貴方の分まで不幸になりたい
▽ 貴方の分まで不幸になりたい





やはり、私にも鬼の鱗片はあるのだと知った。
いつから根の国に居たのかは未だにわかってはいないが、さすがに天の国に上れなかったのはどうやら理由があるらしい。
そしてそれが私を最下層に閉じ込めているのではないかと考えた。

「今更かい?」

そう溜息を吐きながら白澤は呆れたように私に言葉を突き出した。
私と白澤は、共に自分の出生を知らない。
でも白澤は私のように出生を知ろうとはしない。自分がどこから生まれてどんな道を歩いてきたとしても、今自分はここに居る。それだけでいいという。
私はそういう風に割り切ることはできなくて、何時でも自分はどこから来たのだろうと探りを入れてしまっている。自分の海馬にあたる部分をいくら穿り返したとしても幼少の記憶などありはしないのに。

「巷じゃあ君が鬼の起源だと言われているようだね。集合の酒飲み屋でよく耳にする。」
「鬼は、自然発生型と亡者だったものと、二通りだろう。」

私に血縁的な関係がある鬼はいたことがない。
まず私自身どういった分類に所属していいのかですら解っていないのだからいくら他人に鬼の起源と言われたところで証拠もなくはいそうですか、とは言えない。
じゃあ、自然発生型の鬼?と聞かれてもそうだとは頷けなかった。
自然発生の制度が出来上がったのは鬼灯が第一補佐官に就任してからである。私はもちろん健在だ。

「もういいじゃない、棗」

やんわりと頭に添えられる手がどこか心地よくて、目をつぶり甘受する。目を瞑っているから白澤の表情をうかがうことはできない。そのまま、少しの時間が過ぎた。扉が開く音がして頭に手を乗せられたまま音がした方を向くと、桃太郎君がそこにいた。

「え、白澤様と棗様ってそういう…」
「そうだよ!」
「そういった事実はこの天地どこを探したとしてもありはしないな」
「付き合ってないんですね」

タオタローくん!と頭の上から叫ぶ声が聞こえたがそれは無視をして桃太郎君が採ってきたであろう仙桃を見に行こうと立ち上がる。
今年もいい桃が育ったと口元を緩めると良かったら持ってく?と後ろから声がかかった。あぁ、頂こうと返すと袋に入れておくねと返事が来た。

「桃太郎君」
「はい?」
「君、今楽しい?」

小さい声で尋ねると、一瞬ぽかんと口を開けて、すぐに小さく噴き出して笑った。

「楽しいですよ」

そりゃあ、白澤様だし苦労とか女性のこととかたくさん問題はありますけど、それ以上に

なんだか、少しだけ自分が馬鹿らしく思えてしまった。
桃源郷に来たばかりの桃太郎君も、鬼灯も、閻魔も、白澤ですら前を向いているというのに、私はいつまで過去に囚われているのだろうか。

「そうか、ならばよかった」

私もそう微笑み返すとふと、目の前の事象にもう少し思考を囚われてみようと考えた。
過去の事を詮索することよりも、どうやら今のこの地獄は目の先にある事件のほうがどうやら楽しそうだ。
茶を飲みほして店の外に出て、年中晴れの上の国の空を仰いでみる。
心配そうな兎が足元にすり寄ってくる。それを抱き上げてのど元をくすぐってやると、気持ちよさそうに目を細める。

「お前ら、みんな、幸せになるんだぞ」

そう笑うと泣きそうな顔をして頷いたように頭を振ると、私の腕から逃げ出した。
大丈夫、お前らの不幸は、根の最下層の主が背負ってやるのだから。





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