記憶ノ彼方
『気持ち悪ぃ。』
眠っていた体が雨の日独特のあのジメジメした湿気に反応して、目が覚めた。こんなことは珍しい。普段なら平気で昼まで寝られるのに。
閉じたままだった目を開けた。いつもと何も変わらない天井。周りにもまた普段と何も変わらない景色が広がっている。
ただいつもと違うのは家の中が静かなこと。いつも起きた頃には襖の向こうからテレビの音やら喋り声が聞こえていて騒がしい。今こうも万事屋が静かなのは、まだ朝が早く誰もいないからか。いつも騒がしいだけに、こう静かなのには最近慣れていない。
『何か飲んでくるか。』
重たい身体を起こし、伸びをしようと背筋を伸ばした。
「っ!?」
瞬間、目眩と共に首筋から頭にかけて走った激痛。しかしそれは一瞬で、すぐに治まった。
「昨日、神楽に殴られたっけか?」
記憶には無いがもしかしたら俺が寝てるときにでも部屋に来て、こうガーンと一発・・・って、神楽ならやりかねねェしな。
ウンウンと自分で納得し、和室を出た。
『アレ、そういや昨日って俺何してたっけ?』
冷蔵庫から取り出したいちご牛乳を飲みながら考えてみる。
『アレ、えー確かアレだ。昼はパチンコに行こうとしてたら道端で新八の姉貴がゴリラをボコってて、まぁここは通り過ぎようと思って』
・・・―――
「あらァ、銀さんじゃないの。女の子が変なゴリラに襲われてるっていうのに、それを見てみぬふりをして行くなんて大層肝が据わった人だわ。男ならちょっとは声かけて助けてあげるっていうのが常識じゃないかしら。」
「いや、もうお前女の子じゃねェだろ。女のゴr・・!」
―――・・・あァ、あの時にやられたのか。
そうかそうか。この頭痛はそれか。あれ、じゃああの後何したっけか。
あぁ、なんか長谷川さんと飲みに行った気がしないでもないでもない。
・・・まぁ、頭が痛いってのと昨日の記憶が少し無いっていうそれだけだろ。
心配することでも無い。うン、大丈夫だ。イヤ、大丈夫だって。え、大丈夫なのかこれ。
記憶無いって・・・ヤバくね?また記憶喪失?
いやいや、これは二日酔いだ。うん。
少し焦ってきた自分を落ちつかせ、新八が来るまでもう一度寝てこようと寝室に向かった。
もう一度布団に潜りこめばずぐに眠気が襲ってくる。この勢いならきっと次目覚めるのは昼頃か……その一瞬治まっていた頭痛と共に、何故か霞がかかった若い頃の映像が頭に流れた気がした。が、今はそれよりも眠気の方が俺にとっては一大事で。
『やっぱり早起きは向かねェな。これもきっと早起きのせいだ。俺の低血圧なめんなよ。』
そんなことを考えながら、2度目の眠りについたのだった。
01-記憶ノ彼方