嘔吐と範囲内
▽ 嘔吐と範囲内


朧車は私の贔屓にしている籠屋だ
長旅でも退屈しないくらいに話が面白く、聞き上手、些かお喋りな私にはぴったりの籠屋
しかも安い(小声)


「おっ、棗の旦那じゃないですか!」
「こんにちは、少し遠いけど大丈夫かい?」
「ご利用ですか!どちらまで?」
「閻魔殿なんだけど…」
「承知しました!最速で飛びますよ!」

「ふふ、相変わらず話すのが巧いねぇ」
「いやいやそんなこと無いですよ!」
「息子は少し口下手でねー」
「おや?息子さんがいらしたので?」

「つい五百年前だったかな?最近話題になってる子なんだけど、知ってるかい?閻魔の第一補佐官の鬼灯」
「えぇ、存じております。とんでもないスピード出世、今度和漢競技大会の審判も勤めるそうで」
「私の息子だよ、実の子では無いけれど本物の親子のように仲が好いんだ」
「エリート一家じゃないですか!」
「最初は私の七光りだとか私が七光りだとか言われてたけれど、鬼灯は優秀だからね。ねじ伏せて立つ姿はもう立派な鬼神さ」

私の息子自慢に嫌な顔一つせず、和気藹々と走っていれば思いの外早く着くもので、既に閻魔殿に着いてしまっていた
名残惜しい気持ちを抑えつけ勘定は不知火に任せ、籠を降りて感謝の言葉を述べる

門番の獄卒には顔を見せるだけで通行許可してもらえるからこんなに緩くていいのか、と不安に成った旨を不知火に告げれば貴方だけです、と凄い微妙な表情を向けられて複雑な心境に成った

さて、昼の二時を迎えたが本日最後の裁判をやっていたため少し覗き見をする事にした


「判決は、叫喚地獄!」
「じっ、慈悲をー…」
「慈悲はない!」
「慈悲はない」
「えっ?」


扉から二人そろって出て行くと閻魔が焦りだした


「なんで事前に言ってくれないんですか!何も準備してませんよ!!」
「要らない要らない。今日は書類と出産祝い持ってきただけだから」
「あぁありがとうございます!!」
「ふふ、自分の子だ。大事にするんだよ?」


バタンと勢い良く扉が開けば横腹に衝撃を感じる
後ろに倒れることはなかったが痛みは緩和できなかった
恐る恐るその物体を見れば愛しい我が息子だった
その頭を撫でてやれば素早く上がる頭


「父上っ!」
「相変わらず忙しそうだね、鬼灯」
「何故言ってくれなかったのですか、私も門番から聞かなければ…」
「驚かせたかったんだ、許してくれ」


少し拗ねた様子の息子を腕に抱けば温もりに頬が緩む
いつまでも甘えたがりだなぁ、と思えてしまったが私のことか鬼灯のことか分からなくなるので考えるのを止め、目の前の幸せに沈むことにした

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