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ださ(笑)

白石視点



 世界は全く持って不条理だ。ほんまに、心の底から、そう思う。


「青」

 窓から差し込む夕焼けに照らされる青の横顔が綺麗だと思う。ぼんやりと携帯の画面に向けられたその視線をどうしてもこちらに向けてほしくて、伺うように小さく名前を呼べば、振り返る青は柔らかな声でん?と、首を傾げた。些細なその仕草にさえ胸が締め付けられる。なんで俺は、青に恋をしてしまったんだろう。
 青の全部が好きやった。性別なんて、男同士だなんて関係ない。全てを受け入れ、そして受け止めて、俺は、青と一緒になりたかった。けれど自分ばかりがそう思っていても青が同じ気持ちとは限らないのも良く理解していた。だから俺は諦めた。彼の友人のままでいることを選んだというのに。自分の気持ちを胸の奥深くに仕舞い込んで、彼の友人でいることを、全部、全部を後悔しないために自分で決めたのに。

 気持ち悪いと、手を跳ね除けられる夢はもう何度見たかもわからない。

 けれどただ単に、俺は青に拒否をされるのが何よりも怖かっただけなのだ。ただ逃げてきた結末がこれだっただけに過ぎない話だっていうのに。


「白石、なんかあった?辛そうな顔してる」

「…青、」

 男同士だからって諦めた俺が悪かった?
 諦めていなかったら、何かが変わってた?
 心配するような顔をして大丈夫かと尋ねる青に、彼の名を呼ぶ声が震える。
 大きな声で言いたかった。辛い。痛い。お前と一緒にいるのがしんどくて仕方あらへん。でも離れたくなくて、どこにも、誰にもお前の事をやりたくなくて、出来ることならばどこか誰にも見えないところに閉じ込めてしまいたいとさえ思っていて。

 こんな俺の気持ちを知ったら青は離れていくだろうか。…そんなの許さない。許せるはずがない。お前を絶対に離さないと言ったら、青は怖がるだろうか。
 もう、それでもいい。なんだっていいとさえ思う。もう何も知らない振りをして青の隣にいるのは、限界だ。

「青、俺は。…なんで、どうして、」

 どうして、俺じゃだめだった?そうやって問い詰めるべく続くはずの言葉は出てこなかった。教室の扉が開く音に、青がはじかれたように振り向いたからだった。


「青先輩、お待たせしました」

「財前」

 現れた後輩は教室内に残る俺と青の姿を交互に見やると、少しばかり眉間に皺を寄せて、速足で俺たち二人の方へと距離を詰めてきた。その姿に出かけていた言葉を飲み込んで口をつぐみ、苦笑を漏らす。そんな俺のとってつけたような様子に財前は不機嫌そうな顔のままにこりともしなかった。

「先輩、遅くなってすみません。帰りましょう」

「あ、待って。白石、大丈夫?なにか、俺でよければ話聞くけど…」

「…いや。ええ。ええから、大丈夫。財前待たせても悪いし、はよ帰り」

「……そっか」

それじゃ白石、ばいばい。
 財前に手を引かれて歩き始めた青が顔だけ振り返って手を振る。財前が俺を一瞥して、会釈してからすぐに背を向けて去っていく。

 もしも諦めないでいたら、青の隣にいたのは財前じゃなくて、俺だったのだろうか。あの手を引いていたのは、青に近寄る人間にそれ以上近づくなと一線を引いて牽制していたのは、俺だったんじゃないか。

 遠ざかっていく二人の背中を、ただじっと見つめて。そして結局、後悔ばかりで一歩も動けないでいる惨めな俺だけがその場に残された。ださい俺だけが一人きり、その場に残されたのだった。