薔 薇 色 の 地 獄 。 | ナノ
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目下の泥濘【17】




「、…」


織田作、なぜ、ここにいる。その言葉はなまえの喉に引っ掛かった。

織田作は銃を構えていた。その先には、銀髪の男が。同じように、銃口を織田作へ向けていた。二人は動かない。まるで、二人だけが時間から切り取られたかのように。まるで、石像にでもなったかのように。


「…なまえ、」


銃口の先から目を逸らさず、織田作がなまえを呼んだ。


「芥川を。足を撃たれた」

「、!」

言われて視点を落とすと、芥川が横たわっていた。成る程、彼の血が小さな溜まりを作っていた。

そろりとなまえが歩き出すが、どちらも動く気配はない。なまえは芥川を抱き上げる。彼は、気絶していた。


「おださく…、?」


なまえは、そのとき初めて気付いた。織田作が、動揺していた。

「どうした?俺はまだ、銃を撃ってすらいないぞ?」


向こうの男が、不敵に笑った。


「俺には今、貴君が右に避ける未来が見えた。それに合わせて狙いを修正した。だが貴君はその未来を見て、方向を修正した。…俺もまた、貴君と同じ事が出来る」


同じ事。

それは、織田作の異能と同じ?



「俺達の持つ、未来予測能力は万能だ。貴君だけが、俺を葬り、この抗争を止められる」

「織田作が、お前を…殺す?」

声が出た。男が、なまえを見やる。

「そうだ、女。ポートマフィアの人間ならば、敵の長たるこの俺を殺す事が本懐」
「…!お前が、ミミックの…?!」

にやり、と笑った男のその銃口が、僅かになまえに向けられる。
織田作が、静かに一歩。その前に立つ。

「大丈夫だ、織田作。わたしは、」
「…いや、王様がいたとしても、何が起こるか解らん。未来予測能力は厄介だからな。…ジイド、と言ったな。悪いが、俺は殺し合いには興味はない。俺は、仲間を助けに来ただけだ」

ひとつ、息をついて。織田作はいつもの調子で、そう告げた。

「なに、…貴君はマフィアではないのか!?」
「マフィアも色々だ。戦うことに興味はない」

織田作が、銃をあげてはゆるりと下ろす。未来予測がぶれているのか、或いは、相手の…ジイドの未来予測とぶつかっているのか。

織田作の予測する未来はなまえには見えない。なまえには、あの二人の間に何が起こっているのかが、解らなかった。


何が起こっているのか、解らなかった。
けれど、ただ、

織田作が無事であって欲しいと、

なまえは願うばかりだった。



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