薔 薇 色 の 地 獄 。 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





あめにうたう




「おやまあ、」

書類を軍警から受け取った帰り道。見上げた空はいつの間にか灰色に淀んでいた。傘は勿論無い。

「うむ、仕方ない」

本格的に降りだす前に、なまえは目の前に見えたカフェへ滑り込んだ。大事な書類が濡れてはいけないからな、と自分に言い聞かせて。



落ち着いた店内は、客はまばらだった。誰かに傘を持って来てもらおうか、などと思いながら、入り口に近い窓際の席に腰を掛ける。頼んだのは温かい紅茶とショートケーキのセット。少しくらいはゆっくりしても、バチは当たらないだろう。

ぱたり、ぱたり。
窓を打つ雨の音を聴きながら、なまえは紅茶に角砂糖を落とす。






「ったく、雨なんざ聞いてねェぞ」


聞き覚えのある声がした。しっかり雨に降られたのだろう声の主が、ウェイターからタオルを借りていた。顔を上げると、果たして顔見知りだった人物が、視線を感じて振り返る。

「…あん、?なんでお前が居るんだよ」
「中也さんと同じですよ、雨宿り」

「それにしちゃあ濡れてねぇな、なまえは」
「降る前に避難できましたので」

ごくごく自然になまえの向かいの席に中也は腰を下ろす。頼んだのはブレンドコーヒー。
話題はだいたい、太宰のことで、中也が心労から解放されたぶん、苦労しているのは国木田と、そしてなまえであった。

「相変わらず苦労してンなあ、」
「全くです。中也さんにも少し手伝って頂きたいくらいだ」
「あの糞鯖の相手なんざ二度としたくねぇよ、っと」

中也の胸ポケットの携帯が震えた。

「迎えがきたな。…近くまで送ってやる」
「え、いや、それは遠慮しておきますよ」
「人の好意は素直に受け取っとけ。別に他意も殺意も無ぇよ」

そう言うと、中也はなまえの分の伝票も取り上げて、さっさと行ってしまった。


***


「中也さん、あの、ここらへんで、」
「ん、そうだな」


探偵社の近く。ゆっくりと黒い車が停まる。

「次は俺の運転で送ってやろうか?」
「勘弁してください…」


車から降りたとき、そこにはちょうど「うずまき」から出てきた太宰がいた。こちらをじっと見ている。それはそれとして、あそこのツケは払ったのだろうか。

「おや、お帰り。珍しいこともあるもんだ、まさか君がマフィアの車で戻ってくるとは…」
「道中一緒になったんだよ、文句あっか?あ?」

何故か中也も降りてきた。太宰も、それは予想外だったのか、目が丸くなる。

「え、中也…?」
「断ったんだが、ここまで送ってくれたんだ…ありがとうございました、じゃあ、わたしはここで、」
「おう、」

探偵社へ歩き出そうとしたそのとき、不意に中也が名前を呼んだ。忘れ物だろうか、と振り返ったとき、強い力で引っ張られた。中也の胸にすっぽりおさまってしまう。至近距離で目が合う。細められた青い瞳が綺麗だ、なんて思っていた刹那。

「またな、」

普段とは全然違う、甘さを帯びた中也の声が耳をくすぐる。

真っ赤になってしまったなまえと、呆気にとられている太宰を尻目に、中也はさっさと車に乗り込んでしまった。きっと今頃、太宰を出し抜けた!なんて大笑いをしているかもしれない。


「…、うう」


耳が熱い。心臓がうるさい。不意討ちとはいえ、こんなにドキドキさせられるとは。





雨はもう、止んでいた。

青い空は、あの人の瞳のようだと、思った。







----------------------