春樹が梶原の部屋に監禁されたのは、一週間だった。
一週間、快楽漬けにされた。
たったの七日間で、春樹の身体は彼のものに馴染んで陥落してしまった。
心さえ、もう。

――『怖がらせてすまなかった。春樹、いい子だから、これからは必ずこの部屋へ帰ってくるんだよ』

八日目になってからようやく、梶原は春樹を閉じ込める事を止めた。
アパートの部屋は既に解約されていて、今は梶原のタワーマンションで暮らしている。
元の部屋から持ってこられたのは最低限のものだけで、衣服やスマートフォンは新しく買い与えられた。
大学にも変わらず通えている。
辞めさせられるかと思ったバイトにも行かせてくれている。
夜間のバイトだけは許されなかったが、それでも自由に外へ出してくれた。

――『俺が与えるものに囲まれて過ごす春樹が見たい。安心したいんだ。俺の願いを叶えてくれるか?』

大学生向けではないブランドの衣服。
財布、鞄、腕時計、靴。周囲にそうと知られることはないが、眼の肥えた者が見れば価値のわかる服飾品。
肌に残る梶原の移り香。
GPS追跡機能や盗聴器が組み込まれたスマートフォンに登録されているのは、本当に必要な人たちだけだ。
母には「ルームシェアをすることになったので、金銭に余裕ができたから安心して欲しい」と伝えてある。

――『考えてごらん。俺が春樹に与えるものをただ受け取るだけで、懸念していた家族の負担は少なくなる』

春樹が関わる何もかも全てを、把握して管理したいのかも知れない。
それでも家族との縁を切らないでいられるよう、配慮してくれている。
見逃してくれている。
どろどろに甘やかして、依存するように仕向けて、刻み付けて。
見えない首輪をはめられた。


* * * * * * *


広いバスタブに両足を投げ出して、春樹は汚れひとつない白い天井を見上げた。
贅沢な暮らしをしていると思う。
現状が誰から見ても“異常”だとしても、溺れそうなほどの施しだ。


「…梶原さん、今夜は帰ってきてくれるのかな…。連絡ないから、どうだろう……」


改まって聞いたことはないが、特殊な生業の梶原が、この部屋に毎日帰ってくることはない。
あのアパートの部屋があるように、また別の所にも部屋はあるのだろう。
一度聞いたコンシェルジュの呼び掛けは、“梶原”ではなく違う名前だった。
忙しい身で、それでも三日と空けずに帰ってきてくれる。

(……いつか、本当の名前…教えてもらえるのかな…)

――ふと考えて、直ぐに訪れた諦めの気持ちに首を振る。
立場もなにもかも違う彼と自分は、どういう関係に行き着くのだろう。
偽りの隣人から始まって、被害者と加害者になり、そして今は……。
ふ、と吐息をこぼす。
思い上がることのないよう、心に去来する熱へと何度も言い聞かせた。
自分はいわゆる“妾”というものだと、わきまえなければならないのだから。

コン、コン、

聞こえたノック音に思考が飛ぶ。
擦りガラスの向こうに人影を見つけ、春樹は慌てて上半身を起こした。


「梶原さん、お帰りなさい。迎えにも出なくてごめんなさい」

「ああ、ただいま。気にしなくていい。一緒に入っていいか?」

「は、はい」


衣服を脱ぎはじめた人影からそっと眼をそらして、火照る頬を両手で包む。

(…会いにきてくれた…)

嬉しいと素直に感じる心を、春樹はもう誤魔化す事が出来ない。
浮わつくこの気持ちを見逃して欲しい。
物珍しいから囲っているのかも知れないが、大事にされている実感はあるのだ。
溺愛といってもいいほど、大切に、丁寧に、春樹を扱ってくれている。
それが演技かどうかなんて人生経験の浅い春樹には分からないけれど。

――それでも良いと思っている。

触れてくる手も、甘くかすれた優しい声も、しっとりと落ち着いた穏やかな瞳も。
今は確かに目の前にあるから。


[次のページ ≫]

≪back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -