AV男優と一般素人がセックスする、いわゆる“素人もの”。
そういった類いのAVの存在は知っていたが、仕込みやサクラの女優だという裏話も噂で聞いている。
そんな素人企画が実際にあると知ったのは、上京していた友人との雑談でだった。


「そう言えばさぁ、この前、AV男優とシたんだよね」

「え、知り合ったの?」

「ううん、そう言う企画」

「企画って…じゃあ…撮影ってこと? 販売されるんでしょ、さすがにヤバいって」


複雑な家庭環境のせいかは分からないが、彼女は貞操観念が緩く、援交もキャバ嬢も風俗もしたことがある。
普段は気配りの出来る良い子なのに、肉欲に対してかなりオープンなのだ。


「顔にモザイクかかるから大丈夫よ。そう簡単に身バレしないって」


スマホを操作してその会社が発売している企画もののページを見せられる。
パッケージに写る複数の女性たちの顔は確かにモザイクがかけられていた。
サイレントで再生されたストリーミングにも、丁寧なモザイクがかけられている。
姫子も詳しくはないが、顔に完全にモザイクがかけられているのは、AVとしては珍しいのではないだろうか。
本当に“素人”を使っているというアピールなのかも知れない。


「男優チンコ、めちゃくちゃ気持ち良くてヤバかったぁ」

「ちょっと…いくらなんでも明け透け過ぎよ」

「だってだって、大きいだけじゃなくって、持続力とか、テクニックとか、すごいんだもん」


うっとりとする友人のその満足そうな顔に、燻っていた女の心が揺れた。
それが顔に出てしまったらしい。
友人は身を乗り出して、秘密を分けあうように耳打ちしてくる。


「姫子も経験してみない? 欲求不満なんでしょ?」


撮影中はスタッフに囲まれることはない。
設置された複数のカメラによって“セックス企画に応募した素人を内緒でハメ撮りAV化”という、隠し撮り風。
顔はモザイクがかけられる。
女を知り尽くした男優のセックス。

こくん、と喉が鳴る。
姫子は頷いていた。


* * * * *


体験者の紹介という形で行われた書類選考と面接は問題なく通り、後日、事前に打ち合わせと顔合わせがあった。
性病や疾患が互いに無いことの診断書の確認、報酬の交渉、アフターケアについて。
疑似精液の安全性と仕込み方。
撮影の流れは教えて貰ったが、指示は何もなく、素人らしく成り行き任せだという。

――そうして向かえた、当日。

ラブホテルの一室で、姫子はこの日、男優とソファに向き合って座っていた。
インタビュアーのように、男優が聞いてくる事に答える。
初めて体験する物への緊張と、不貞の後ろめたさと、…セックスへの期待。
不安を抱えながらも、姫子は逃げ出そうとはしなかった。


「自己紹介からしてくれるかな? 名前とかプライバシーに関しては後で編集で消されるから、安心してね」

「…はい…。ええと…姫子です。結婚してまだ1年目の主婦です。25歳になります」

「あれ? 結婚してるんだ。不倫になっちゃうけど…大丈夫?」

「…は、はい…。あの…うち、セックスレスで…」

「こんな若い体なのに気持ちいいことできてないなんて、辛いね…」


どこかに隠されているカメラを気にしながら、慣れた様子で行われるインタビュー形式の会話が続けられた。

『初めてセックスしたのは何歳?』
『今までの男性経験は何人?』
『オナニーはどれくらいするの?』
『オモチャって使うのかな?』
『好きな体位ってある?』
『最後に旦那さんとしたのはいつ?』

赤裸々な問いかけに答えていくうちに、残っていた不安が火を灯していく。
燃えて興奮に代わる。


「姫子さんはどんな風にされたいか希望はある? せっかくだからね、今日は全部叶えてあげるよ」


姫子は喉を鳴らした。
今日だけは、いやらしいことに素直になっても良いのだ。


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