なかなか寝付けない時がある。
どうしても眠れない。
何をしても落ち着かない。
そんな時は、危ないとは分かっているが、夜の街に出てしまう。
とはいえ、呼び込みがいるような街中を不用心に歩き回ることはない。
大抵は夜間営業や24時間営業のお店をうろついて過ごしている。

――訪れた不眠の時間を潰すために、姫子は映画館に来ていた。

(すごい、夜の12時を過ぎてもやってるんだ…)

昼間に見かけた映画館のポスターは、ナイトシアターの上映についてだった。
映画は昼間に見るものだと思っていた姫子は、明け方までやっていることに驚いた。
『眠れない時に来てみよう』
姫子はそれを思い出して映画館に足を運んだのだった。

全国上映のものから、B級、過去の話題作、そして深夜帯ならではのもの。
ぼんやりとしたかった姫子は、モノクロ映像の恋愛映画を選んだ。
シアタールームは広くはなく、観客も姫子を含めて4人しかいない。

…明かりが落ちる。
フィルム独特のノイズの走るモノクロムービーが始まった。

映画が中盤に差し掛かろうと言う頃。
スクリーンを眺めていた姫子は、暫くして、ふと、視界の端に揺れる影をとらえた。
何だろうとよくよく目を凝らしてみれば、暗がりの中で絡み合うカップルがいた。

(えっ、こんなところで…?)

人が少ないとはいえ他にも観客がいる。
公共の場で、キスだけならまだしも、…女が男の膝に乗り上げていた。
良く言えば情熱的、悪く言えば下品な猥褻行為。
執拗なキスをしながら女の腰がいやらしくくねり、時折、上下に揺れる。

姫子は思わぬものを見てしまった驚きでドキドキと鼓動を早め、そのふしだらな2人から目をそらせないでいた。

(…そんな…大胆すぎる…、あ…、うそ……背中そらせて…)

……すごく気持ち良さそう…。

姫子はハッとした。
何てことを考えてしまっていたんだろう、慌てて彼らから視線を引き剥がす。
じゅわ…と下半身が濡れた気がして、気持ちが落ち着かない。
興奮と戸惑いで胸がざわざわして、意味もなくあちこちに視線を彷徨わせる。
その先で中年の男と目があった。

欲情というのは伝染するのだろうか。
絡まった視線が外せない。

ドキン、ドキン、ドキン

座席から立ち上がった彼が、姫子へと近寄ってくるのを目で追う。
席を立って逃げることもしない。
小さなシアタールームは直ぐに距離がなくなり、彼は姫子の隣のシートへ腰を下ろした。
お互いを見つめる視線がいやらしい熱が灯っていて、誤魔化すことも、知らないふりも出来ない。
言葉もなく、顔が寄せられるのに合わせて、姫子は目蓋を下ろした。
男の唇と触れあう。

(…初対面の人とキスしてる…)

何度も擦り合わせるように唇を押し付け合い、はぁ…、と漏れた吐息を辿って濡れた舌が唇をなぞる。
同じように姫子も男の薄い唇に舌を這わせれば、互いの舌が出会い、そのまま舌先で戯れる。
どちらのかもわからない唾液が、ポツン、と落ちていった。
被さるように男が身を乗り出し、舌を差し入れて下品で淫らなキスをする。


「ん……ぁ… はぁ… んちゅ…む…、クチュッ…、んっう… ふぁ…」


口内に溢れてグチュグチュに泡立った唾液を何度も飲み込む。
絡まり合って吸われて嬲られる舌が痺れてきて、顎も開きっぱなしで苦しいのに、もっと、もっと、……いやらしいキスをしていたい。

キスをしながら、ふと、手首を掴まれて導かれるまま、男の股間へと触れていた。
掌の下に感じる膨らんだ男性器の形や堅さに、姫子は胸をドキドキと高鳴らせた。


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