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振る(立場)


高校一年生のとき、ある一人の男の子に恋をした。
入学式の日、桜の散る下でふと目のあった優しい瞳をした人。
同じクラスだとしったのはそれからもう間もないことで、私が彼を好きになるのにはそう時間はいらなかった。

同じ月日を1年間、同じ教室で体験し共に過ごした。
1年間育てた思いは大きく、もうそろそろ耐えきれなかった。


高校二年生。
彼とはクラスが離れた。教室も同じ階の端と端。1週間前の始業式以来、姿は見かけない。
彼に告白をした。丁度桜が散り終えたころだった。
「ごめん」
一言で私の1年かけた恋は桜と同じようにあっけなく散った。
不思議と涙は出ない。
しばらく恋はいいや、彼との保存メールをすべて消した。

「お前今年入って何回目だよー!」
「まだ一週間しかたってへん」
「それで三回だろ?一目ぼれされた1年と1年間一緒に過ごした元級友とー?」
「あと美人生徒会長だろ!」
「どうせ皆顔と名前一致してねえんだろ!女泣かせだなあ」

たまたま通りかかった放課後の教室で聞こえてた男子の笑い声に足が止まった。
ドアの隙間から見える、あの人の姿に息をするのさえも忘れて視線が奪われる。
涙があふれた。

悔しい。

名前と顔の一致しない、告白してきたたくさんの中の一人で終わってしまうことが悔しくて、怖くて、切ない。
そんなの、絶対いやだ。
見返してやる、後悔させてやる。
未来、私が過去に自分が振った女だって気が付かせてやりたい。後悔させたい。
私は涙を拭いて、好きだったあの人のメアドを消した。


高校三年生。
もうそろそろ桜が咲く。
高校を卒業してそれぞれの道へ羽ばたいていくのだ。
蕾のついた細い桜の木の枝を教室の窓から見つめる。

「佐藤」
「・・・白石くん?」
「まだ残ってたんや」
「うん」
「あんな、伝えたいことあんねんけど」

同じクラスの白石くんが私一人だけの教室へ入ってくる。
今はもう引退してしまったけれどテニス部の元部長だった彼は成績優秀、運動神経抜群、それに加え眉目秀麗であった。
ニコリと笑い、どうしたの?と尋ねた。

「あんな、佐藤」
「うん」
「好きや。俺と付き合ってください」

そう伝える白石くんにそおっと目を細める。
彼の姿に重なる影、ああ。まだ幼さの残る少女が一人。震える声で気持ちを伝える姿はまさに今の彼。昔の私。

私はふわりと笑って、
「ごめん」



誰もいない教室で一人指数えする。
今年に入って19人かあ。白石くんで丁度20人。私にしてはよく頑張った。
皆顔と名前は一致しない。誰が加藤くんで、どの子が岩橋くんだったけな。

教室の5分遅れた時計に視線を移す。
まだこの後元生徒会長として、卒業式の打ち合わせが残っている。
行かなくちゃ。だけど、もう白石君を見返すために頑張る必要はないんだ。だって、もうすでに目的は達成されたのだから。

さぼっちゃえ。

誰もいない教室で顔を伏せる。
唯一、白石君の顔と名前だけは一致してしまうことが心に引っかかって涙が溢れた。



END