熱砂の■■■ 第二幕

 カリム・アルアジームの様子がおかしい。モストロ・ラウンジにアジーム家の家宝である魔法の絨毯ごと突入して、辺りをぐちゃぐちゃにしたオンボロ寮の監督生はアズールにそう伝えた。それを聞いたアズールは珍しい事に、心の底から驚愕した。そばにいたジェイドとフロイドも同様である。
 "あの"カリム・アルアジームの様子がおかしい? 馬鹿言うんじゃない、と笑い飛ばしてしまえそうな程だ。あの男が他人に異変を知られる様な真似をする筈がない。
 そう言って馬鹿にしようとしたアズールだが、やけに疲労している監督生とグリムの様子に口を噤んだ。監督生は、こんなになってまで下らない冗談を言う性格の人間ではないとアズールは知っている。……つまり?


「……カリムさんが変、ねえ」
「休暇中合宿だって言って、オレ様たちまで巻き込んで勉強と運動漬けなんだゾ……」
「そうなんです……メニューも厳しいものばかりで、スカラビア寮生の皆さんですら大変そうで……」
「ジャミルさんはどうしてるんです? カリムさんを止めてますか?」
「いえ、みんなのフォローに回ってくださってるので、カリム先輩とは殆ど会話をしてないみたいです」


 おや、とアズール達は首を傾げた。どんな時でもカリムの側を離れないジャミルが、カリムの側を離れている? そんな馬鹿な。それならばカリムの様子がおかしい方がまだ頷ける。
 ……いや、逆だ。ジャミルの様子がおかしいから、カリムの様子も引き摺られておかしい? 判断材料に欠けるが、様子がおかしいのはカリムではない。カリムとジャミルの双方が変なのだ。
 詳しい事を聞かねばならない、とアズールは満面の笑みで監督生達を歓迎した。スカラビア寮で何が起こっているか、誰が何を企んでいるのか。全く知らない状況ではあるが、この好機にかの寮に乗り込めば、カリムの鼻を明かしてやれるに違いない。期末試験の結果発表の後、喜び勇んでカリムに喧嘩を吹っかけたものの返り討ちにされたアズールは、予想よりも早目にカリムと相対出来そうで心底喜んでいた。
 ……そんなアズールを見たフロイドは、ニタリと笑みを浮かべて口を開いた。


「あはっ、アズールってば、ラッコちゃんにしてやられたのがそんなに悔しかったぁ?」
「なっ、今はあの事は関係ないでしょう?!」
「いえいえ。あの時のアズールは半泣きでしたし、その後ジャミルさんにすら警戒してましたよね?」
「2人して、またあの事を穿り返すのはやめなさい!」


 やぁだ、と言いながら、フロイドは頭に疑問符を浮かべている監督生を手招きし、アズールとカリムとの間にあった一悶着……監督生がイソギンチャク解放の為に奔走してた裏であった出来事を、嬉々として語り始める。一方、話すのを止めろ、と喚くアズールの口を止める為に、ジェイドはモストロ・ラウンジに備蓄してある缶詰のフルーツを、アズールの口に詰め込む作業を開始していた。
 アズールはお行儀がいいので、文句を言おうにも口に詰められたフルーツを咀嚼するので手一杯だ。結局、愉しそうなフロイドの口を止めることが出来ず、拗ねール・アーシェングロットが出来上がった。


「……アズール先輩、二兎どころか三兎を得ようとして一兎も得られなかったんですね……」
「しみじみ言うのをやめなさい! 良いですか、この事を公言しないでください」
「エーデュースに教えます」
「余程スカラビア寮に戻りたい様ですね……?」


 それだけは勘弁して! と悲鳴を上げる監督生だが、元よりアズールはスカラビア寮へと乗り込むつもりであったので意味はない。手土産を用意しましょうか、とジェイドに指示を出した彼は、目を細める。

 カリムの様子もそうだが、彼が寮生達に不満を感じさせるやり方をしていることが1番の違和感だ。カリムという人間ならば、寮生達に自主的にウィンターホリデーを返上させるぐらい簡単に出来よう。それに砂漠の行進だって、体力をつけるというのなら、何もわざわざ砂漠に行かなくてもいい。
 休暇中なのだから申請さえしておけば、学校の設備は使い放題だ。マジフト場で走り込みなどした方がよっぽど効率的。……その事に気付かぬカリムではないだろうし、そもそも彼にはジャミルがいるし。

