悪寒と過去形
▽ 悪寒と過去形



ほぅ、と湯船に浸かりながら一息つく
鬼灯は最近閻魔のお眼鏡にかかって第一補佐官として働いている
ナミちゃんをクビにするだなんて思い切ったことをするものだと感心したが、彼女は少しばかり私怨に突き動かされすぎた
鬼灯は補佐官として閻魔殿の寮に住み込みで働き始めた
千年経ったか経つまいか、何れにせよ私も老化が始まっているのだろう
周りは閻魔の方が老けて見えると言うが中身は私の方が老人だ

鬼灯が居なくなってからこの家も寂しくなったものだ、と考えつつ、最近眷属になった三人の顔を思い浮かべる

不知火は真面目な顔して拷問のことしか考えていない
小鳥遊は子供みたいな背格好なのに考えることは大人で達観してしまう
蛇之目は数少ない女獄卒の一人だが中身はとても男らしく、潔い

身近にいる獄卒は少ないが、皆よい子でとても助かる
阿鼻まで下るには二千年かかるため、亡者も少ないために裁判の手伝いをしたりもするが、基本的には下ってきた亡者のために阿鼻の整備をしている

そろそろ時間か、と湯船から上がり水気を取り着替える
ふと時計を見ると仕事まで三十分あったため少し庭先に出てみる

地獄に四季はない
咲くものは限られているし、水やりも必死にやらなければいけない
八大地獄は夏がずっと続いているようなものだが、八寒地獄は冬がずっと続いている感じだ
四季折々のものが見たければ私は現世にふらっと旅行に行ったりする


「小鳥遊」
「はい、ここに」
「今日の予定は?」
「午前に秦広王との会合、午後には閻魔殿に赴く用がございます」
「そういえば、閻魔が子が出来たとはしゃいでおったな…祝いには何を送ろうか」
「仙桃などは」
「在り来たりな感じがするな」
「はぁ…あ、こういったことは蛇之目に聞いてみては如何ですか」
「そうするか」


「出産祝い?ならアタシが開発した乳瓶があるのよ!流石にいつまでも乳をあげるわけにわいかないわ。粉末を湯で溶いて、瓶に入れて飲ませるの。これが結構獄卒の中でも人気なのよ!」

「案外あっさり決まりましたね」
「あぁ。女の子は祝い事などの贈り物に強いな」


蛇之目からその乳瓶とやらを預かり、阿鼻を不知火と出発する

秦広王との会合を終えて聞いた話は最近ナミちゃんが落ち着いた、とのことだった
あの頑固なナミちゃんがねーと二人で談笑して、お昼をご馳走になってから閻魔殿へ籠を使い移動する


さぁ、久しぶりの我が子との再会だ


prev / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -