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発進したバスを背中で感じながら、ふうと息をつく白石に頭に血がのぼる。
通行人はいない、気を緩める白石の胸元をぐっと引き寄せた。
「マジで死ね!!おまえっ、こんなことして…」
「涙目なっとる、恥ずかしかったん?」
俺の耳に口を寄せ、めちゃくちゃ可愛かった。そう囁く白石に先ほどまでのことを思い出して顔に熱が集まっていく。この男、ぶち殺したい。反射的に白石を突き飛ばせば彼は1.2歩程度後ろに下がった。怒りからか、わなわなと震える拳に白石は笑っていた。
「ほんまは最後までしたかったんやけど、チラチラ見とる変態がおったから仕方なく降りたんやで。あんなかわいー佐藤が他の男のオカズになるなんて許せんわ」
「ふざけんな、誰が変態だよ!もう俺に近づくな変態!」
白石のセリフに、まさかやはりバレていただなんて、死にたい、と顔を青くさせる。あのサラリーマンだろうか。それとも違う人だろうか、なんにせよこのバスにはもう乗らない。
涼しげな顔で首を振る白石に怒りは治りそうもないが殴りかかるなど野蛮なことはしない。
しかしこのまま白石の前にいては余計にイラつくのは目に見えていたしいつ殴りかかってしまうかもわからない。
一度強く白石を睨みつけて踵を返す。ここは見覚えがある、家まで少し歩くことになるが熱を冷ますにはちょうどいいだろう。心の中でもう一度しね、と白石を呪いながら小走りでそこを後にした。
おわり
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