薔 薇 色 の 地 獄 。 | ナノ
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流星




ふと気づいたとき、これは夢なのだとなまえは思った。

そう、確か。探偵社でお昼休みに仮眠をとるべくソファに寝転がったところまでは覚えていた。
うとうとしていた瞬間、気づいたら、『ここ』にいた。

「…、ふむ」

夜のようで、星空が綺麗だった。
月は出ていなかったけれど、その星々は、きらきらと夜空を彩っていた。
じっと手を見る。少し、泥で汚れている。
いつもの服装とは違う、白いワンピースに素足。
目が慣れてきたのだろう。自分の立っている場所はどこなのかはわからないけれど。
そこは、草原に横たわる線路の上だった。
枕木は朽ち、鉄のレールは錆び、ところどころに白い小さな花が揺れている。
…あの花は、何と言うのだろう。

「さてな」

声がした。懐かしい声だった。
はっ、と見上げると、その手はなまえの手を握っていた。
引かれる。
その引かれるがままに、なまえは歩き出した。

線路の上を。
素足で歩く。

彼はこちらを振り返ろうとはしない。
けれど、繋いだ手は離れないよう、すこし強く握っている。

彼は喋らない。
なまえも、声は出さない。

これは夢の中なのだから。
そうなまえが自分に言い聞かせても。
口を開けば、その名を呼べば、夢から覚めてしまいそうで。
この懐かしい声と暖かい手の温もりを、なまえは離し難かった。

「…、!」

見上げた星空に、一筋、星が流れた。
どこまで歩いても同じ草原と夜空が広がるだけのこの場所に。
星が流れた。
そしてそれは数を増し、流星群になっていった。
まるで五月雨か、小夜時雨かのように。

「わ、あ…」

なまえの感嘆の声が漏れる。
ふたりは、立ち止まる。

「…綺麗だ」

夢から覚めてもいい。
ただ、それだけが言いたかった。
さらさらと降りしきる星の空に覆われて。
線路には、小さな白い花が揺れている。

「…これを、見せたかった」

懐かしい声はそう呟く。
懐かしい赤毛が、夜空を見上げている。

「そうか、…ありがとう、織田作」
「…なまえは、綺麗になったな」
「はは。お世辞を言っても何も無いぞ」
「…そうだな、…なまえ」

手を引かれる。穏やかで優しい顔。

「…、織田作、」

涙が零れた。
織田作は優しく、指でなまえの目尻を拭う。

「なまえ、」

織田作が、いとおしそうに名を呼んだ。
なまえは、ゆるりと目を閉じた。








「……、…ん、」

目を開けると、珍しく真面目な表情の太宰が視界にいた。

「……おはよう、なまえ」
「だ、ざい、さん…?」
「…うなされていたよ?仕舞いには泣き出すし……なまえ、怖い夢を見たのかい?」
「ん、んん……、?」

ゆるゆると上半身を起こすと、太宰がなまえの手をしっかりと握っているのが見えた。
「うなされていたからね。手を出したら、君から握ってきてくれたのだよ?」
「……、そう、か」
「そんなに怖い夢を見たのかい?」
「怖い、夢では…無かったよ…」

普段なら太宰の手をぞんざいに振り払うけれど。
なまえは、じっと繋いでいる手を見つめていた。

「懐かしい人に会えたんだ。
…景色も綺麗だったし。うん、きっといい夢だったんだと、思うよ」
「…そうか。それは、良かった」

穏やかななまえの表情を見て、太宰には全て解ったのかもしれない。

「……、太宰さん、」
「ん?」
「…いつか、星を。流れ星を、見に行きたいんだ」
「いいね。さぞかし綺麗だろうね」
「ああ。とても綺麗だった。…とても」



朽ちた枕木。
錆びたレール。
小さな、白い花が咲いていた。
夢の場所だったけれど、きっとどこかにあるのかもしれないその場所で。

きっと、流れる星を、見よう。



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