 何が起きているかは知りませんが、精々引っ掻き回してやりましょう。


※※※


 捕らえられた宇宙人の様に、高身長のリーチ兄弟に挟まれて連行されている監督生と、その監督生の腕に拘束されてぐったりとしているグリム。そしてニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて、スカラビア寮を訪れてきたオクタヴィネル三人衆を見たジャミルが、頭を抱えている。その隣にいるウィサームは、愉快そうにケラケラと笑い声を上げた。
 

「おはようございます、ジャミルさん」
「……はぁ……。折角逃げられたのに戻ってきた監督生は兎も角、アズール達は何故いる? それに絨毯も……」
「僕たちの故郷は、冬は帰省が困難な立地でして」
「いや、お前達が帰省していないのは調べてあったさ。俺は何故スカラビア寮にいるんだ、という意味で聞いたんだが」


 バチバチ、とジャミルとアズールが睨み合う。監督生は内心、ひええと思いながらリーチ兄弟の背後に隠れようとするが、双子が腕を離してくれないので身動きが取れなかった。その様子を見たウィサームは更に爆笑する。朝から元気だなこの人。
 スカラビア寮の中に入ろうと体を動かすアズールと、それを牽制するジャミルは膠着状態に陥った様だ。そして、笑っているウィサーム以外のスカラビア寮生はどうしたもんか、と顔を見合わせていた。ジャミルに助太刀した方がいいのだろうが、相手はオクタヴィネル寮の寮長だし、その背後にはヤバイと噂のリーチ兄弟がいる。下手に手を出すと大怪我してしまいそうだから、皆尻込みしていた。


「ところで、カリムさんはどこにいらっしゃいますか? 魔法の絨毯をお届けにあがったのですが……」
「……届け物なら俺が預かるから帰ってくれないか」
「いえ! 結構。この魔法は国宝級の逸品です。後々傷などが発見されて“オクタヴィネルの奴らのせいだ”などとクレームをつけられては困りますから、直接カリムさんにお渡しして、しっかりと検品して頂きたい」


 どうしても寮の中に入りたいのか、この男。尤もそうな事を高らかに宣うアズールを、ため息をついて頭を抱えながらジャミルは眺めた。……どうすれば追い出せるだろう。
 滅茶苦茶執念そうなアズールには何を言っても無駄かもしれない、と最早半分ぐらい心が折れていた。合宿中誰よりも早く起き、食事の準備もした上で砂漠を行進して、更には教師役。カリムもそうだが、2人とも割と疲れが溜まっているのだ。なのに、口の回るアズールと頭を働かせながら会話をするのは骨が折れる。
 一瞬、俺が喋らずともカリムが対応してくれないかな、なんてジャミルは考えたが、頭を振ってその考えを他所へやった。それは流石にカリムに申し訳なさすぎるだろう。


「カリムはそんなことを気にしない。仮に俺が預かった後に傷が発見されたなら、それは俺の責任だろう。それにお前達がこの寮に足を踏み入れる事の方が問題だ」
「ご安心ください。カリムさんに絨毯をお渡しして少しお話しすれば退散しますよ」


 嘘つけ、とジャミルとウィサーム達スカラビア寮生は思った。押し黙ってしまったジャミルに対して、畳み掛けるのは今だと思ったのか、ずずいとリーチ兄弟が前へと出て胡散臭い笑みを浮かべる。……当然、彼らに拘束されたままの監督生も前へ出る羽目になった。


「手土産のシーフドピザも持って来たしぃ」
「とにかく、絶対に直接会ってお渡ししたいのです。彼はもう起きていらっしゃいますよね?」
「…………ああ、クソ……面倒な奴らだな……。あっ、勝手に入っていくな! アズール!」


 髪を掻き乱して苛立った様に呟くジャミルを尻目に、アズールはカリムが居るであろう寮の奥の方へと靴音を鳴らしながら歩いていった。その後ろをジャミルは急いで追いかけて行く。
 どうしたらいいのだろう、と暫くスカラビア寮生達はキョロキョロしていたが、取り敢えずといった面持ちでジャミルを追っていった。……後に残ったのは、リーチ兄弟と監督生、そしてウィサームだけである。


