「っとー、到着?」
「みたいだねー。…貴方が次元の魔女ですかー?」

すると左の方から聞き覚えのない声が入ってきた。

「ああん?てめぇら誰だ?」

……………。

ファイと名前は見知らぬ男を数秒間見つめるが、二人は初対面である彼に明らかに睨まれている。
ニコッと名前が冷や汗を流しながら微笑んでみても、彼の表情は変わらないままだった。

「先に名乗りなさいな」
「俺ぁ黒鋼。つかここどこだよ。なんだ?まわりの妙な建物は」
「日本よ」
「ああ?俺がいた国も日本だぜ」
「それとは違う日本」
「わけわかんねぇぞ」

聞いたこともない国の名前が出てくるが、大して動揺はしなかった。
ファイは、何だか凄い国なんだねーと不思議そうに辺りを見回す。

「うん。セレスとは全く違う」

すると名前とファイの方に次元の魔女が顔を向け、ある質問を投げ掛けてきた。

「あなたたちは…」
「セレス国の魔術師、ファイ・D・フローライトです」
「私もファイと同じセレス国の魔術師、名字名前です」
「二人とも、ここがどこだか知ってる?」
「えー、相応の対価を払えば願いをかなえてくれる所だと」

ね?と笑顔で言う彼に、うん、と満面の笑みで返事をした。

「その通りよ。さて、あなた達がここに来たということは何か願いがあるということ」

すると三人は…

「元いた所にだけは帰りたくありません」
「元いた所には絶対に帰りたくないです」
「元いた所へ今すぐ帰せ」

微妙な空気が漂う中で、一人の大きな男がまたも名前とファイを睨んでくる。
意見の食い違いから生まれたこの空気。
黒い男の機嫌の悪さにそれが余計拍車をかけた。

「それはまた難題ね、三人とも。いいえ…四人とも、かしら。その願い、あなた達が持つもっとも価値あるものでも払いきれるものではないわ」
「けれど、四人一緒に払うならぎりぎりって所かしら」

その言葉に驚く一人の少年を見つめた。
こちらも見たことがない人物である。
その少年の腕の中には一人の傷付いた少女がいて、とても大事そうに抱き抱えられていた。

「なにいってんだてめー?」
「ちょい静かに頼むよぉ、そこの黒いの」
「黒いのじゃねー!黒鋼だっつの!!」

そんなやり取りを聞いていた名前は「あはは、ファイ…」と苦笑を漏らさざるをえない。
けれども当の本人は、「名前ー、黒いのは怖い人だから気をつけてねー」と暢気に手を振っている。

「あなた達四人の願いは同じなのよ」

“その子の飛び散った記憶を集めるために色んな世界に行きたい”



“この異世界から元の世界に行きたい”



“元の世界へ戻りたくないから他の世界に行きたい”



「目的は違うけど手段は一緒。ようは違う次元の異世界に行きたいの。ひとりずつではその願い、かなえることはできないけれど、四人一緒に行くのならひとつの願いに四人分の対価ってことでOKしてもいいわ」

そして黒い男の人の刀を次元の魔女は指した。
男の表情が一瞬固くなる。

「なっ!銀竜はぜってー渡さねぇぞっ!!」

すると魔女は、何かを企んでいるかのような不敵な笑みを浮かべてこう口にする。

「いいわよ。そのかわりそのコスプレな格好でこの世界を歩きまわって銃刀法違反で警察に捕まったりテレビに取材されたりするがいいわ」
「あ?けいさ?てれ?」
「何だか分かんないことだらけだね」
「うん。オレたちの知らないこと、この世界には沢山あるねー」
「今あなた達がいるこの世界にはあたし以外に異世界へ人を渡せるものはいないから」
「んなデタラメっ!」
「本当だぞー。ね、名前」
「そうそう、魔女さんしか居ないんだぞー」
「マジかよ!?」

目を丸くする彼に、二人はへにゃとした表情でうんうんと頷いた。

「どうするの?」
「くっそー!絶対“呪”を解かせたらまた戻って来てとりかえすからな!」

魔女は、そう言って嫌々差し出された刀を対価として受け取った。
次は、と視線を移しファイを指差す。

「あなたの対価はそのイレズミ」
「え、ちょっと…ファイ!」
「この杖じゃダメですかねぇ?」
「だめよ。言ったでしょ、対価はもっとも価値のあるものをって」

本気で困った顔をしている彼の腕を思わず両の手で抱き締める。
イレズミってあれはファイの大切な…と表情を曇らせた名前を見て魔女は、「この子からの対価は貴方達からしてみればもっと重いわよ」と心中で呟き顔を歪ませた。

「大丈夫だよ、名前。…仕方ないですねぇ」
「これで貴方からも対価は受け取ったわ。次は名前。あなたの対価は…」

一瞬。
ほんの一瞬だけ。

魔女の表情が悲しく見えた気がした…────



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