相対するしかなかった。


「養子になった後ならば兵を送っても構わぬか?」
「茨の谷と夕焼けの草原との間に要らぬ軋轢を生むだけですからダメです」
「ム……儂だってカリムが心配なんじゃ。細君も賛成しておる」
「俺にはジャミルだけで十分ですよ。……それより、いくつか用意していただきたい物があるのですが……」


 儂は不機嫌だ、と言いたげに膨れっ面になっている国王をスルーして、カリムが懐から携帯端末を取り出す。
 彼は本来ならば学園を卒業した後に国王の養子になるつもりだったが、今回の事を受けて、4ヶ月前……つまり新年度の時点で養子になった事にしたのである。なのでアジームの家長や夫人達は、王族になったカリムに対する反逆罪で御用となった訳だ。
 まあ、"養子になった"とするにあたり、準備せねばならないものは山程ある。カリムの交易相手にも名前が変わった通達を送らねばならないし、学園にも名前の変更等の書類を届ける必要がある。なんなら、ここ2週間ほど学園の外に出る事を禁じられていた為、貿易相手に弁明に向かわねばならない。それにあたり国王の勅命書や、王族からの下賜の品を用意してもらう必要があった。
 ……合宿で馬鹿みたいに忙しかったカリムだが、寧ろ今からの方が大忙しである。


※※※


 カリムの部屋で一息ついたジャミルは、カリムの残した情報……イデア・シュラウドが調べた内通者の名前をじっと見つめた。イデアの調べた事なので間違いは無いだろうが、そこに書かれていた名前の生徒は……はっきり言ってアジーム家に全く関係のない家系である。何がどうしてカリムでなくアジーム家の家長の味方についたのやら。……父親に頼まれて仕方なく、消極的ではあるがアジーム家に味方していたという情報が書かれているが、そもそもその父親が何故アジーム家に関わりがあるのか。意味が分からない。
 カリムがイデアに頼もうぜ、と言ったのは矢張り正解だった。自分の情報網に自信のあったジャミルではあるが、部下……ニシットやナーマンとやり取りが禁じられてしまえば、全寮制の学園に通っているジャミルに出来ることは殆どない。なのでイデアに頼むと言い出したカリムに対し、多少不満に思いつつも口を挟むことはしなかった。……俺だって、部下と情報交換出来れば内通者ぐらい見つけられたのに、なんて。

 過ぎたことを言い募っても仕方ない。2度とカリムが他人の手を借りぬ様、イデアにハッキングのやり方を教えて貰おうと1人決心したジャミルは、ゆっくりとした足取りでカリムの部屋を出る。フロイドにユニーク魔法を掛けたものの、後にオクタヴィネル寮との要らぬ軋轢を生んではカリムに迷惑がかかる、と2、3分で洗脳が解ける様にしておいたのだ。人質は皆無事らしいが、洗脳しておいたフロイドの監視の目が無くなったからと、内通者達がアジーム家に連絡をとって万が一があれば事だろう。
 それにフロイドが洗脳された事に対してオクタヴィネルの奴らがキレても困るし、早く談話室に戻るに越したことはない。カリムが戻ってくる前に寮生達に軽く事情を説明し、アズール達も納得させて。……オンボロ寮の監督生はどうしてやろうか。身寄りが無くてかわいそうだとカリムが溢していたし、オンボロ寮の改装ぐらいならカリムとジャミルの魔法で済ませられるから、彼に対する詫びはそれでいい筈。
 カリムが何かしら考えているであろうが、それはそれ。監督生をこの合宿に連れてきてしまった落ち度はジャミルにあるし、その監督生がアズール達を連れてきたのだから己が責任を取らねばならぬ。まあ、ジャミルの持つ裁量の中でモストロ・ラウンジにスパイスでも卸してやれば良いだろう。彼も彼で疲れが溜まっていた為、割と適当な事を考えていた。