「ははは、バイパーさんがあんなに嫌がってるの初めて見ましたよ。あ、おはようございます。ぼく、アジーム家の使用人の息子のウィサームです。初めましてリーチさん達」
「初めまして。ジャミルさんの隣にいるのがカリムさんではないというのは大変珍しいですね。何かあったのですか?」
「ああ、アジーム家の家長……つまりカリム様の御父君の指示なんです。バイパーさんの働きが素晴らしいものなので、他の使用人にも見習わせる為、まずは同じ学園に通うぼくが彼に師事をうけろ、と。彼のカリム様のサポートは完璧ですので」


 へぇ、知らなかった。少しだけ照れた様に頬を掻いてそう言ったウィサームに、監督生は素直な感想を抱いた。仲が悪そうだし、ウィサームはジャミルの前でカリムの悪口とも取れる発言をして煽っていたが、そういう理由で一緒にいたらしい。相性は悪そうだけど、そういうのを無視して付き合いをせねばならないのは中々大変そうである。
 そしてジェイドとフロイドは、ジャミルとカリムの異変にウィサームが関わっているかもしれない、と彼に積極的に話しかけていく。カリムを尊敬しているか、ジャミルをどう思っているか、だとか。
 しかしまあ、当たり障りのない返答しか得られなかった。アジーム家の使用人の子であり、ジャミルから手解きを受ける程度に能力がある男だ。そう易々と情報を渡してくる事はないと、2人ともわかり切っていた。
 そうやって会話をしながら寮の談話室へと向かっていくと、どうやらカリムとアズールが遭遇したらしい。ジャミルの焦ったような声が響いてきた。


「おま、アズール! ズカズカ入って行くなと……!」
「ん? どうしてアズールがウチの寮にいるんだ」
「こんにちは。ご機嫌いかがですか、カリムさん。いやぁー、いつ来てもスカラビアは素晴らしい。外は雪もちらつく真冬だというのに、まるで真夏の陽気じゃありませんか。リゾート開発をすれば、大量の集客が見込めそうな素敵なロケーションです」


 ペラペラと畳み掛けるように言葉を紡ぐアズールを見て、視線を横にやってジャミルの顔を見て。カリムは首を傾げた。ジャミルからの情報で、アズール達がウィンターホリデーの最中も帰省していないと知っていたが、何故スカラビア寮にいるのだ。
 もう一度、ニコニコしているアズールを見つめてカリムは何かを言おうと口を開いたが、結局ジャミルに向き直って彼の名前を呼ぶ。


「…………ジャミル?」
「ああ、その、脱走した魔法の絨毯を捕まえたらしいんだ」


 ジャミルが項垂れながら親指で指し示した先には、飾り房を振り乱して得意気にしている魔法の絨毯が。楽しかったよ、と伝えたいのかいつも以上に元気にはしゃいでおり、丸まったり広がったりと大忙しだ。
 しかしカリムがピィと指笛を鳴らせば、先程までの大暴れが嘘のように大人しくなって彼のそばまで飛んで行った。絨毯のそんな様子を見てほっとため息を吐いたジャミルが、カリムから絨毯を受け取る。こいつめ、とジャミルが飾り房を叩けば、遊んでもらえると勘違いしたのか魔法の絨毯がジャミルの身体に巻き付いた。
 やっぱりこの絨毯はちょっと面倒臭いな。本日何度目かのため息を噛み殺しながら宝物庫に戻れ、と彼がジェスチャーすれば、脱走して飛び回って満足していた絨毯は素直に宝物庫に向かって飛んでいく。
 ……最初から独りで戻っておけよ、とカリムとジャミルは思った。


「そうなんです! カリムさんの絨毯がモストロ・ラウンジに突っ込んできたので、お届けにあがったんですよ」
「んー。成る程な。まどろっこしいのは面倒だから結論を言ってくれよ」
「カリムさんはせっかちですねぇ。……ゴホン。提案なのですが、オクタヴィネルもスカラビアの合宿に合流させて頂けませんか?」
「お前の作ったテスト対策ノートが原因で合宿をしている様なものなのに、お前達と合同合宿? 面白い提案をするなぁ」


