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部長が知った日


最近、部活の後輩の機嫌がやけにいい。
普段なら俺が部室で新しい毒草のプラントを上機嫌に愛でていようが基本シカト、悪い日にはすごく嫌な顔をして外でやってください。なんて毒づかれるのが落ちなのに今日は"毒草にしてはええ匂いっすね"やって。

なんやそれ、どうしちゃったんやあの子。
つい先ほど部室から出て行ってしまった後輩である財前について深く考えながら、少し前に廊下で出会ったクラスメイトの内海からもらったクッキーを口へ放り込む。ん、これめっちゃうまいな。どこで買ったんやろか。ま、今はそんなことどうでもええねん。とにかく財前や。


「はあ」
「?さっきからどうしたん、ため息ばっかついて」

白石にも悩み事とかあるんやな、なんて悪戯に笑う謙也に完璧な俺であるが故の悩みやで。と力なく首を振る。

もう一度大きくため息を吐き出してラケットのグリップをクルクルと手の内で回した。
いつもと調子の違う後輩。せや、部長として心配しとるのであってそんな、好奇心とか一ミリもない。ほんまの、ほんまに。
スポーツドリンクを口に含む謙也を横目で見ながら、最近・・・と話しを始める。

「なんか、財前おかしいやん?」
「おかしいって…そおか?」
「やけに優しいっちゅーか、機嫌がいいっちゅーか…」
「それはあれやろ、そりゃ機嫌もようなるんちゃうか。好きな人と付き合えたらなあ」
「……ん?」
「流石に俺も初めて聞いた時はびっくりしたけどなぁ、まあ確かに今思えばあの二人……」
「ま、まてまてまてまて、ちょまちい。えっ?…え?好きな人と、つきあ……え?」
「なんや、知らんの?財前最近付き合い始めたっちゅー話やで」

驚きで声も出ないとはこういう事だろうか。開いた口が塞がらず目はパチクリと瞬きを繰り返す。一体どういう事だ、つきあいはじめた?つきあ……お付き合いを始めた?!
ようやく頭が動き出したところで、耳をつんざくようなでかい音が背後で鳴り、大げさに肩が跳ねた。
まるで俺の衝撃を現実に具現化したような音だったが、どうやらその音の正体は部室の戸が開いたもののようだった。
驚きで未だバクバクとうるさい心臓を押さえながらも、誰や思いっきし開けたやつ。と恨みを込めて、振り返るとそこにいた予想だにしていなかった人物に素っ頓狂な声が漏れて目を丸めた。


「あ、ごめん。まさかこんなに勢いよく開くとは思ってなかった」
「…内海?」

なかなか立て付け悪いね、とさらりと毒を吐く内海にひきつる笑みを浮かべる。いきなり押しかけておいて失礼な奴やな。

制服姿で登場し、可愛らしい紙袋を片手に部室内を物珍しそうに見渡す内海は完全に浮いて見える。
一体何をしに来たのか、怪訝に思うのは俺だけではないようで謙也も恐る恐ると言ったように内海の名を呼んだ。

「どしたん、急に」
「いやちょっとね。あっ、クッキーどう?いろいろ混ぜてみたんだけど」
「あ、うまいで。これなら無限に食えるわ。ってかこれ市販ちゃうの?」
「部活で作った奴だよ。いまは二人だけ?」
「おん、今日は自由練習日やからな」

普段ならもうちょい人数集まるはずなんやけど、おかしいな。今一度ぐるりと部室内を見渡す。見慣れたメンバーの顔はどこにもなく、いるのはベンチに腰掛ける俺と謙也のみ。財前は先ほど用事があるとか言って抜け出してしまったし、小春とユウジたちも未だ顔を見せてない。


「で、どうしたん?用あって来たんやろ」
「あー…いやぁ」

妙にはっきりしない内海の返答に不思議に思う。一体なんなんだろうか、まさかクッキーの感想を聞きに来たというわけでもあるまいし。

「あっ。財前ならさっきどっか行ってもうたで?」
「あ、そうなの?入れ違っちゃったかな・・・」

何か気がついた謙也が財前の行方を内海に告げるとそれはビンゴだったらしい。困ったように目尻を下げる内海に、そんなことよりも財前と知り合いやったのかと妙なところで感心した。


「ごめん謙也、これ財前くんに渡しといて」そう言って紙袋を謙也に渡す内海。それにええよ、と軽く了承する謙也を交互に見やった。

「ありがと謙也、私これから委員会だから財前くんにお願いねっそれじゃ」
「おー」

慌ただしくそれだけ言い残してからパタパタと上履きを鳴らして走って行ってしまった内海の、遠ざかっていく足音をどこか遠い事のように耳を澄まして聞く。

なんや、嵐みたいやった。完全に俺だけ置いてけぼりをくらっている。先ほど立て付けが悪いとディスられた部室の戸は開けっぱなしだ。部室の戸から見える外の景色にぼんやりと目を細めて謙也に微笑んだ。

「んで、どうゆうことやねん」
「えらい仲間はずれやったな!」
「笑いすぎやろ」
「財前、内海と付き合い始めたらしいで」

爆笑する謙也にむっと顔をしかめるも続いて出た言葉に目を丸める。財前と誰が付き合ったって?隠しきれない動揺に謙也は未だ笑い続ける。

内海から預かった、可愛らしい袋の中身を覗き込むようにして見る謙也。動揺しっぱなしな俺は、謙也の隣にそそくさと移動して同じように袋の中を覗き込んだ。
そこには綺麗に折りたたまれた2年のジャージが。先ほど知った財前と内海のショッキングな関係に、このジャージの使われ方がなんとなくわかってしまいつい頭を抱えた。

財前、仮にもお世話になってる部長に言わないなんて。人伝に聞くことほど悲しいことはないんやで。

ジャージとともに入っているメモ用紙にもう一つ大きなため息を一人吐き出す。
なるほど、どうりで最近機嫌がいいわけだ。ラブラブ、ってわけですか。


"帰り遅いので待たないで先に帰ってて!ジャージありがと"


可愛らしい猫の絵に微笑ましく顔は緩んでしまう。
果たして財前は待つなと言われて大人しく先に帰るのだろうか。もしくは、それでも静かに携帯でもいじりながら教室で一人待つのか。湧いて出て来た興味にいや俺なに後輩の色恋の事考えて妄想してんの気持ち悪っと鳥肌がたった。
しかし、本当にいつのまに、なんでそこがくっ付いたのか。
可愛い可愛いツンデレな後輩と、3年間ずっと同じクラスだった女友達が一気に離れてしまったようで、なんだかとてつもなく寂しく感じた。


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