君とチョコレート。
敦が探偵社に戻ると、そこにはなまえだけがいて。
「あれ、皆さんは…」
「太宰さんは例のごとく逃亡。
国木田さんが後を追ったよ。
与謝野先生は賢治くんと買い物。
乱歩さんは谷崎くんとナオミちゃんと、
あと、鏡花ちゃんを連れて駄菓子屋。
社長は来客中でな。会議室に居るよ」
他の事務員や社員もいるけれど、
社内で目立つ異能力者たちがこぞっていなくなると、
社内はなんとなく、淋しく思える。
「皆さん居ないだけで、こんなに静かなんですね」
「…うん、そうだね」
よし、と立ち上がって、なまえは給湯室へ。
敦は、その背中を見送る。
しばらくしたら、甘い匂いがしてきた。
「お疲れ様の、ホットチョコレート。
もうすぐ乱歩さん達が帰ってくるだろうし、皆が戻ったら、改めておやつの時間にしよう」
「あ、ありがとうございますなまえさん。頂きます」
敦がマグカップを受け取る。
チョコレート特有の、甘い甘い匂い。
「そういえば…なまえさん、甘いもの、好きですよね」
「うん、…意外に思うかい?」
「いえ!そんなことはないです!
…ただ、あの、」
「…ただ?」
怒らないでくださいね、と敦は前置きをして。
「その…普段、こう、なまえさん、ってクールな人だから、
甘いものは嫌いだと思ってたので…。
その、可愛いな、って…思ってしまって、」
「…、そう、か」
「す、すみません!
可愛いとか、その、先輩に、…」
「…いや、怒ってはいないよ。
ちょっと…言われ慣れていなくて…」
思わず降ってきた誉め言葉に、
頬が真っ赤になっている。
(…そういうところも可愛い、んだよなあ)
同じように火照った頬をマグカップで隠すように、
敦は、ホットチョコレートをひとくち、流し込んだ。
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拍手ありがとうございました。
あつしくんと、ホットチョコレート。
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