 にこりと笑顔で威嚇するカリムに、昨年度の毒殺未遂事件を思い出したドーン達2年生が、ひええと小さな声を上げた。あの事件で哀れなイグニハイド生達は引き篭もったりしたが、実は精神的ダメージを1番負っていたのは、あの日カリムの近くに座っていたスカラビア寮生達である。つまりはトラウマになっていたのだった。
 そんな寮生達に気付きつつ、どうしたもんかとカリムは悩んだ。彼が自分で計画して実行しているこの合宿。ちゃんと自分の限界を見極めた工程だが、当然カリムもジャミル同様に疲れは溜まっている。そんな状況で、意地でも合宿に参加したがっているアズールを追いやるのは無駄な労力過ぎるだろう。


「……カリム、どうする」
「いいぜ、やろうか合同合宿」


 不承不承。渋々。……本当は嫌だ、と丸分かりの顔つきと声色でカリムが答えた。が、アズール・アーシェングロットという男は一切めげない。
 彼はあからさまな作り笑顔でカリムに向き直り、歓喜に塗れた声で話し出す。


「あぁ……カリムさん! なんて懐が深くて……」
「ただし! 合宿の工程や学習内容に口出しをするのは構わないが、それを採用するか否かといった諸々の最終決定権は俺にある。いくらアズールがオクタヴィネル寮の寮長といえど、ここはスカラビア寮だ。こちらのルールに従ってもらうぞ」
「それはもちろん! 貴方の指示に従います」


 アズールの好きにさせるつもりはない。暗に俺に従えよ、と言うカリムに対してアズールは素直に頷いた。合同合宿にしてしまえば、あとはこっちのものだとアズールは考えていたのだ。
 どうやらカリムとジャミルの双方共に疲労で、多少思考を面倒臭がっている節がある。今なら前の様に言いくるめられる事もないだろうし、なんならこちらがカリム達を言いくるめる事すら出来るかもしれない。


「料理や掃除のお手伝いなら、僕たち双子にお任せください。聞いたところによると、今までカリムさんとジャミルさんが交代でしていらっしゃったとか」
「そーそー。ずっと働き詰めらしいし、ちょっとは休んだらー? オレたちいつも店でやってるから、そういうの得意だしぃ」


 双子の援護射撃も良いタイミングだ。例の商談以外でモストロ・ラウンジを訪れた事のないカリムとジャミルだが、かの店の評判はよく知っている。そこの厨房を任されているというのなら間違いはないだろう。


「……なら、俺の食事以外はお前達に任せてもいいか?」
「毒味しても食べらんないの?」
「食べるつもりがないだけだ。……よし、今日の予定は少し変更しよう。ジャミル、寮生達に伝えてくれ」


 フロイドの純粋な疑問に答えたカリムは、ジャミルを呼びつけて予定の相談をし始めた。今まで、カリムとジャミルしかいなかった勉強会での教師役に、アズールがふえたのだ。教える科目の調整をせねばならないし、フロイド達が料理を作ってくれるのならばそれに合わせたスケジュールも組まねばならない。


「ああ、分かったよ。……ウィサーム、お前は何関係ないとでも言いたげな顔して突っ立ってる。お前も働け」
「えぇー。ぼくはバイパーさんの働きぶりを見て覚えようと……」
「体で覚えろ」


 わーん横暴です、と軽い口調で言ったウィサームはジャミルから変更後の予定を聞くと、1年生達に伝える為に談話室から出て行った。それに続いてジャミルも2年や3年達に予定を伝える為に談話室を離れ、また他のスカラビア寮生達は、砂漠の行進の準備の為各々の部屋へと戻って行く。
 ……談話室に残ったのは、疲れた顔のカリムとご機嫌なアズール達だけだった。


※※※


「……何故だ」
「何故だ、じゃないよアズールぅ」


 スカラビア寮の談話室にて、呆然とした表情で呟くアズールに対して、フロイドからの鋭いツッコミが入る。


「アズールが全然歩けないから、ラッコちゃん達にちょー負担かけてんじゃん。ラッコちゃんとウミヘビくんに休んで、ってオレたち言ったのに逆に仕事増やしてさぁ」
「流石に今日のカリム先輩はしんどそうでしたよね……。ジャミル先輩も」
「くっ……こんなはずでは……」


