同じ性別の男に痴漢されるだなんて。
――自分に降りかかる時まで、春樹は考えもしなかった。

* * * * * * * * * * *

ガタンガタン…
ガタンガタン…

混み合った電車内は騒がしい。
どうやら近くでコンサートがあったらしく、夜の9時を回ったというのに、まるでラッシュ時のようだ。
バイト帰りにたまたまこの混雑に巻き込まれてしまった春樹は、身を縮めるように俯いている。
他人の手によってまさぐられる下半身に、唇を噛んで耐え忍んでいた。
目の前の男は素知らぬ顔で電車に揺られながら、春樹の股間に悪戯を仕掛けてくる。

今すぐ突き飛ばしてやりたい。
怒鳴り散らして罵ってやりたい。

そうしたいのに実際は恐怖とひどい羞恥心で身動きも出来ず、声だって喉が凍ったように出せないでいる。
良いように体を触られる不快感。男に性欲を向けられる嫌悪感。身のやり場のない辱めに涙腺も弛みだしてしまう。

( …最悪だ…っ。なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ…! )

萎えたままだった性器は、悪戯される状況になれてしまったのか、少しずつ膨らみ始めてしまっている。
春樹の反応を悟った男の手が、勃起を促すように大胆に動いた。


「……ぅ…ーーっ」


こんなに嫌なのに。
刺激を快感として意識してしまったからか、男の手の内に血が集まりだしていく。
春樹の頬がカッと熱くなる。
生理的嫌悪よりも肉体的快楽が上回り、春樹の心情など置き去りにしてしまう。

( 嫌だ、嫌だ、止めてくれ…っ )

虚勢を張ることももう出来ない。
降りかかった災難と性被害の暴力に折れた心は、もはやそれを受け入れるしか出来なくなってしまった。
芯を尖らせていく春樹の下肢を触りながら、男は尻の狭間までグリグリと擦ってきた。
ズボン越しとはいえ後孔を弄られ、春樹はショックと同時に、その奇妙な感覚に……背筋を震わせた。


「……っ、! …?!」

( ――今の、な、なに…? )


おぞましさを感じるべきだった。
それなのに、驚愕の中にあったのは未知の刺激に宿った、ジリジリとしたものだ。

こんな混雑とした公共の最中。
同性の男によって痴漢をされている、屈辱と嫌悪は間違いなくあるのに……。
明らかに過ぎた行為をぶつけられ、春樹の胸の奥底で何かがざわめいた。

男の手が前から離れ、両手で尻を掴まれて引き寄せられる。
ズボン越しでもはっきりとわかるほど、男の股間は固く興奮していた。
ゴリ、と擦れ合った瞬間。
春樹の頭が真っ白になった。


「っ……ぁ…」


――身体中がビリビリする。

産毛が逆立つような、血が燃えるような、そんな情動が一気に駆けていった。

腕の中で震える春樹に腰を押し付け、電車や人波に揉まれる動きに合わせて、男は興奮しきった股間を擦り付けてくる。
尻たぶを揉んでくる手も、狭間を執拗に抉る指にも、春樹はされるがままだ。
出そうになる声を漏らさないようにと、気付かぬうちに男の肩口の服を噛んでいた。
熱い呼気が衣服を通して男の肌を湿らせる。

( ――あ…っ、だめ、…っ! )

春樹の腰がヒクヒクと震える。
下着の中でジワリと広がる感触。
……射精して取り戻した正常な頭が、春樹を狼狽させた。
興奮しきった男の吐息が耳や頬にあてられ、恐る恐る、肩口に立てていた歯を離した。

( 嘘だ…うそだ…、こんな… )

下着の中でしっとりと濡れて張り付く感覚に、春樹は唇を震わせた。
羞恥心と屈辱に涙が浮かんで、今にも落ちそうだ。


[次のページ]

≪back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -