ネギ様から!







「なんか今日の依頼もたりーな。」


今日の依頼は町外れに居座る盗賊の退治。魔法を使うって所が中々やっかいだが所詮は雑魚の集まり。俺達レベルの仕事では無い。無いのだが、


「ナツに街中の仕事回すなってマスターからのお達しなの〜。」


ちょっと前に受けた仕事先で歴史的価値のあるモンを壊した俺はじっちゃんにはこっぴどく怒られて以後、カウンター越しのミラに仕事を回して貰えず、辺境のモンスター退治やこうした廃墟に居座るチンピラ退治に明け暮れる毎日。

ルーシィからも「しばらくは最強チーム解散ね。」と爽やかな笑顔で言われると自身はさっさとエルザと条件の良いクエストに出発していた。世渡り上手な相棒ももちろんそちら側に付いて行った。

そんな訳で1人取り残された俺と、呆れながらも付き合ってくれるグレイの2人で細々とクエストをこなす日々が続いている。

最初こそ2人で仕事なんてなんの気兼ねもなくイチャ付けるかも!?と思って居たが、実際はやりがいの無い仕事の連続でダレかけである。


「ルーチンワークほど辛いモンはねーよ。」


一直線に飛び込んでくる敵を軽く右ストレートで吹っ飛ばす。もう魔法を使うのも悪い気がする程弱い盗賊達に思わず愚痴が出る。と背中越し、軽く敵を往なしてるグレイから「お前よくそんな言葉知ってたな。」なんてわざとらしい声が返ってくる。相変わらずカチンと来る様な物言いのグレイに俺も負けじとムキになって返す。

まあこんな他愛のないやり取りが最近の唯一の楽しみと言っても過言では無く、ついつい会話も弾む。ここにエルザが居たら、「気合が足りん!」とか「もっと真面目にせんかっ!」と叱咤されるであろうが生憎2人だけの仕事。このぐらいは遊ばせて欲しい。

しかしここまで歯応えの無い敵を前にすると、何時もは楽しい言葉遊びも俺とグレイのテンションを上げるには至らず。しかし数だけは立派な相手に思わずため息が出る。

もう手っ取り早く一掃してしまおう。廃墟だし多少暴れても文句は言われねーし。と背後のグレイに声をかけようとした瞬間、


「うおっ!」

「ナツ?」


視線を背後に向けた瞬間、死角から放たれた魔法を思いっきり食らってしまう。瞬間目の前がユラユラ真っ赤に染まる。赤くぼやける視界の先に俺の異変に気付いたグレイの悲痛な顔が見えた。

嗚呼ちょっと気ぃ抜きすぎたかと舌打ちするが一向に痛みや衝撃が襲ってこない。
疑問に思って魔法の出所に視線を移すと、ガッツポーズしている術者とその手には歪な炎の塊。


「てめぇ…俺に炎浴びせるとはいい度胸だな。」


どうやら炎の使い手らしいが相手が悪かったな。生半可な炎は俺には効かないしむしろプレゼントを貰った様なもの。倒し甲斐の無い敵に不完全燃焼気味だったが、おかげで良いきっかけが出来た。

俺の身体に纏わり付く俺の炎では無い赤黒いカッスカスの炎を一息で吸い込む。


「まっずっっ。」


炎ならなんでも良いってモンじゃないよな。顔をしかめながらそれでも胸焼けしそうな炎を体内に取り込むと幾らか力が湧いてくる。

とは逆に、先程まで起死回生とばかりに喜んでいた術者の顔がみるみる崩れていく。そんな変貌っぷりを楽しむのも有りだが、容赦はしないと間髪入れず逃げを打つ所にまず一撃。

俺が炎を食ったのを見た他の連中もざわめきはじめ、我先にとその場から逃げようとするが一人足りとも逃しはしない。最近の鬱憤も上乗せした特大の炎を辺りに撒き散らせる。瞬間、背後からグレイの息を呑む気配がしたが構わず感情に任せて炎を放つ。

廃墟という事もあってか既に壊れている家屋はもちろん周辺までを巻き込んだ炎は、先程までうじゃうじゃ居た敵を一瞬で沈黙させた。


「はースッキリしたぁ。」


もともとボロボロだった建物は柱と土台くらしか確認出来ない程に倒壊し、地面や近くの木々は黒く焦げ付き嫌な匂いが辺りを漂う。

ちょっとやり過ぎたか?先程までの鬱憤が晴れたとの同時にぐるりと辺りを見回して頭を掻く。エルザ達が居なくて本当に良かった。

まあ本来の目的は完了した訳だし大丈夫だろ!とグレイにも同意を求める様に振り向くと、


「グレイ!?どうした?」


振り返った先、正確には振り返って視線を下に落とした先にグレイが縮こまる様に蹲っていて。

どっか怪我したのか?でも背中合わせに戦っていたがそんな気配は感じなかったが…まさか俺の魔法に巻き込まれた?背後には十分注意して放ったのだが。

慌てて目の前の急変したグレイに手を伸ばすが、


「ひっ。」

「グレイ?」

「っあっっ、、、わりぃ。」


ぱしり。と乾いた音と共に叩き落とされる俺の手。きっと無意識下で拒絶したのであろう、グレイが泣きそうな顔で謝罪の言葉を口にするがその声は弱々しく掠れていて。

グレイの目線に会わせる様に俺も腰を落として顔を伺おうとするが、自分で自分を守る様に腕を抱えながら縮こまってその表情は読めない。しかし、その身体は微かに震え何時も以上に蒼白くなった指先はぎゅぅっと上着に食い込んでいた。


