同じ闇の中で【09】
足音が反響して、地下通路に響いている。誰も、なにも、言葉を発しない。
(気まずい…)
なまえはひとり、冷や汗をかいていた。もともと言葉数の少ない鏡花。仲の悪さは折り紙つきの芥川と敦。道中、仲良く会話が弾む、なんてわけもなく。
「最短経路は?」
「ゼロゴー、ゼロゴーだ」
という、芥川と鏡花の必要最低限の会話を最後に、あとはもう、足音を聞いているだけになっていた。
「そういえば、…」
そんな重い沈黙の中、なまえはふと思い出し、前を歩く敦に声をかけた。
「敦くん、誰か…、他の社員には会ったかい」
「あ、ええと、…国木田さんには会いました。鏡花ちゃんと僕と、国木田さんで探偵社へ行って…そこで、異能特務課の…坂口さんと通信して…」
「坂口さん、…坂口安吾さん、か」
「…なまえさん、知ってるんですか?」
「ああ。古い知り合いだ。…そうか、安吾さんは無事だったか…」
「通信が不安定で、すぐ切れちゃったんですけど…、その後、探偵社も襲撃されて…」
「国木田さんは、そこへ残ったのか」
敦と鏡花が頷く。
「…国木田さんらしい」
「大丈夫です、よね、国木田さんも…他の、探偵社のみんなも…」
「…大丈夫だろう。そんなに簡単に負けるようなヤワな人たちではない」
「…でも、自分の異能に、勝つなんて…」
敦の言葉尻が消え入りそうに小さくなる。
虎の異能。
敦の異能。
他の異能を切り裂く、白虎。
「敦くん、君は…、」
「着いたぞ」
なまえの言葉は、芥川に遮られた。立ち止まる芥川の前にははしごがある。これを上がる、ということなのだろう。
「…、」
なにも言わず、芥川がはしごを上がる。鏡花がそれに続く。
敦に続き、なまえもはしごを上がる。
(敦くんは、きっと…)
なまえの中に、ふつりと不安が浮かび上がった。
(太宰さん、わたしは、どうすれば)
***
「────我がコレクションルーム、ドラコニアへ、ようこそ」
その頃太宰は、
澁澤に招かれ、太宰には見覚えのある建物の前にいた。隣には、魔人がいる。
澁澤の呟きが部屋に響く。
太宰は、思案する。
ドラコニアルームは、以前太宰が見たものより、遥かに規模が大きくなっていた。
(異能のコレクションが、増えている)
その結晶は壁だけではなく、床をも埋めていた。
誰かの異能の結晶。
「ネズミは、どこにでもいるものですから」
楽しそうに呟くドストエフスキーに、
「にゃあ」
と太宰は返事をする。そのタイミングで、また、誰かの異能が結晶となって、部屋へおさまった。
「また、このヨコハマのどこかで異能力者が死んだ」
至極、退屈そうに、
澁澤は、呟いた。
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