 そんなこんなで生欠伸を噛み殺しつつも談話室へと足を進めていたジャミルだが、遠くから聞こえる喧騒に首を傾げた。ドンガラガッシャンと何かが落ちる音と、ぎゃんぎゃんと喚く声。挙げ句の果てには爆発音だ。
 もしやオクタヴィネルの奴らが暴れまわっているんだろうか。あそこにはカリムのお気に入りの敷物があったし、ぐちゃぐちゃにされては困る。……うちの寮に置いてあるモノは基本、カリムやアジーム家が用意した高級品だとアズール達も知っているので、暴れ回るなんてしないと思っていたのだが。これは不味いな、と小さくため息を吐いたジャミルは駆け足で談話室に向かって行った。


「はぁ? ご主人様がこっから出んなっつってたんじゃん。話聞いてた?」
「っだから! 何故お前がジャミルさんの言う事を素直に聞いてるんですか?! 普段のフロイドなら誰かの言う事なんて聞かないでしょう!」
「落ち着いてください、フロイド。今貴方はジャミルさんのユニーク魔法で洗脳されているんです」
「ご主人様がそんな事する訳ないじゃん。あ、あとそこのお前はなにどさくさに紛れてスマホ触ってんの? 連絡とんなってご主人様が言ってたよね」


 談話室の唯一の出入り口の前に陣取ったフロイド・リーチは、外に出ようとする生徒やスマホを触る生徒に向けて雑に魔法を放つ。彼にとっての雑、なので結構な威力の水魔法が談話室を飛び交い、そこら中が水浸しになっていた。どうにかフロイドに魔法を掛けた張本人であるジャミルを追いかけようと、アズール達が協力してフロイドを突破しようとするものの、残念なことに今日のフロイドは好調であるらしい。
 ユニーク魔法である『巻きつく尾』で魔法を逸らし、挙句にアズール達の攻撃を彼ら目掛けて跳ね返す始末。今まで見た中で1番調子が良くないかこの男と、アズールは思わず舌打ちをした。
 兎に角動きを止めなければ、と木魔法の蔦で手足を絡めとろうとするも、ファイアショットで焼き払われて終わりだ。アクアウェーブはアクアウェーブで相殺されてしまう。ジェイドが彼に近付いて、羽交い締めにしようとした所でフロイドが長い脚を蹴り上げ、ついでとばかりに牽制とばかりにボイドショットが飛んできた。
 幸い未だに怪我人が出ていないものの、誰かが怪我するのは時間の問題であろう。アズールは悲鳴を上げながら必死に談話室の消化活動に勤しむスカラビア寮生達を見やり、役に立たないなと眉間にシワを寄せた。今は談話室に置かれている、高級であろう備品だとか気にしている場合ではないだろうに。そんな事を考えつつ、アズールとジェイドが息を合わせて2方向から魔法を放つものの、あまり効いていない様子。フロイドが天才肌で優秀だと知ってはいたものの、ここまで厄介な相手になるとは。アズールもジェイドも戦闘向きのユニーク魔法ではないので、中々フロイドの防御を抜けないでいる。

 ……などと、攻めあぐねていた所、談話室にジャミルが飛び込んできた。


「っおい! 何故暴れている?!」
「あなたがそれを言うんですか、ジャミルさん!」


 アズールがジャミルを睨みつけてそう叫んだものの、ジャミルからすればフロイドが大立ち回りを演じている意味が分からなかった。何せ、フロイドに掛けたユニーク魔法はすでに解けている。
 フロイドにアズール達と敵対する理由がないのだ。


「あウミヘビくんだ
「先輩たち! 今がチャンスです!」
「っ、ウォーターショット!」
「アクアウェーブ……!」


 談話室に飛び込んできたジャミルに気を取られたらしく、フロイドが隙を見せた。そして、それを見逃す監督生ではない。彼は素早くアズール達に指示を出し、2人もその指示に従って魔法を放つ。一拍遅れ、自身に向かってくる魔法に気付いたフロイドが魔法を逸らそうとしたものの、一瞬の気の緩みが決定打となった。ジェイドの魔法を逸らしてアズールのウォーターショットの1撃目は相殺できたが、2撃目彼に直撃する。
 攻撃を受けて体勢を崩したフロイドに対して、ここぞとばかりにジェイドがマジカルペンを振るい、フロイドの両手が紐で括られて封じられた。

 そんな様子を談話室の入り口近くでポカンと見つめていたジャミルは、アズール達に目をやって、ズタボロになっている談話室を死んだ目で見つめたあと、手を封じられてケラケラと笑っているフロイドを見上げる。……つまり、何がどう言う事だ?