 午前の砂漠の行進。これがダメだった。
 フロイドはバスケ部員だし、特技はパルクールなので普通の人間よりも体力がある。ジェイドは山を愛する会に所属しており、読んで字の如く山登りをしているので体力はあった。しかし、アズールはボードゲーム部員だ。そして本人も自覚しているが、彼は運動が苦手なのである。さらに言えば基本的に寒冷な地域である珊瑚の海出身なので、暑さにも弱い。
 つまり当然の結果だが、砂漠の行進でアズールは殆ど歩けなかった。余裕のあるジャミルがアズールの背中を押してやったり、カリムがアズールの為にいつも以上に雨を降らせたりと色々工夫して貰っていたが、結局ぶっ倒れそうになっていたので物資を運んでいたラクダから荷物を下ろし、そこにアズールを乗っけて行進する事になったのである。
 尚、下ろした荷物はカリムとジャミルが手分けして運んでいた。


「良い機会だしさぁ、アズールまじで体力つけたら?」
「い、いやです。僕らはスカラビアの問題を解決しにきたんですよ? どうして体力をつけないとダメなんですか」
「でも、今日のあいつらすぐに部屋に引っ込んじまったゾ」
「そうですよ、アズール。彼らに話を聞こうにも、疲れ果てた2人を叩き起こせば流石に怒られます」


 倒れそうなアズールのおかげで、砂漠を行進する距離はいつもより短かったがそれはそれ。明日から行進のやり方を見直さないとな、なんてカリムとジャミルが頭を捻っていたのを監督生達は目撃していたので、負担を減らすと言った割に増やす事しかしていない事実になけなしの良心が痛んだ。それに、彼らに尻拭いをさせたという事もプライドに傷が付く。
 どうにかして挽回せねばならないし、それにかまけていればカリム達の異変を暴く事に時間を割けない。



「僕らの方で合宿の時間割の案を考えましょう。カリムさん達に話を聞きたいので、彼らの負担を最小限にする形で。ねぇ、アズール」
「……そうしましょうか。じゃあまず朝の行進ですが、僕とカリムさんとジャミルさんはラクダで移動するという事に」
「いや、アズールはちょっと歩いたら良いじゃん」


 人魚の僕に地を這えと?! と文句を言っているアズールを無視し、双子達は紙に計画を書いていく。オクタヴィネルの3人を警戒して遠巻きにしていたスカラビア寮生達も、アズール達が合宿の時間割の案を出し合っている事に気付くと、彼らの近くに寄ってきてああでもないこうでもないと言い始めた。
 が、どの生徒も寮長と副寮長の負担を減らしたいと、同じような事を言っている。


「まとめると、料理当番を交代制で作って、当日の料理当番は仕込み等をしてもらう為に行進は免除。そして、僕とカリムさんとジャミルさんはラクダに乗って行進」
「アズールだけズルくない?」
「ズルくないです」


 いいですか、僕はタコの人魚です。人間じゃないので陸を歩く適正が少ないのですよ。
 まるで自分は正しい事を言っています、とでも言いたげな態度で言葉を紡ぐアズールに、監督生とグリムは呆れた顔をする。じゃあバスケ部で飛び跳ねているウツボの人魚は一体何なのだという話だ。
 合宿で苦手を克服しようとしているスカラビア寮生からすると、体力がないのを改善しようとしていないアズールに色々と文句を言いたかった。……というより、アズールが試験対策ノートを対価に契約をしまくった煽りを受けて、スカラビア寮の成績が最下位だったのだ。皆、アズールに言いたいことが沢山ある。
  しかしまあ、彼はオクタヴィネル寮の寮長だ。寮長クラスに喧嘩を売ったとなれば、それは寮全体に迷惑がかかってしまう。生憎と熟慮の精神に適性があるスカラビア寮生は、後先考えずに喧嘩を売るなんて真似は一切しない……つまりは、文句を言いたくても言えないという訳だった。


「後は、僕が錬金術、ジェイドは魔法薬学。ジャミルさんは文系科目、カリムさんには他の理系科目をお願いするとして……」
「オレ実践魔法ねぇ」
「じゃあフロイドは実践魔法、と。こんなものですかね。明日の朝一にでもカリムさんに提出しに行きましょうか」


 翌朝カリムにそれを見せた結果、カリムとジャミルはラクダに乗らずに、アズールだけがラクダに乗ることとなった。


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