吐き気と随想録
▽ 吐き気と随想録


「丁と言います」


奴は俺の目の前に出てきてそう言った
まだ幼い鬼火だった
元の姿は人間だろう、どういった思いで根の国に下ってきたのか、疑問は私の中をぐるぐると回った

可哀相なんて一言では片付いてはいけない由々しき事だった思ったが、案外この子は強いらしい


「丁って召使いの事じゃないか。改名しなよ、鬼火に丁だから、鬼灯なんてどう」
「いいね、鬼灯」


髭をひかれる閻魔を横目で見て肩を揺らせば、鬼灯が私に目を向けた


「名前を、伺ってもよろしいですか」
「私かい?私は棗。よろしく、鬼灯」
「棗…」


俯きながら私の名を復唱する鬼灯は、息子のようにも思えてきて、思わず頭に手を伸ばして撫でたら、勢いよく顔が上がる
疑問符が浮かぶ中で衝撃的な言葉が鬼灯から出た


「父上!」


きょとんとした私と閻魔
恍惚とした表情を浮かべる鬼灯
対極にある二人を、なんだなんだと見てくる鬼
異様な風景に包まれたここから飛び出したかったがそう言うわけにもいかない


「父上って…棗様のことかい?」
「はい、私は親というものを知りませんので、もしいたらば棗様のようなお方だろうと思ったのです」
「…鬼灯、君は孤児だったのかい?」
「そうです。だから贄として捧げられてこの国に下りました。どうか、子として共にいることを許してはくれませぬか」
「それは…」
「どうするつもりですか、棗様」


ふむ、と顎に手を添えて考えてみる
確かに私は独り身だし、恋人と言われるものが居るわけでもない
親が居なかったならば、流石に両親必要なのではないか?私一人では不十分ではないだろうか
友達は居るようだし、将来は閻魔の所に就かせれば安泰だ


「私は独り身で恋人もいない。親に成れるのが私しか居ないがそれでも良いのか」
「構いません。父上がいればそれで私は満たされるでしょう」
「…わかった。これから先、お前は私の息子だ」


こうして何百年生きたか何千年生きたか分からない私に息子が一人できました
友達も出来たらしく楽しく生きているようです
最近根の国が改変されて、亡者の住処が出来ました、ナミちゃんと閻魔が頑張ったみたいです
そして私は職が与えられ、八大地獄管理官、阿鼻地獄最高責任者に成りました


息子のためにも一所懸命、恥ずかしいところを見せぬよう、仕事に励みたいです
そして鬼灯はとてもいい子で飲み込みが早く優秀な子です

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