「……は?」
「いや、は? じゃないんですよ。あなたがフロイドを洗脳したんでしょうが」
「え、あ……? いや、洗脳は2、3分で切れる様にしたんだが……」
「…………フロイド?」


 珍しく表情を取り繕う事なく、唖然とした顔のジャミルを見て、アズールはおや、と首を傾げた。嘘を吐いている様子は見受けられない。アズールはジェイド目配せをしたが、ジェイドの方もジャミルが嘘を吐いているとは思えないらしい。彼も首を傾げていた。


「ウミヘビくん、なんか分かったの?」
「あ、ああ、そうだな。いや、そうじゃない。なんで君は洗脳が解けていたのに暴れ回ったんだ?」
「え、アズールとジェイドが必死になってたの見て楽しくなっちゃった」
「楽しくなっちゃった?! こっちは肝が冷えたんですからね?!」
「フロイドは意外と演技派なんですね」
「ジェイドはジェイドで感心しない!!」


 曰く、普段自分の気の向くままに行動しているフロイドだが、ジャミルのユニーク魔法による洗脳で"ジャミルの命令を遂行する事が楽しい"と思ったらしい。初めて誰かの命令に従う事が楽しかった為、洗脳が解けた後も気分が良かったので好き勝手に暴れた、と。
 こう言う時だとアズールとジェイドと遠慮なく喧嘩できるし、なんて彼は物騒な事も言っている。……心配させるんじゃない、と言えば揶揄われる事は目に見えていた為、アズールはフロイドを小突くに留めた。尚、ジェイドは遠慮なくフロイドに肘固めをしている。
 そして、痛い痛いというフロイドの叫び声をBGMに、アズールはジャミルを見つめた。


「……で? 何が分かったんです?」
「それはカリムが帰ってきてからだ。……さて、お前たち。お察しの通りカリムの方がうわてだ。今ならカリムも、家族の為だったという言い訳を聞き入れてくれるだろうな?」


 外部と連絡を取ろうとしたり、談話室から抜け出そうとしたからという理由でフロイドに攻撃された内通者達へと、ジャミルは最後通牒を行う。家族たちを人質に取られたり、アジーム家に逆らえぬ家系の者だったり。今回カリムと敵対した者達には様々な事情がある。
 いくら事情があろうともカリムと敵対したのだし、それ相応の罰を与えればいいとジャミルは考えるが、当のカリムは、あのカリムなのだ。彼は、ジャミルには到底できない罪を赦すという行為を、容易く行ってしまう。……それは決して善意だけという訳ではない。許しを与えて罪悪感を植え付け、カリムへ忠誠を誓わせたり心酔させやすくなるから、彼はその手段をとる。まあ、それでも許せる程の心の広さと善性を持つカリムだからこそ、出来る事と言えよう。

 ジャミルにとってはカリムに敵対した時点で許し難い事だが、カリムが許す選択をする男だから、ジャミルは彼らを許さなければならない。せいぜい死ぬまでこき使ってやる、とフロイドに攻撃されて這い蹲る寮生を見下ろしながら、ジャミルはそんな事を思っていた。


「本気で言ってます? アジームの本邸を抑え込めたとでも?」
「はは……お前は今まで何を見てきた、ウィサーム。余りにもカリム・アルアジームという人間を舐めてやしないか」


 カリムはその優秀さを無駄にひけらかすような人間ではないけれど。たった数年で並みの富豪に引けを取らない財産を築き上げ、国中の人間の支持を得るなんて事をやってのけた男が、アジームの膨大過ぎる富を受け継いだだけの男にやり込められる筈がない。

 この俺が、ジャミル・バイパーが仕えるに値すると信じた男が、誰かの前に膝を付くなんてあり得る筈がないのだ。


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