七日一話 | ナノ
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僕の恋のパワー(笑)


(4/9)


強烈な眠気から来る欠伸を噛み殺し、目尻に生理的な涙が浮かんだのをそのままに校門を通り抜ける。心なしか俺を追い抜いていく生徒達は皆同様に早足だがもうそんなにいい時間だっただろうか。少し不安になりポケットからスマホを取り出して時刻を確認するが、不安とは裏腹に時間にはまだ余裕があるようで、ただ単に俺の足取りが異様に重たいだけだと知る。
なんだよな。そうほっとしたらまた欠伸が漏れた。

頭の中はまるで晴れない霧に包まれているようだ。瞼は重たいし、もうどうにもなんねえわ。もはや半分寝ながら頼りない足取りで校舎を目指してゆっくりと進んでいく。昨晩光の部屋からこっそり拝借した漫画全47巻を一夜にいて読破したのが原因ではあったが拝借したのがばれる前に返さないといけないので今日が終わったらダッシュで家に帰らなければならないのである。まあ何がともあれ、ラスト直前であいつがあんな行動を起こすなんて、最高に胸熱展開でそしてラストもとても感動的な終わり方だった。今日はいい夢を見れそうだ。

「……!!!」

そして、そんな未だぼーっとする頭にかかった霧をぴゅーっと吹き飛ばしたのは、ある後姿であった。

あの髪型、あの身長、あの背筋、あの歩き方。間違いない、彼だ。
直前まで感じていた眠気なぞ何処へ。晴れ渡った意識、目を輝かせながらその後姿を追いかけるように駆けだす。そして、喜々として愛しの獲物くんの名前を呼ぶのであった。

「白石!おっはーよ!」
「ん?ああ、八代。おはようさん、今日も元気いっぱいやな」

振り返ったその人は朝から輝くような笑みを浮かべ俺の名前を呼ぶ。やばい今日も朝からイケメンで何よりである。目覚めたわ。
にっこにこ笑顔を浮かべながら白石の隣を軽い足取りで歩いていく。もちろん元気いっぱいなのは恋のパワー(笑)のおかげだ。

俺が大阪に引っ越してきて早一ヶ月が経った。この一ヶ月何をしていたかと言うとナニを…いやナニはしてないけど、ナニのためにも、この愛しい獲物くんこと白石との距離を着々と縮めていたのだがそれはもうこの距離の近さを見れば明白だろう。朝の幸せな時間を堪能するために話を盛り上げようとそういえば、と続ける。


「そういえばオサム先生の腹痛って昨日の激辛ソースのせいじゃない?」

話題のチョイスがなぜこれなのかは、まあタイムリーな話であるからなのだが。
今日の朝練はオサム先生の腹痛により無くなったと朝、光から聞いた。

てっきり朝練で光はもう家にはいないものと思っていたため、余韻に浸りながらも読み終えた漫画をそのまま光の部屋に侵入して返そうかしていたのだ。
けれどとりあえず顔を洗うためにリビングへ降りたらソファに光が転がっていて、もうそれはそれは驚いて目ん玉ひん剥いて飛び跳ねたというわけだ。

どうやら先生の腹痛も大したことがなかったようで光はなんや人騒がせやななんてぼやいていたが。

「ん?ああ、多分それやな。謙也が変なモン食わせるから…」
「忍足の青い顔が目に浮かぶな」
「はは、せやな。っちゅうか、なんでオサムちゃん腹痛って知ってるん?」

それと激辛ソースの件も。そう続ける白石に、あー、やっべーと固まる。不思議そうに首を傾げる白石に冷や汗がじんわりと浮かんだ。

普通に話題の一つとして話してしまったが本来テニス部以外の人間が昨日の部活時の激辛ソース事件はともかく、今朝の腹痛を知る術など無い。
血縁関係のみならず同じ屋根の下に住んでいるということを誰にも知られるなと言う光のぶち切れる様子が目に浮かんで空笑いが漏れる。
これ絶対絶命では?いや別に俺は光と一緒に住んでいることも従兄弟だということも知られて全然かまわないんですけどね。ほら、あの子煩いから…。

