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きみのとなり (Daehyun)



どうして、ヨンジェは俺といるんだろう。

板書を写す手がぴたっと止まった。窓側の最後尾から最前列にいるヨンジェに目をやると、真面目に先生の話しを聞いて、せっせとシャーペンを動かしていた。
勉強ができて、社交的で、おもしろくて、かっこよくて。
どうして……。
俺の手が止まっている間に、次々と新たな数式が書き連ねられていった。写す気持ちはどこからも湧かなくて、それらをぼーっと眺めるばかりだった。みんなが文字を書くシャーペンの音が遠く聞こえた。

ヨンジェと友達になったのは二年生のとき。つまり、今年の四月からだ。一年生のときは別々のクラスで、教室も離れていたし、顔も名前すらも知らなかった。
それがいまでは、「ガチ?」と聞かれるほどの仲になってしまった。ほぼずっと一緒にいる、そんな関係だ。
俺はヨンジェといるのが楽しい。一番と言ってもいいほど好きだ。同性で好きだなんて変かもしれないけれど、ヨンジェ以外の友達いなくてもいい、とすら思えてくるのだ。

なんだか気持ち悪いなあ、俺、とため息をついた。授業を放棄し、ふでばこをまくらにしながら窓の外を眺めた。

青い空、白い雲、緑の木。見事なコントラストで、綺麗だった。だが、絶賛もやもや中の心には まるで響くことはなく、ただ窓の外の雲は流れていった。

おしゃべりなヨンジェ、あまり騒がない俺。

そんな俺たちがなんで仲良くなったのか。考えてみたけれどきっかけはよく思い出せなかった。

ヨンジェといるようになってから、俺は変わった。自分って、実はわいわい騒げるおしゃべりな奴だったんだってことがわかった。
くだらない冗談に笑ったりして、冷ややかに見ていた物事もヨンジェが楽しい、おもしろい、と言えばそう思うようになった。

この気持ちはなんだろう。俺は、もしヨンジェと出会ってなかったら、関わってなかったら、いったいどうなっていたんだろうか。

終業のチャイムが鳴った。みんなが礼をするが、起ち上がろうという気がおきずにそのままで終わった。こういうとき、「一番後ろの特権」というものを感じる。校庭にいる生徒たちがハードルを片付け始めた。

大きな伸びをひとつする。くあ、と自然にあくびが出ていく。
寝ぼけまなこで教室内から彼の姿を探した。ヨンジェはせっせと黒板を消していた。しかし、そんなところに他のクラスメートが乱入してきた。
ヨンジェが消しているそばからくクラスメートたちが落書きをしていく。いい加減にしろよ、とヨンジェが怒ったが、しばらくするとなぜか落書きに参戦してしまっていた。
まだ半分消してないのに……。

ばかだなまったく、と再び "まくら" に寝た。出しっ放しの消しゴムが俺のほっぺたにくっついてきたけど、面倒くさいから気にしない。

あー、空、青いなー。

快晴というのにふさわしい晴れ。校庭では、せっかく片付けられたハードルが他のクラスによって、また並べられていた。

あいつは、ヨンジェは、自然と人の輪の中に入っていく。と、そばにいて思う。
ついさっきまで存在も知らなかった人たちの中にまでもさえ、するりと打ち解けていく。そんな気がする。そして、さながら竹馬の友のように和気あいあいと笑い合ってしまう。

そんなあいつの"才能"は、とても憎らしい。
憎らしいほど、うらやましい。

人の懐に入り込むだけの愛嬌や礼儀とほんの少しのわがままは、俺にはないから。

だから、つじつまが合わない気がするんだ。

俺は、このクラスの中では一番、ヨンジェといるし、ヨンジェと話してるし、ヨンジェと仲がいいじゃないかって思ってる。俺はあいつを親友とも呼べる。

だけど、ヨンジェは?

そう考えるともう、途端にわからなくなる。

ヨンジェは他のクラスの奴とも仲がいいし、このクラスの奴らの誰とも友達だと思う。
相談されたり、相談したり……。そういうことに関して、俺はヨンジェにしかしないし、できない。

俺にはヨンジェが必要だけど、ヨンジェには俺はいらないんじゃないかって……。

窓の側の木からけたたましく蝉が鳴いた。誰かが開けた窓から、ぬるい風が吹き抜ける。
自然とため息が出た。

いままで、友達は普通にいたと思っていたけど、本当に腹を割って話せる相手はいなかった気がする。どこかで線を引いて、ここから入らないように、そして入られないように距離を作っていた。

ヨンジェ以外のやつと話さないわけではない。一年からのメンツとはクラスが同じだから、いまでもお昼は一緒に食べる仲だ。くだらないこと言って笑いあったりするけど、あくまで学校の友達、というやつだ。

うわべというか  なんかひどいやつだけど  本音で接せれてないっていうか……。

だからこそヨンジェは特別で、よくわからないけど、ヨンジェにとっても俺がそんな存在であってほしいと思ってしまう。

変なの。本当に変なの。ヨンジェが女ならまだしも。

愛は見返りを求めないということをよく聞くから、これは愛ではないんだろう。だとするとこの感情はなんだろうか。
……独占欲?

いつしか窓から来る風は止まってしまっていた。蝉も、もう、すこしも鳴いていない。
ゆっくりとまぶたが閉じていった。

こんなことヨンジェに言ったらなんて思われるのかな。
友情が重たいって言われるのかな。
ゲイとかホモとか思われるのかな。

本当に、なんでなんだろう。

別にそういうわけじゃないのに、ただ、俺は……ただ……。ヨンジェが……。




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