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「人多いな」

「下校時間一緒やからなぁ、」

「バス停もめっちゃ並んどったしな、これは次のバスに乗るんでもよかったなぁ…」

ガタンガタンとバスに揺られ人混みに押しつぶされそうになりながらも手すりに捕まる。
確かにこれは忍足の言う通り次にくるバスを待ったほうがよかったかもしれない。普段バス通学の生徒たちがこの時間に一斉に帰宅するのだ。そりゃ混むわな。
密度の高い車内にて人混みに揉まれながらも、過ぎ行く窓ガラスの向こうの景色を遠い目でぼんやりと眺めていた。

「…?」

さわさわと違和感が尻を襲う。
こんだけの混み具合だ、そりゃ人にぶつかりもするだろうし、たまたまケツに手が触れてしまうこともあるだろう。逆に俺が目の前の女子高生とぴったりくっついてしまっていることを痴漢扱いされないだけ幸運だと思おう。

「佐藤って成績どないやったっけ?」

「俺はふつー。テニス部って頭いいよな」

「まぁ、1年と千歳が壊滅的やけどな」

1年というとあの赤髪のやんちゃボーイのことだろうか。よくテニスコートから聞こえてくる騒々しい声の主を思い浮かべる。たまに三年の教室まで遊びに来るが白石が手懐けてる印象が強い、だいぶ扱いにくいだろうに。流石はテニス部部長だ。

「白石も頑張ってるんだな」

もしかしたらあの日のあれは何かの間違いだったのかもしれない。気にしているのは俺だけみたいだし。
横に立つ白石を顔だけ振り向いて。言葉にしないものの避けたり変な目で見て悪かったなという思いを込めて肘で小突いた。

「せや、よかったらこの後集まって勉強せん?佐藤んちしゅーごう」

「ええ、俺んち?」

「佐藤よか俺と白石の方が頭ええやろ、わからんところは白石が教えたるから、佐藤は場所提供係」

「忍足なにすんの?」

「俺はお菓子持ち寄り係。あっ俺ここや!また連絡するわ、ほなまた後で!」

ゆるりと手を振っておりまーす、と声をあげながら人混みをかき分けて行く忍足の後ろ姿を見守る。
忍足ここで降りるんだな。俺の家はまだ…あと10分くらいだろうか、白石はどうなんだろう。2人になった途端沈黙も嫌だし話しかけてみようと口を開きかけたところで降りた人数以上の人たちが乗ってきて人ごみが動く。
流されるように足がもつれるが白石が大丈夫?と後ろから腰を支えてくれた。

「あ、ああ。ありがと」

「ええよ」

ニコニコ笑う白石に得体の知れない気味悪さを感じて、手すりを掴む手に力が篭る。バスは発進するが腰に回された腕が外れる気配はしなかった。

「白石、腕…」

「ん?」

「っ、しら…」

また、あの違和感。先ほど感じた尻に触れる違和感に体を固める。まさかと思い白石を振り返った。

「はぁ…やっぱサッカーしとるとケツの筋肉がええ具合につくんやなぁ」

「は、ばっ・・・さわんな!」

「佐藤の尻、めっちゃエロい」

耳元で囁く白石の低い声にぞくりと背中が粟立った。前言撤回、この男はまぎれもない変態ホモだ。気を許そうとした俺が馬鹿だった。
尻を揉みしだく手は大きく嬲るようで得体の知れない感覚が全身を襲う。なんだこれ、気持ち悪いはずなのに、

「っ、?!」

ズボンの上から尻穴をなぞる指先に電流が走ったかのような感覚に見舞われる。小さく漏れた悲鳴は口の中で噛み殺し、白石を睨みつければ面白いものを発見した子供のように、楽しそうに目を輝かせていた。

「今日はここは触らん」

「は、」

「こっちがええやろ」

白石は後ろから抱きつくようにもう片方の手も腰に回す。
先ほどまでとは違い確実に意志を持って密着しているせいで不自然ではないのだろうか。背中に感じる白石の熱にこんな状況他の誰かにバレでもしたらヤバイのではないかと周りに注意を払うも、誰も気がついている様子はない。なんでだよ、おかしいだろ。首元に鼻を埋めてくる白石に全身が熱くなる。さわさわと胸から腹にかけて触れてくる白石の手が視界に入りぎゅ、と目をつぶった。

