薔 薇 色 の 地 獄 。 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





幸福についての尺度




その日。
武装探偵社の社員寮。
なまえの部屋には、こう貼り紙がしてあった。

「男子禁制」と。


「なまえ、…チョコレートの湯煎、できた」
「うん、いい感じだ。
そのあとは溶かしたチョコレートとバターにこれを混ぜていこう。
大丈夫、ゆっくりやればできるよ、鏡花」
「わかった」

「なまえさん!オーブンの余熱は160度でよろしくて?」
「ありがとうナオミちゃん、それで頼む」

「なまえ、クルミはこれくらい刻めば良いのかい?」
「バッチリです、与謝野先生」


女三人寄ればなんとやら、
四人寄れば。

…それはもう、喧騒も甚だしかった。

「なまえさんの手際が良いから、
上手に焼けそうですわね、チョコブラウニー!
あぁ…兄様に食べてもらうの、楽しみですわ!」
「ありがとう。皆も手際がよかったから、
予想より早く終わりそうだ。
焼き上がったら粗熱を冷まして、
それから切り分けてラッピング、かな」
「…ま、たまには菓子作りってのも、悪くないねェ」

焼き上がりを待ちながら、
四人でわいわいとお茶をする。

「…鏡花?」

湯呑みを両手で抱え、
鏡花は俯いていた。

「…初めて、作った。ありがとう、なまえ」
「敦くん、喜んでくれるといいね」

なまえが言うと、鏡花の頬が赤くなった。




明日は2月14日。
そう、バレンタインデー、だった。




果たして、女性陣のチョコブラウニーは大好評だった。

谷崎にはナオミが、
社長と乱歩には与謝野が、
それぞれチョコブラウニーをあげていた。

「はい、賢治くん」
「わー!なまえさん、ありがとうございます!」
「国木田さんもどうぞ。甘さは控えめにしてますよ」
「…後でな」

敦にはもちろん、鏡花が。


「…みょうじ、太宰を探してこい」
「そういえば、いないですね」
「見つけたら引っ張ってこい。仕事が溜まってるとな」
「了解した」

なまえの手には、ラッピングの袋が二つ、あった。





海の見える、集団墓地。
潮風が、まだ寒かった


「…太宰さん」


呼び掛ける。
太宰は、集団墓地から少し離れた、
木陰に腰かけていた。
小さな小さな墓石を背もたれにして。

「太宰さん、こんなところで寝ていたら風邪を引くよ」
「…風邪を引いたら、なまえが看病してくれるのかな?」
「御免被る」
「ええー…厳しいなあ」
「太宰さんを甘やかすなと言われてるからな」


なまえはラッピングしたチョコブラウニーを太宰に手渡す。
太宰は不思議そうに、手のひらにおさまったそれを眺めている。
わかっていたくせに、となまえは心の中でひとりごちる。

「くれるの?」
「今日は何月何日だ?」
「んふふ、そうだね」

太宰は立ち上がる。
ゆるゆると歩いて、なまえの隣に立つ。
墓石に彫られた名前を、いとおしそうに眺める。
なまえは、花束を置く。

「律儀だねえ、君も」
「だって、わたしや太宰さんがここに来ないと…、
寂しいじゃないか、ここが」
「うん、そうだね。」

穏やかに答えるなまえの目が潤んでいた。
太宰は何も言わず、そっとなまえの肩を抱き寄せた。

「でもね、なまえ。
こうしてなまえが花を供えてくれて、
そうして泣いてくれるから、
きっと寂しくないと思うんだよ、私は」

「……、うん」

泣き顔を見られないように。
なまえは、太宰の胸に顔を埋めた。






「…ところでなまえ、そのチョコ、
織田作にあげるんじゃないの?」
「食べ物はカラスや野良犬に荒らされるから置かないよ。
これは中也さんにあげようかと」
「えーっ!?!?
中也にやるなんて勿体ない!!
私が二個もらう!ちょうだい!!」


-----------------


遅くなりました……。

ちょっとしたバレンタインデーのお話。





----------------------