ひかり射す庭にて。 | ナノ
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嫌な夢を見た。事故に遭った日の夢だ。信号無視をした自動車が突っ込んでくる。急ブレーキの甲高い音が、耳をつんざいていって──────、

「なまえ!!!」
「、っ、?」

気づけば、心配そうな顔の七緒がなまえを見下ろしていた。「うなされてたよ?嫌な夢見たんでしょ、なまえ」
枕元の時計はもう6時だった。スマホのアラームは、いつ止めたんだろう。

「うん、……ごめん、七緒」
「いいってことよ」
ゆるゆると起き上がり、なまえを見る七緒の肩口に、そっと額を埋める。
「……よしよし、なまえはいい子だなぁ」
七緒はさして驚くこともなく、もたれかかってきたなまえを優しく抱き締めて、その背中をぽんぽんたたいてあやす。なまえの耳に、七緒の心臓の音が聞こえてくる。

「今日は日曜日だから、ゆっくりしてていいんだよぉ」
「……部活は?」
「部長に電話しておいた。なまえの調子が悪いから休みますー、って」
「……七緒、ほんとうにごめん。七緒だけでも、後から部活に行きなよ」
「やだよ、俺。なまえと一緒じゃなきゃヤダ」
真剣な声だった。さみしがりや、とつぶやいたなまえの声は聞こえていたのだろうか。
「……海斗がいるじゃない」
「かっちゃんはいるけど、……なまえはいないじゃん」
「……僕が行くって、言ったら?」
「行かせない」

ぎゅう、となまえを抱き締める七緒の力が強くなる。

「なまえは、今日はお休みなんです。で、俺はその看病をするんですー」
「……ななお、くるしい」
「わ、ゴメン!」

七緒の心配がわかる。とてもよくわかる。だってなまえと七緒は双子だから。

「嫌な夢を見ただけだよ?もう起きたから大丈夫」
「うん、」
「今日は……じゃあ、七緒の好きなお菓子、作ろっか」
「やった!それじゃあ、クッキー!」
「たくさん作って、弓道部のみんなにもあげよっか」
「そうだね!そうしよう!じゃあ、材料は後で俺が買ってくるねー」

楽しそうに七緒は着替え始めた。七緒が帰ってくるまでにオーブンとクッキングシート、ボウルや泡立て器。準備もたくさんあるなあ。
なまえも楽しくなってきた。

「まずは朝ごはん!準備してくるねー!」
「七緒、」

部屋を出る七緒に思わず声をかけた。

「その、ええと、……ありがとう」
「うん!どういたしまして!」

「……それから、おはよう、七緒」
「うん、おはよう、なまえ」

嫌な夢はもう、忘れた。



「なまえも今度から『めっはー』使う?」
「……それはちょっと、遠慮しておく」
「ええー??」


落下する夢