「目、瞑らんとしっかり見い」

「ぁ、…」

「佐藤のここ、立っとる」

白石の綺麗な指が制服のズボンの不自然に盛り上がった部分をするりと撫でた。鈍い快感と羞恥に顔を赤く染めた。そんな、まさか。こんなこと男に、白石にされて、立つだなんて。自分が俄かに信じられなかった。


「やめ、白石…」

「やめへんよ」

「ぁっ、や…」

弱々しい俺の声と、無慈悲な白石の声はお互いの耳にだけ届き、後はバスの走行音にかき消される。
ゆるりと撫で、なぞるその手に小さいけれど確実な刺激を感じ、手すりを持つ手に力が無意識に入っていた。

「耳、真っ赤やで」

「しらいし、ほんと…ダメだって、」

「ここ、こんなにさせといてよく言うわ」

熱を持ち膨れ上がったそれをぎゅ、と強く握り鼻で笑う白石の吐息が耳にかかる。痛いのか、苦しいのか、くすぐったいのか、なんなのか。
バレたらやばいのに、力づくで辞めさせなければいけないのに。死ぬ気で逃げればいいのに。ろくに頭も回らずに、力は抜けて行く。手すりと後ろに立つ白石がほぼ支えているようなもんだ。聞こえてきたベルトを外す金属音に目を見開いた。


「ばっ、や、やめ」

「わぁ。あっつ」

パンパンやね、苦しかったやろ。そう言ってベルトを外し緩んだズボンに手を突っ込んでパンツをずらした白石に目に涙が浮かんで行く。
外気に触れる俺のちんこは赤く充血しこれでもかというくらいに膨れ硬くなっていた。

「白石っ、」

「しぃ。大丈夫」

「しっ、…っぁ、」

熱くなったちんこを片手で包み込まれる。
感じたことのない、他人の手の感覚に心臓は煩く鳴りこんな状況に興奮している自分がいるのに気がついてしまった。
笑う白石。弱すぎず強すぎず。程よい力加減の手をそのまま上下に滑らして行くのを、為すすべもなく見守るしかない。ぐちゅぐちゅと先走りが滑りを良くする。音は聞こえていないだろうか、匂いは、しないだろうか。こんなところで、こんなの。

「も、っゃ、」

「気持ちええ?恥ずかしい?隣のサラリーマン、気がついとるよ」

「っ!」

白石の言葉に全身に熱がこもる。恐る恐る白石の言うサラリーマンがいる方へ視線をずらせば、若いスーツ姿の男がスマホに視線を向けていた。
本当に気が付いているのだろうか、どくどくと心臓が脈打つ音がリアルに感じて全身が汗ばむ。ばれているとしたら、どうしよう。声をかけられたらどうする?まずこんな場所で触られて露出して、立っているだなんて。

「っ、」

頭がおかしくなりそうだ。ゆっくりと上下に動く白石の手が先走りでぐちゅりと音を立てる。ぬめりで先ほどよりも格段に滑りは良く更に快感を募らせていく。
気持ちいいと思ってしまう自分に気が付いて涙が浮かんだ。こんな事今すぐにでも辞めさせたいのに白石の手が気持ちよく感じてしまっている。快感に素直な自分が憎らしくて、どうしようもなく情けなくって。

「っぁ・・・」

尿道を指先が掠めた。
瞬間ピリ、と電流が走ったかのような衝撃に小さく声は漏れる。

「声、静かにせんと聞こえてまうよ」

「ぁ、・・・っ」

「あーぁ、ぐっちゃぐちゃ。」

そう言って俺の目の前まで手を持ってくる白石。その手は先走りで濡れていて、羞恥に顔に熱が集まっていく。

「ズボン上げて」

「ぇ、」

「すみません、降ります」

停車したバスで濡れた手を掲げひらひらとさせる白石にはっとする。急いでズボンを上げるが、ちんこは治まる気配はなかったのでベルトは閉められない。ゆるいズボンを片手で押さえながら俺の腕をつかんで人込みをかき分け歩き始める白石に引っ張られるようにして後をついていった。



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