自然が豊富な地元にはキャンプ場がいくつかある。
一年中なにかと利用客はいるが、大型連休や長期休暇などのシーズンになると連日混み合うほどだ。
管理されているキャンプ場以外にも、川沿いや拓けた森林で楽しむグループも多い。
人を集める豊かさが地元起こしにはなるものの、そうなると残念だがゴミ問題も出てきてしまう。
看板などの注意喚起は梨の礫だ。
姫子は地域ボランティア団体の一人として、休日には周辺のゴミ清掃をしていた。


「流石はゴールデンウィーク。来る人が多いから、ゴミもいっぱい集まるなぁ…」


旧道を歩きながら投げ捨てられたゴミを拾い、そのまま近くの川へと降りていく。
分かりにくい脇道からこじんまりとした川原に出るので、知る人ぞと言う穴場スポットだ。
ここを利用していたのは一台のキャンピングカーだった。
屋根から張られたオーニングの下、リクライニングチェアでくつろぐ男性がいる。
姫子の気配を察したのか、手に持った本から視線をあげた。


「こんにちは」

「こんにちは、お休み中にすみません」

「地元の方ですか? あ、もしかしてここ、キャンプ禁止でしたかね…」

「大丈夫です、皆様もご利用されてますから。今日はたまたま清掃に来ていて…」


三十代なか頃だろう年上の男性は、突然現れた姫子にもとても丁寧だった。
普段から接している男性は声も態度も大きいので苦手だ。
観光客の男はそういった様子がない。


「ここについた時にもゴミが捨ててあったので、僕の方でも回収しておきました」

「ありがとうございます」

「いえ、貴女もお疲れ様です。良かったら少し休んでいきませんか?」


田舎にいる男とは明らかに違う。
理知的な雰囲気をして穏やかだ。
大人の男というものは、彼みたいな人のことを言うのかもしれない。
地元の高校を出て進学せずに就職したので、慣れない都会人の雰囲気に緊張してしまう。
どきどきしながらも姫子はつい勧められるまま、新しく用意されたアウトドアチェアに座っていた。


「せっかくのゴールデンウィークなのに、ボランティア活動して偉いね。遊びに行かないの?」

「どこにいっても人混みなので、出掛けるよりはいいかなって…周りに遊ぶところもないですし」


男は話し上手の聞き上手で、初対面だというのに会話が弾む。
二人でポツポツと言葉を交わしていくうちに、お互いの口調も砕けていった。
緊張が緩んで会話を楽しみ始めた頃、姫子は少し違和感を抱き始めていた。


「姫子ちゃん可愛いから、遊びに誘いたい男がいっぱいいただろうに」

「いえ、そんな…」

「俺だったらデートに誘いたいよ。いろんなことして遊びたいな。このキャンピングカーで出掛けたら、ホテル代わりにも使えるからね」


穏やかな優しい口調が、淀みない自然な言葉が、眼差しが、色濃くなっていった。
……健全だった筈の空気が、セクシャルなものに作り替えられていく。
肌を撫でるような男の視線に、姫子はうつむいて思わず膝を擦り合わせた。


「姫子ちゃん、せっかくだから中も見ていってよ」


その誘いに乗ってしまっても大丈夫なのだろうか。
寝泊まりに特化したキャンピングカーとはいえ、中は狭く、…逃げ場もない。
今はまだ紳士的ではあるものの、姫子を“女”として見る“異性”なのだ。
躊躇う様子の姫子を見て、男は姫子の腕をそっと引いた。
抵抗もできずに立ち上がる。

(……どうしよう…どうすれば…、でも勘違いかも…)

車内はまさしく小さな部屋で、コンパクトなキッチン、テーブル、冷蔵庫、小さいがテレビまである。
手を引かれるまま座ったのは、広げられたソファベッドの上だった。
ひとり旅だからかマットレスも布団も敷かれたままだ。
寄り添うように隣に男が座り、その距離感に姫子は体を強張らせた。
いよいよ雰囲気があからさまになる。
姫子は羞恥に頬を染めて震えることしか出来なかった。


「姫子ちゃんは今、付き合っている人…恋人はいるのかな?」

「い、いないです…」


生まれも育ちも田舎とは言え、交際経験も、男性との経験もある。
だから今あるこの雰囲気が“そう”だと判断することは出来た。


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