可愛いものが好きだった。
つぶらな瞳のテディベア、ふわふわなボアコート、フリルとリボン、繊細なレース。
女の子が持っているものに憧れていた。
「男の子なんだから」…そんな言葉で片付けられてしまった春樹の願望。
少年らしいオモチャや服を与えられるよりも、妹や姉が着ている服が欲しかった。
大学進学を機に一人暮らしを始めた春樹は、鍵のかけられる秘密のクローゼットを手に入れた。
そこにはネット通販で買い集めた女性物の服や、コスメ、ウィッグなどが隠されている。
可愛いものを追い求めていくうちに、女装に手を出すようになってしまったのは自分でも予想外だった。
(でも、女の子の格好した僕、可愛いんだよね。着飾るのって楽しいし、ハマっちゃった)
女装した可愛い自分を見てほしいあまり、男の娘カフェ&バーでバイトをしている。
あくまで飲食店であって風俗店ではない。
だが、勤務時間が夜間のせいか、キャバ嬢のようにアフターに誘われることが多かった。
仲の良い常連客はそのままデートをしてタクシー代を貰って別れるのだが、お店に内緒でこっそりホテルに行く従業員もいる。
ただセックスを楽しむだけではなく、金銭のやりとりをして売春しているのも知っている。
春樹は男の娘と呼ばれる趣味を持っているが、恋愛感はノーマルだ。
男性相手に性的興奮は感じない。
だから、アフターデートは付き合っても、ホテルへの誘いに応えることはなかった。
――そんな春樹に痺れを切らした常連客が、ある夜、とうとう強引な手を使ってきた。
* * * * * * *
…デートの途中から記憶がない。
春樹の目が覚めたときにはベッドの上にいて、両手は縛られていた。
明らかに普通のホテルの一室じゃない。
ベッドヘッドには一枚の大きな鏡が貼り付けられているし、照明も紫がかっている。
安っぽく下品な“ホテル”。
執拗に絡んでくる常連客の男性が、傍らで春樹を見下ろしていた。
「!? なっ、何をしたの…っ!」
「あんまりツレないからさぁ、おじさん我慢できなくなっちゃった…。大丈夫だよ、副作用とか常習性のない薬だからね」
「こんなの犯罪だ!」
「そうだね、でもね、おじさんとセックスした後はどの子も警察にいったり訴えるなんてしなかったよ?」
春樹が剣幕も露わに詰っても、男はどこ吹く風で、にこにこと笑って衣服を脱ぎ始めた。
逃げようと身を起こしたいのに、手足に十分な力が入らない。
激しい憤りがすぐさま混乱に変わり、自身の状態を知ると、恐怖と絶望に染まっていった。
力が入らない。
こんなんじゃ逃げられない。
それよりもずっとおかしな事が小柄な身に起こっていた。
(…なんで? なんで僕のチンチン勃ってるの? これも薬のせいなの…?!)
ぶるぶると震えて怯えた表情を見せる春樹に、男は穏やかに笑いかけた。
「お尻にチンポ入れられちゃうの気持ちいいって、おじさんが教えてあげるからね」
春樹は悲鳴をあげた。
* * * * * * *
ピチャ… ちゅ、…ヂュルッ
くちゅ くちゅ くちゅ…
「っあ…はぁ…ん…、んっ」
こんな雌じみた声なんか出したくないのに、春樹は声を堪えることが出来なかった。
意味があるとは思えなかった男の乳首がこねくり回され、摘ままれ、爪で弄られるたびに性感体に変わっていく。
片方の乳首を濡れた舌でねっとりと舐めあげられ、音を立てて吸われてしまうと、春樹の声はいやらしさを増していった。
こんなの気持ち悪い。
気持ち悪い…――筈なのに。
今なんてお尻の穴の周りを犬のように舐めて、舌を押し込んで唾液を塗り込め、じゅるじゅると啜っている。
最低で、最悪だ。
それなのに。
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