「…も、ちょっとしたら、落ち着くから、、まって、」

「おう、焦んなくていいぞ。ゆっくり息吸え。」


節々でひゅっひゅっと不自然な息が漏れながらも必死に喋ろうとするグレイを制して深呼吸を促す。本当なら抱きしめたり背中を擦ってやりたいが、逆効果になりそうなので踏みとどまる。

落ち着かせる事を最優先に、急かさず優しくゆっくりとした声で語りかけると、先程までの強張った身体からだんだん緊張が解けて行くと共にグレイの呼吸も平常に戻って行った。


「…もぅヘーキ。驚かせて悪かったな。」


そうしてどのくらい経っただろうか。静まり返った廃墟に響く木々の爆ぜる音も聞こえなくなった頃、グレイの何時も通りの声がするりと耳に届いた。顔色は良くなかったが荒い呼吸も身体の震えも収まった様だ。


「理由…聞いてもいいか?」


見計らってグレイの近くに寄る。びくりとグレイの肩が一瞬揺れたが先程の様な拒絶は無かった。が失態を見せて気まずいのか、理由を言いたく無いのかグレイの視線はぐらぐら揺れる。

それでも俺はグレイが言うまで根気良く待つ。グレイの問題は俺の問題でもあるから。


「…ぉが……ぃ、、だ。」

「ん?」

「ほ、ほのぉがこぇえんだょ…文句あっか!?」


根負けしたのかグレイがぽつぽつと話す。が、歯切れが悪いソレに目線でもう一度!と訴えると観念した様に口を開く。最後の方は怒声に近かったが。

言い切った後、やはり気まずいのだろうか耳まで真っ赤にしたグレイは俺とは反対方向に思いっきり顔を背ける。

「炎が苦手」だなんて今まで気付かなかった。って言うかそれって俺の事全否定にならないのだろうか?それに今までだって、


「ちがっ、そうじゃなくて、その、他の奴らの炎が怖いだけで、」

「うん、」

「ナツのは別に嫌いじゃねぇって言うか、、、」


今度はだんだんと語尾に覇気が無くなって最終的にはモゴモゴ何か言っているが、要するに「ナツは特別」って言う遠まわしな彼なりの愛情表現だと取っておく。

素直じゃないのは今更だから置いといて、でも今までだって炎の使い手くらい相手にした事くらいあんだろうに。今日の様に豹変した姿は初めて見た。


「少しくらいなら問題ない、けど。今日みたく派手に燃えるとナツの炎でもちょっとな、」

「………。」

「身体が言う事聞かなくなって…へへ、情けねーよな?」


昔の事思い出しちまうんだ。と悲しげに笑うグレイを今度こそ抱きしめた。案の定ビクつく身体はだけど予想していた様な拒絶は無く最終的には大人しく俺の腕の中に収まった。

強張った身体から伝わるグレイの鼓動は早く背中は冷や汗でしっとり濡れていたが、構わずあやす様に背中を撫でる。


「俺の事怖いか?」

「………。」


腕の中に収まるグレイは無言だったが僅かに顔を横に振った。

俺の炎は平気とは言っていたが、今回の原因は明らかに先程の魔法の所為で。

頭では大丈夫だと思っていても身体は無意識に拒否反応をしたんだろう。直後に拒絶されてもおかしくは無い。

そう思うと、数時間前の感情に任せた自分を殴りたい衝動にかられる。そして「苦手」な事に気付かなかった事も、グレイの「闇」が完全に晴れていない事に気付かなかった事にも。


「ナツは悪くねーって。ナツの炎は何時も俺を救ってくれる。」

「グレイ、、、。」

「ナツの炎は俺に色んなモノを与えてくれんだ。」

「でも、おれ、」

「乗り越えなきゃ行けないのは俺。だからナツは悪くねぇよ。」


胸中を読んだのか俺が謝罪の言葉を吐き出すより前に、胸に収まったままのグレイはそっと背中に手を回してくれて。思いのほか強く抱きしめ返してくれた手に意思の強さを感じた。


「ん。じゃっ一緒に乗り越えてこーぜ。てか俺に任せろ!」

「あいかわずスゲー自信だな。」


顔が見えないからかやけに素直に頷くグレイを再び抱きしめ直す。

もしかしたら一生付きまとう問題なのかも知れない。直る類のモノでは無いのかも知れないけど、こいつにはもう過去に捕らわれて欲しく無いから。悲しい顔はもう見たくないから。エゴだと言われてもいい、だからグレイに降り注ぐ赤い厄災は俺が全部受け止めよう。

口にしたら「重い。」と一蹴されるのがオチなので誰にも悟られずに心の中で堅く誓う。

そうしてやっと、不安定だったグレイの心拍数は俺のソレと重なり合って陰に溶け込んだ。






















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