memo
ハロウィン
2014 10/31 Fri
臆病者のラブソング ハロウィン(完結後設定 ss)
「ハロウィンねぇ…」
朝食の最中、二人がけのソファーの隣で、テレビから流れるニュースキャスターの一言を温かい紅茶を一口飲んで有希子は繰り返すように呟いた。彼女のその時の表情はさも興味がありません、と顔に書いてあるように見えた。それなのに。
「トリックオアトリート」
彼女の表情はさっきと変わらないのに何故かハロウィン特有のその一言が口から告げられた。俺はその不可解な言動を聞いてやはり彼女は面白いと思ってしまった。彼女も普通とは掛け離れた性格をしているが、俺もそんな所がいいなんて相当キてる。
「…それで?君はどっちがお好みかな?」
俺の彼女への溺愛は息子も目を逸らす程らしいからな。まあ、 彼女のためなら甘いお菓子も、彼女の悪戯心を満たすことも俺には簡単な話だ。
「勿論、両方でも俺は構わないが?」
「あのね、ハロウィンの趣旨わかってる?」
彼女は俺から笑顔で告げられた台詞に持っていたティーカップを置いて微笑んでじっと俺を見詰めてきた。彼女は本気で俺がハロウィンの趣旨を理解していないとは思っていない。俺の言葉に対して敢えてその言葉で返しているだけで、大体俺のこの後の返しも彼女にはきっと見透かされている。
「仕方ないだろう?君を愛しているから、つい溺愛したくなるんだ」
「気障ね?」
くすくすと、笑って彼女は俺の膝に手をついてゆっくり顔を近づけてくる。
「…そうね。間をとって、」
唇と唇は付きそうな互いの吐息が混ざり合う程近くで彼女は妖艶に目を細めて俺に優しく囁いた。
「甘い悪戯が良いわ」