「いや、なんていうか、風の噂?」
「風の噂?テニス部の誰かと仲良うなったんやったっけ?」
「え?なんで?」
「え、いや朝から誰かと連絡取り合ってたんかなあって思ったんやけど」

煮え切らない俺態度と妙な質問返しに、なんやねんっておかしそうに少し笑う白石の笑みが眩しい。

「おかしな奴やな」
「ははは……」
「んで?誰と仲良しになったんか白状しなさい」

続けて言う白石はどうやら見逃してはくれないみたいだ。
笑いながら言ってはいるが目は笑っていないというか、逃がさないと言わんばかりのその瞳にこれ以上引っ張れば変な誤解を与えかねないと悟る。いやいや変な誤解ってなんだよ、ノンケはそういう方に考えが行くことねえから。
ふと過った、過去に関係を持った後、酷く執着してきた男を思い出して慌ててそれを振り払う。ノンケを落とした後のリスクは当たり前だけれど高い。それまで知らなかった世界に引きずり込むのだ、それなりの責任はついて回るがやはり飽きるものは飽きる。そもそも俺はノンケが好きなのであって男である俺に興味を示されたらそれはもうノンケとは言えない、そうしていつしか冷めてしまうのは当然の事だったし、こんな事を続けている限り、やはり俺にはまともな恋など一生出来ないということなのである。

白石はそんな元ノンケ執着男とは違う。ただ単にテニス部の部長として、部員とクラスの転入生がいつの間に仲良くなったんだろうか、という謎からくる興味だろう。まあ、光には悪いけれどこれ以上隠す意味もないし。それに知り合いだとばらすなとは言われてないし。…あれ、言われてたっけ?まあ、もう今さらどっちでもいいか。恐る恐る言う。

「…いや、財前くん?」
「財前?なんや、謙也あたりかと思っとったけど、そっち?」
「たまたま話す機会があって、たまたま連絡とりあってたっていうか」
「へえ、そうなんや」

いや、怪しさ満点かよ。白石はそう大して興味もないだろうけれど俺としては光との約束を破っての重大な告白(八割嘘だけど)だったので内心今後どうしようかという不安でいっぱいなのだ。
絶対光に俺の話するよな、いやしないかな、でも最近白石と俺ってば超絶仲良しになってきたし、いつの間に俺の八代と仲良うなったんや!!なんて話しするかな、しないか…。


「いやでもそんな仲良くないっていうかさ、あんまり好かれてる感じしないからさ」
「そうなん?財前って誰にでも愛想がええわけやないんけど、それやからそう感じるだけやなくて?」
「あー、うんどうなんだろ、財前くんのことよく知らないからわかんないかな……」

まあ実際完全に嫌われてるけどね。一族の恥とさえ思ってるねあれは。
しかし一言余計だったか、このままでは光に何か余計な事を話したりしかねない。ほんまに嫌ってるん?なんて聞かれた日にゃ殺されるぞまじで。
そうこうしていると校舎に辿り着いてしまい、昇降口で無言で靴を脱ぐ。自身の下駄箱に靴を仕舞いながら同じように靴を仕舞って上履きを取り出す白石に何か続けて言おうとするけれど、結局何も良い言葉は見つからなかった。


「せや八代、今日数学の授業で当てられる番やろ?きちんと予習すませてきた?」
「あ゛」
「済ませてへんなその顔は。あとで見よか?」
「いいの?白石ありがと!!」

大好き!続けて出そうになった言葉を笑顔で飲み込む。
もう先ほどまで続いていた光の話は白石の中で終わったようだ。よかった、いつまで光の話続けるのかと思っちゃったよ。

それにしたって順調すぎる、これは最早マブダチと言ってもおかしくない距離感だろ。友情に必要なのは時間ではなくやはり愛の大きさなんだな。うんうんと何度も頷きながら、上履きに履き替えて廊下を二人並んで歩いていく。光に怒られるという不安はもうどこにもなかった。


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