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セックスしよ

「青。セックスしてみいひん?」

「あーうん、だからこの宝箱をそっちに……は?」

 それはある日の放課後の事だった。クラスメイトの白石とはそこそこ仲が良くてたまに遊んだりするような仲だったが、今日は偶々お互いの部活が休みだったのもあって白石の家でゲームをすることになった。のだけれど、このゲームがまた難しい。基本一人プレイ用のこのゲームは、二人プレイになると途端に難易度が上がる謎仕様で俺たち二人は同じステージでもう30分近く行き詰っていた。そんな中、急に落とされた爆弾に俺はゲームを操作する手も止まって、もう一度、は?と声を漏らしたのだった

「せっく……せっくす?」

 セックス…、セックスとは性。転じて、性欲、性器、性交。ってグーグル先生がおっしゃっていた。そうセックスとは俺たち18の男にとってまさに世界であり真理であり、まあとにかくそんくらいとてつもなく壮大で巨大で、神聖なものなのである。
 テレビ画面に映る俺の操作キャラクターが敵のモンスターに攻撃を受けているのさえどうでもよくって、隣に座る白石の横顔を凝視する。白石はそんな俺の様子に目を向けることもなく、攻撃を受ける俺を援護すべく自身のキャラを操作して敵のモンスターと必死に戦っていた。いや今の俺の聞き違い?聞き間違い…じゃなきゃそんな普通の顔してゲームなんてできないよな。顔色一つ変えずに戦う白石の横顔に、なんだあと息を吐く。これはきっとセックスじゃなくてミックスとか何とかその辺の単語と聞き間違えたに違いない。ああ、もう俺ってばお多感なんだから。そのように、動揺した心を落ち着かせてもう一度画面に目を向ける。そもそもセックスしてみない?って、提案としてどう考えたっておかしいし、エロ漫画の導入部分でしか見たことないし、そもそもそんな台詞を白石が言うわけないだろう。
 気を取り直す。敵キャラのおかげでだいぶ削られてしまったHPを自分の回復魔法で治して、俺の代わりに戦ってくれていた白石のサポートに入る。これはそこそこ強いモンスターだ、油断してるとすぐに強攻撃を仕掛けられてGAMEOVERになってしまうだろう。装備した弓で地道に相手のHPを削っていく白石に続いて俺も応戦していく。

「白石、そのモンスター火が弱点」

「……。」

「MP残ってるよな、火……白石?」

 残念ながら俺のMPは自分に使った回復魔法のおかげで火魔法を繰り出す余裕はなかった。だからと白石に魔法を使うよう促すけれど、一向に返事が返ってこない。訝しく思って目を向けた、時だった。
 白石の手がコントローラーを離れて俺の頬に伸ばされた。ずっとコントローラーを握っていたせいかその手は少し汗ばんでいる。隣同士座っていたところから、片手をついて。身体を捻って俺の方へ身体を向ける体制はきつくないだろうか。ていうか、いいにおいがする。同じ男子高校生なのにいい匂いがするって、普段から何食べてんだよ。そんな余計なことばかりが頭を巡って、至近距離に近づいた白石のその真剣な眼差しの意図さえ考えることができなかった。

「セックス。しよ?」

「へ、ぁ……」

 白石の吐息がかかる。セックス。今、白石は確かにはっきりそう言った。俺の聞き違いじゃなかった。セックス。セックスをしよう、って。セックスって、二人でするもんだけど、でも俺たちって友達同士だし。そういうのって恋人、っていうか彼女とするもんじゃなかったっけ、セフレとか、確かに憧れはあるけれど、セックスはしてみたかったけど、そもそも男同士って出来るもんなの?ちんこ二つあっても、穴がないとセックスってできなくない?そもそもセックスって、なに?

「する?やめとく?」

「あ……え、…ぁ、え…、す、る」

 答えを急くように追い打ちをかける白石。ただでさえ頭が真っ白なのにとどめを刺すようなその問いかけにもう何も考えられなくなって、考えないまま出た答えに白石の色素の薄い瞳が揺れた。火傷しそうなほどの熱い吐息がかかる。頬に触れた指先がなぞるように滑って、今にも口から飛び出してきそうな心臓が、全身を燃やした。俺、これからセックスすんの?友達と、セックスするんだ。唇が近づく。その後ろで画面いっぱいに映るGAMEOVERの文字はもう気にならない。唇が触れた。ふにふにしている。当たっているって感じ。気持ち良いとかそういうのは意外と感じなかったけれど、死んじゃうんじゃないかってくらい心臓は煩い。これがキス。初めてのキスはきっと生涯忘れることはないだろう。
 初めては好きな女の子と付き合って3ヶ月くらいしたらってひっそりと考えてた俺の理想は、目の前に迫った男友達の、整った顔と震える睫毛に打ち砕かれて消えたのだった。