カイザー#弟が娘を連れてくる話の続き | ナノ
(この話の続き)

ザアザアと音を立てて降り注ぐ雨を眺め、今朝天気予報をきちんとチェックしてこなかった自分を悔やんだ。

登校の際の空は、雨の気配すら感じさせず全くの晴天であった。そのため私は今日一日の天気が晴れであると疑うことはなかったのだ。しかし学校に向かうなか友人たちと遭遇していくにつれ、彼女らが揃って携えている傘に嫌な予感を感じた。天気予報みてないの?そう尋ねてきた友人の言葉で私は悟ったのだ。今日は雨の予報だったのだ、と。それから私は必死に祈ったのだ。下校の時間に雨が降りませんように、出来ることなら天気予報が外れますように。まあ、しかしながら私の祈りも虚しく、挙げ句の果てに下校途中で中々の大雨に振られてしまったのである。弱い雨なら走って帰ればよかったものの、残念ながら雨宿りをせざるを得ない強さの雨であった。濡れてしまった制服のせいと雨の日特有の肌寒さで身を震わせる。今日は亮伯父さんの家に行く約束があったのに、これでは時間に間に合いそうもない。亮伯父さんに遅れる連絡を入れようにも普段はケイタイを持ち歩かない質なため手元に連絡の手段はない。八方塞がりの状況にため息をついた。気分が沈んでいくようだ。いっそのことこの大雨のなか走って行こうかと考え始めていると、すぐ近くでクラクションが鳴らされて、予想だにしていなかった大きな音に私は小さく飛び跳ねた。体を強張らせてその車の方を見ると、運転席のウインドウからよく知った人がこちらに手を上げていた。父さんのお友達の、十代おじさんだった。


「十代おじさん!」
「傘ないのか?乗ってけよ。送ってやる」
「うっかりしてて。ありがとう十代おじさん」


まさに救世主。そう言えばお父さんが、十代おじさんは昔からヒーローみたいに頼り甲斐があって、アニキと慕っていた時期もあったくらいだとよく言っていたっけ。私は彼の優しさに頬を綻ばせ、それから後部座席に素早く滑り込んだ。彼はバックミラーで私を優しく見つめてきたあと、慣れた手つきで車を発進させた。大人だなあとぼんやり眺めていたところ、はっと思い出したように運転席のほうへと身を乗り出した。これから向かって欲しいのは自宅ではなく、亮伯父さんのお家であることを慌てて伝える。きっと彼はこのままなんの疑いもなく私の自宅へと向かうつもりだったであろう。わたわたとする私に反して十代おじさんは微塵も慌てることもなく、むしろ私の慌てぶりを小さく笑いながら、オーケーと言ってウインクをした。その十代おじさんが少しだけかっこいいなと胸をときめかせたなんて、父さんには死んでも言えないなと思った。


亮伯父さんの家に到着して、合鍵はもらっているけれど何故だか使いづらくてインターフォンに指を伸ばそうとしたら、十代おじさんに先を越されてしまった。ピンポーンと極平凡なチャイムが響き、それから玄関のドアが開かれる。扉を半分開けて、出迎えてくれたのはもちろん亮伯父さんであったが、その顔は驚きで固まっていた。きっと十代おじさんが私の隣にいることが予想外であったのだろう。これには事情がありまして、とかくかくしかじかと簡潔に説明をすれば、私が雨で濡れているのに気が付いたのか、すぐにシャワーで体を温めなさいとバスルームへ促された。


「せっかくだ、十代もあがっていったらどうだ」
「もちろんそのつもりだぜ」


また後でな、と手を振る十代おじさんに見送られ、私はバスルームへと向かった。




「迷惑かけたな十代」
「いやいや、迷惑なんて。これくらいなんてことない」
「随分仲が良いんだな」
「初めはそんなんでもなかったけどな。いつのまにか俺のこと慕ってくれててさ。んでもって、素直だし、美人だし、俺にとっても可愛い存在な訳よ。カイザーにとってもそうだろ?」
「まあ、そうだな。可愛い…姪だ」
「それにしてもあいつ美人に育ったよなあ。あれは母親譲りだな」
「翔の相手に会ったことあるのか?」
「いや、写真だけ。会わせろって言ったら、俺みたいなやつとは会話が合わないって却下された。酷くね?あんたの弟」
「…兄として無礼を詫びよう」
「いやいやそんなマジになるなって!
写真で見ただけだけど、相当綺麗な人だったぜ。まあでも俺的には娘の方が好みだな」
「…あいつはお前の半分以下の歳だぞ」
「愛を育むのに年齢なんざ関係ないと思わないか?」


無邪気に笑みを作る十代を見て、亮は頬が思わず引きつった。本気なのか冗談なのか曖昧な態度が不気味すぎて、デュエルの時も良くこんな顔をしていたなと思い出した。


「あいつと結婚したら翔がおとうさんで、あんたがおじさんか〜。随分複雑な関係になりそうだ」


ヘラヘラと笑いながら十代はリビングへと続く廊下を歩いてゆく。その背を見つめながら、それだけは絶対阻止せねばならんと彼の言葉が冗談であることを強く祈った。

20160901
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