きみのとなり 2
「おまえ、なにしてんの」
声に反応して頭をあげると、前の席にはヨンジェが座っていた。いつの間に。
忍者のように現れた男は、不思議そうに俺の顔をじーっと見ていた。
「ただ、ぼーっとしてる、……た、?」
「なにそれ! なんか、おじいちゃんみたいだな」
そう言って、ヨンジェが豪快に笑った。そんなヨンジェの顔を見て、俺もつられて笑った。
そのとき、いつのまにか頬にくっついていた消しゴムが落っこちた。
すると、
「消しゴム顔につけんのって、なに? 最新のおしゃれ?」
と、ヨンジェがにやにやするもんだから俺はすかさず天誅を下した。
「いってー! ばーかっ!」
ヨンジェは叩かれたのになお爆笑していた。だからさらにくすぐってやった。
お互いに互角の戦いを繰り広げるが、一通りじゃれあうとさすがに疲れたので停戦が申し渡された。
俺は出しっ放しのシャーペンや教科書を片付け始めた。ヨンジェははあ、と大きく息をついた後、俺の机に寝そべった。
「相っ変わらず変だなあお前〜!」
ヨンジェはけらけらと笑って、さっきまてま俺の頬についていた消しゴムで遊び出した。
「ヨンジェー、俺さー片付けてんじゃんー。寝そべるのはいいけどさー、教科書下敷きにしないで」
「んんー? ちょっとなにいってるかわかんないなー」
「あ〜? これだからおじいさんは……体力が無くて困るなー」
けなしつつも笑う。いつもの流れ。毎日やってると、何言われてもあんまり傷つかない。むしろ、気の置けない仲になれたようで、俺は満たされる気がする。
「あ。そうだ、デヒョナ」
「ん、やだ」
「おい〜! まだなんも言ってないじゃん!」
ヨンジェが軽く俺を小突いた。口を尖らせるから、ちょっとヒヨコみたいで笑った。
「うん、はい、うん。で、なに?」
ヨンジェ早くどけこの。教科書しまいたいんだけど。
ぐっ、ぐっ、と教科書を動かした。
「今日さあ、部活休みだろ?」
「うん」
ヨンジェは動かされる教科書の上で平然と寝ている。なんだこいつ。
「アイスさあ、食いにいかない?」
ヨ嬌満点に目をぱちくりさせた。そんなにアイス食べたいのか。
「えー。いいよ」
「いいのか! よし!」
本当はお金あんまないんだけど、誘われるとうれしくてついオーケーしてしまう。
ヨンジェはよほど楽しみなのかアイスの唄を歌っている。
なんなんだよ、お前は。
さっきまでのもやもやした気持ちはもうどこにもなかった。
蝉はうるさいし、風はあついし、確かにアイス食べるには絶好の日だ、と思った。
「チョコ〜」
「うるさい」
「チョコ〜」
「うるさい」
もうヨンジェが来てから自分が考えていたことは忘れていた。どうして仲がいいのかなんて、気にならなくなっていた。
一緒にいて楽しいからそれでいいんだ、と思う。
ヨンジェも俺とおなじ風に思ってくれていることを願うけど、俺がヨンジェとこうして馬鹿してたいって思うってことが大事なんだとと思う、たぶん。
なんか変かもしれないんだけど。
でも俺はお前と友達でいれてうれしいよ。
こんな俺と仲良くしてくれるお前がうれしい。
「バニラ〜」
「うるさい」
「バニラ〜」
「ヨンジェばかー」